第164話 質問攻め

 学内対抗サッカーサークル大会、最終結果2勝1分け2敗の総合3位。

 万年最下位続きだったサッカーサークル『FC RED STAR』にとっては、大躍進の年となった。

 おかげで、大会後の打ち上げも、和やかな雰囲気で執り行われていたのだが、俺の周りだけは妙に騒がしい。

 それもそのはず、大会全得点をたたき出した立役者でもあり、今大会の功労者と言っても過言ではないのだからちやほやされて当然……!

 と、言いたいところだったのだけれど、サークルメンバーたちの話題は、俺のプレーではなく、突如チアガール姿で現れた五人の大地美少女応援団の話題で持ちきりだった。


「なあ南、お前は一体何者なんだ?」

「どうやったらあんな美人で可愛い女の子たちとお近づきになれるんだ?」

「あのコスチュームは、お前が指示して着せたのか?」

「しかも、女優の井上綾香までいたよな?」

「ってか、そもそもどういう関係なんだ!? お前は中村先輩と付き合ってたんじゃなかったのかよ!?」


 答える間も与えぬほどの質問攻めに、俺はたじたじになってしまう。


「ちょっと、皆さん落ち着いて……」


 俺が皆を制止しつつ、輪から外れて他の女子メンバーたちと楽しく談笑している愛梨さんへ助けの視線送る。

 すると、ちらっと愛梨さんがこちらを見て、ウインクをしてきた。

 あのチアコス姿で彼女たちをこの場に召還したのは愛梨さんの仕業なのに、場を収めるのは手伝ってくれないらしい。


 困り果てた中で、質問に対してどう答えようか悩んでいると、突然肩を掴まれた。

 冨澤先輩が陽気な様子でけらけらと笑いながら絡んできた。どうやら酔っぱらっているらしい。


「まあ、南が女ったらしのやり手ってことはよくわかったじゃねーか。こりゃ、中村先輩もうかうかしてられねぇってことだ、がーはっはっはっは! な、勝利の立役者さん!」

「は、はい……」


 テンションの高い富澤先輩に、苦笑いで相槌を打つ俺。

 けれど、みんなが俺のためにあんな格好で応援してくれたのは、心の底から嬉しかった。

 男の子は誰だって、可愛い女の子に応援されたら心がざわつくし、胸の内が熱くなる。

 身体中から滾る熱い情熱のおかげで、最高のパフォーマンスを披露することが出来るというものだ。


 そして、今回の奈菜さんとの一件により、俺は改めて、このままではいけないと決意を新たにした。

 自分の心に嘘はつかない。

 一人一人と真剣に向き合って、その答えを皆に口にすることを自分の心に誓う。


 嵐のような祝勝会が終わった後、俺は足早に愛梨さんとサークルの輪から離れて、駅へと向かう。


「お、中村が南に嫉妬してるぞー!」

「正妻のお説教タイムだ!」


 などと、周りが冷やかしていたが、愛梨さんは気にする様子もなくその場を後にした。


 二人きりになり、駅前の道を歩いている時、ふと愛梨さんが息を吐いた。


「チアコスが随分とお気に召したようね」

「まあ、悪い気分ではないです」

「そうよね。あんなに可愛い女の子たちを、公衆の面前でコスプレさせてまで応援させるのだから、それは気持ちいいわよね」

「濡れ衣だ! 絶対愛梨さんが仕組んだ罠でしょあれ!」

「当たり前じゃない」


 愛梨さんは開き直ったように言ってから、盛大にため息を吐いた。


「はぁ……せっかくサークル内ではカップルって設定で行こうと思ってたのに、大地のせいで計画が台無しよ」

「やっぱり、サークル内ではそういう設定だったんですね……」


 面と向かって改めて事実を言われると、少し何とも言えない気分にさせられる。


「まあでも、これであの泥棒猫からも大地が無事解放されたことだし、また正々堂々と勝負できるわね!」


 そう言って、にっこりと微笑む愛梨さん。

 その無邪気な表情に、少し安堵感さえ覚えてしまう。

 けれど、彼女にもいずれ言わなければならない。

 俺の心の中では、もう既に決着はついていることを……。

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