第165話 大地の決断

 愛梨さんと一緒に夜道を歩き、俺の住むアパートへと到着する。

 愛梨さんはそのまま当たり前のように俺の後ろにぴったりと着き、階段を上っていく。

 どうやら、家に上がり込む気満々らしい。

 半ば愛梨さんが家に上がり込むのを半ば諦めつつ、外廊下を歩いていくと、俺の隣の部屋から騒がしい声が聞こえてくる。

 優衣さんの部屋からだった。


「優衣さんの部屋、随分と騒がしいですね」

「ふっふっふ……さあ、大地。こっちに入った入った」


 すると、突然愛梨さんが俺のの腕をがしっと掴んで、そのまま強引に強制的に引っ張ってくる。

 そして、愛梨さんはインターフォンを鳴らすことなく、そのまま優衣さんの玄関の扉のドアノブに手をかけて、勢いよくドアを開け放った。



「大地、愛梨さん、お疲れ様―!!」


 すると、開け放ったドアの先では、ローテーブルを囲んだ美少女五人が、俺と愛梨さんへ祝福の拍手を送ってくれていた。

 テーブルの上には、大量のから揚げやフライドポテトなどが山のように乗っかっている。


「えぇっと……これは?」


 俺が困惑していると、愛梨さんがとんと背中を押した。


「ほら大地、早く入った入った。これから二次会の始まりよ」

「に、二次会!?」

「そう、二次会」


 含みのある笑みを浮かべて、愛梨さんが微笑む。


「いやぁー。だって、あんなに恥ずかしい格好までして大地君を応援したわけだから、私達だって祝勝会に参加する義務があったと思うんだよね」


 腕組みをしながら、しみじみと首を振る優衣さん。


「うん、あれはドラマよりの撮影よりも緊張したよ」


 そう言って、苦笑いを浮かべながら昼間のことを思い出す綾香。


「私が丹精込めて作った唐揚げなんだから、感謝して食べなさいよ!」


 自分の作った料理だと、自慢げに胸を張る春香。


「ささ、大地君と愛梨さんもこっちに来て! 何飲みたいか選んで!」


 靴を脱いだ俺は、そのまま萌絵に促されてテーブル前まで運ばれて、テーブルに置かれていた紙コップに飲み物を注いでいく。

 俺はコーラ。愛梨さんはジンジャエールを注ぎ、全員がコップを手に持った。


「それじゃあ、お姉ちゃんと大地。そして、私達の応援お疲れ様を称して、乾杯」

「乾杯!」


 愛花が乾杯の音頭をとり、賑やかな二次会がスタートする。


「いやぁー、それにしてもまさか大地君があんなにサッカー得意だとは知らなかったよ」

「本当にそうですよね! 私も驚いちゃいました」

「あはは……それはどうも」


 優衣さんと萌絵に褒められて照れくさくなり、思わず頭を掻く。


「そうよ! 昔から大地はすごかったんだから!」


 ここぞとばかりに胸を張ってドヤ顔の春香。


「それにしても、六得点はすごかったね」

「私たちの応援のおかげ。大地との愛の力」

「愛の力かどうかは分からないけど、みんなの応援あってこそだと思ってるよ。本当にありがとう」


 改めて五人に対して感謝の意を述べる。

 すると、くいくいと袖を引っ張られた。

 顔を向ければ、むくれっ面の愛梨さんが不満そうな表情を滲ませている。


「大地、私は?」

「愛梨さんも、何度も絶妙なパスを供給してくれてありがとうございます。おかげでゴールを量産できました」

「そうよね。私の愛が成熟して詰まったパスだものねー!」

「えぇー? それにしては結構えげつないパス出してたような気がするけど」

「お姉ちゃんのパスはキラーパス。大地がうまいだけ」

「ちょっと、萌絵、愛花!? 私だって6アシストしたんだから、少しは労って!」


 二試合消化後だというのに、愛梨さんは元気いっぱいという様子でツッコミを入れていた。

 まあでも、一時はギズギズしていた寝泊りフレンズたちの関係性も、こうして何かのきっかけで仲良くなってくれたのならば、俺としても悩みの種が減ってくれて、助かるんだけどなぁ……。

 けれど、この平和な時間が続かないことは、俺も分かっている。


 これから、このいい雰囲気を、自らの手でぶち壊しに行かなければならないのだから。

 俺は一つ咳払いをして、皆の視線を注目させる。


「みんな、ちょっといいかな?」

「ん、どうしたの大地?」


 全員が俺の方を向き、それぞれが首を傾げる。

 この和やかなムードをここで壊すことは居た堪れないけれど、ここで言わなければ二度とチャンスは訪れないかもしれない。


「その……例の勝負の件だけどさ……俺の中で決着がついたんだ……」


 意を決して俺が言い切ると、彼女たちは唖然とした表情を浮かべた。


「えっ……」

「それって」

「大地の」

「好きな人が」

「決まったって」

「ことだよね!?」


 六人の息の合ったコンビネーションの問いかけに、俺はコクリと頷く。

 辺りが静まり返り、皆が一斉に固唾を飲んで状況を見守るのがわかった。

 天国とは地獄とは、まさにこのことなのだろう。

 和やかだった雰囲気が、殺伐とした雰囲気へと変化していくのが、ひしひしと伝わってくる。


「ええっと……それ今から言う感じ?」


 萌絵の問いにコクリと頷く。


「ちょっと待って、まだ心の準備が……」

「うん、出来れば今じゃない方がいいなぁって……」


 困惑と戸惑いの表情を浮かべる愛梨さんと優衣さん。


「でも、次全員が集まれるのもいつになるかわからないし」

「いや待って! それじゃあさ、今現状日替わりで大地の家に寝泊りしてるわけだからさ。この際一人ずつ順番に言っていくっていうのはどう? その方が、いいと思うんだよね! ほら、これってさ……告白? みたいなものだし……」

「確かに萌絵の言う通りかもしれないな。ここでいきなりってのも、相手に対して不誠実だよな」


 効率ばかりを考えていたけれど、彼女たちの気持ちを考えれば、一人ずつ誠実に言葉を述べた方が良いだろう。


「わかった。それなら一人ずつ、順番に言っていくことにするよ」


 萌絵の機転に乗っかり、俺は今発表するのを留まった。

 フレンズたちからは安堵の溜息が聞こえてくる。


「ごめん、なんか雰囲気悪くしちゃって、続きしようか……」

「うん、そうだね!」


 そう言って、再び二次会を再開した。

 けれど、全員が俺の言葉に動揺しているせいか、盛り上がりに欠けるものとなってしまい、少し空気が重苦しいものになっていた。


「俺、ちょっと外の空気吸ってくるよ。みんなは楽しんでて」


 ここは、当事者である自分が居なくなることで、少しは改善するだろうと思い、俺は自分の頭の整理も兼ねて、外へと出ることにしたのであった。

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日替わり寝泊りフレンド さばりん @c_sabarin

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