~愛情~ 誰しもの心に寄り添う音楽

「Nearness Of You―The Ballad Book」Michael Brecker


聴くと、何故か幸せになれる。

穏やかになれる。

優しくなれる。

珠玉のバラードが、ここにある。


本作は、マイケル・ブレッカーというサックス奏者によるスタンダード集。

メンバーがとにかく凄すぎる。

ピアノにハンコック、ギターにメセニーを呼ぶという欲張り編成。

失敗するわけがありませんね。


最大の魅力は、味付けの上品さ。

バラードは常にそこが問題となるのです。

特に甘さが大事なんですが、濃すぎると下品になる。

しかし薄すぎるとバラードではなくなってしまう。

そこにおいて、当アルバムは何の問題もありません。

全幅の信頼を置いて、感情を委ねてください。



1.「Chan's Song」


ハンコック作。

テーマがずば抜けてジェントル。

シンプルで、温かい素朴なメロディ。

左に動きのあるハンコック、右に包むようなメセニーのハーモニー。

そして、ブレッカー。

アクセント、装飾、音色。

全てが完璧。

テクニカルなのに、どこまでも親しみやすい。

非常に洗練された、現代らしいプレイをします。

アルバムのトーンをセットする、最高の一曲目。


2.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」


アルバムのハイライトその一。

イギリスのシンガーソングライター、ジェイムス・テイラーの曲。

なんですが、そのテイラーが歌いに来てます。


最初、ピアノだけをバックに歌声を披露するのですが、

これが最強。

イケボすぎて泣きます。

あと、曲がエモすぎる。

メロディといいコードといい、アメイジングでしかない。

夜に聴いたらヤバイです。


合間に入るサックスの合いの手。

メセニーの柔らかい伴奏。

チャーリー・ヘイデンの重たいベース音も染みます。

終盤のアレンジもえぐすぎる。

もうこれ以上は説明できそうもないので聴いてください。

絶対に聴いた方がいいと思います。


3.「Nascente」


ピアノとギターのアルペジオが目立つ、モード調のマイナーなイントロ。

からの、強度の高いテーマ部。

メロディの上下が激しく、感動的です。


アドリブはマイナーモード上で取られるのですが、

メセニーが怪演を見せます。

自慢のシンセギターによる、浮遊感ある音色。

平行移動するマイナーコードを自由自在に行き来し、

情熱的に弾き切ります。


からの、ハンコックも素晴らしい。

理性的な音選び。

的確なインアウトフレーズ。

なんというか、青色を思わせます。


となれば、当然リーダーも負けていられない。

キレのいいブロウ。

突き抜ける高音。

熱量でバンドごと引っ張っていく。


全体のスピード感を支えるドラミングも素晴らしい。

降りしきる雨のようなシンバルの空間操作。

盛り上がりで入るタムの勢い。


そして、またテーマに戻るのですが、

これが雨上がりの虹のような壮大さ。

感動を禁じえません。

ここも、必ず聴いてほしい。

バラードというよりはアドリブ主体の曲ですが、

流れの明確な構成美を誇る曲です。


4.「Midnight Mood」


印象的なベースラインから始まるリラクシングな曲。

メロディも単純でおおらか。

まさにバラードと言ったところ。


こういう場面で活きるのは、ヘイデン。

彼のベースは、正確なリズムでバンドを支配します。

低域の厚い音色で、深く沈み込むように響く。

裏方のスペシャリストと言えるでしょう。


ブレッカーの吐息交じりの音色も素晴らしい。

スローな曲に生きた質感を与えています。


5.「The Nearness Of You」


再びのジェームス・テイラー。

ハイライトその二。

表題曲でもあるので、それはそれは名曲です。


序盤、ボーカルを一人で支えるメセニーの指弾き。

これはヤバイです。

優しすぎる。


それから、ブレッカーのアドリブ。

伸びが凄すぎる。

高音の音色が本当に崩れない。

芯が強い。


そして、アレンジ。

感情の曲線をめちゃくちゃ綺麗に描き出します。

寄与してるのは、ドラム。

ディジョネットの色付けが豊かで最高。


これももう語彙力の限界なので聴いてください。

必ず損はしません。


7.「Sometimes I See」


メセニー作の物悲しい曲。

彼らしくメロディアスで動きのあるテーマ。

それを奏でるブレッカーの切ないトーン。

柔らかく包み込む四人。

物凄くムードがあります。


ブレッカーとメセニーのアドリブの違いを楽しむのもいいでしょう。

ブレッカーの段階をキッチリ踏んでいくような整然としたプレイ。

対してメセニーはとにかくカラフルで、抒情的。

どちらも個性溢れる、確立されたスタイルです。


8.「My Ship」


音価に合わせて一体に動く、印象的なテーマ演奏が特徴。

駆け上がるメロディを最大限に活かしています。

素晴らしいアレンジですね。


今更ですが、卓越したコード楽器が二つある効果が大きい。

しかも二人が阿吽の呼吸でお互いを補い合うのだから、まさに敵なし。

楽曲の出せる色合いを、マックスで出し切ります。

ベースがヘイデンなのも、相性がいい。

彼は音数を減らして輝くプレイヤーなので。


さらにドラムについても言うなら、

ディジョネットはピアノとベースもプロ並みの腕前なので、

楽曲理解度が桁違いに高い。

物語れるドラムなのです。



まとめ


現代の最強メンバーによる、最高のバラード集。

いかがでしたでしょうか。

私自身大好きなアルバムで、よく薄暗い部屋で一人聴いています。

愛情で溢れ返りたいときに、是非。

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ジャズ、ディスクレビュー by hugo hugo @hugo23

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