第163話 決意と決断。そして別れ

 試合開始早々、早速チャンスが訪れる。


「フレッ、フレッ、大地! ガンバレ、頑張れ、大地!」


 フレンズたちの応援が響く中、俺は前線ゴール前へと一気に駆け込む。

 愛梨さんは、相手一人をかわして、タイミングを見計らったように絶妙なパスを俺に供給する。


 俺は後ろ向きのままトラップをして、一気にゴール前へドリブル。

 そして、みんなの思いを届けと言わんばかりに、思いきり右足を振り抜いた。


 俺には、心強い仲間が付いているから、今必要なのは奈菜先輩じゃない。

 もっと違う意味で、俺は大きな決断をしなくてはならないことに気づかされた。

 吹っ切れた今の俺には、怖い敵など誰もいない。

 ボールはゴールネットに突き刺さり、南大地は新たな境地への一歩を踏み出した。



 ◇



 終わってみれば、試合は6—1の快勝。

 俺の6得点は結果として、寝泊りフレンズたちへ向けて、一点ずつのプレゼントゴールとなった。


 全日程が終了して、片づけ作業に入る中。

 皆が俺の元へと集まってきた。


「いやぁー、大地君って本当にサッカー得意なんだね。びっくりしたよ!」


 チアコス姿の優衣さんが驚けば。


「まっ、そりゃ高校まで伊達にサッカー部だった大地なら当たり前よね!」


 まるで自分のお手柄というように自信満々に胸を張るチアコス幼馴染。


「大地は有能、これ常識」


 簡素に俺を褒めてくれる現役JKチア愛花。


「にしても、六得点はすごすぎでしょ!?」


 驚きを隠せない様子のチアコス萌絵。


「ま、私の愛のパスが功を奏したのは間違いないわね」


 六得点できたのは、自分のおかげだと鼻を高くするユニフォーム姿の愛梨さん。


「確かに愛梨さんのパスは、針の穴を通すような一級品でした!」


 愛梨さんをほめたたえる現役女優チアリーダ。


 六人で仲睦まじく談笑する姿。

 あぁ……これこそが、俺が望んだみんなが平和に過ごす世界。

 寝泊りで争うなどせず、皆平等に仲良くしてくれて、俺はなんて幸せ者なんだ。

 感動の涙を流しそうになりつつも、俺はみんなへ向き直る。


「みんな、今日は俺のために応援に来てくれてありがとう。おかげで最高の結果を出すことが出来たよ」


 俺が深くお辞儀をして皆に例の言葉を述べると、皆は不思議そうに顔を見合わせた。


「何言ってるの大地君!」

「私たちはただ、大地を奪おうとする泥棒猫から大地を守りに来ただけよ!」

「ど、泥棒猫!?」

「そう、泥棒強奪猫」

「まあ、大地君の元カノさんってこと?」

「あぁ……」


 なるほどね。

 つまりは、俺が奈菜先輩にみんなとられたと思って、急遽駆けつけてくれたのか。

 まあ、誰が事を大きくしたのかは予想つくけど……。

 ジト目で愛梨さんの方を見ると、愛梨さんはお茶を濁すように咳払いする。


「まっ、私達はライバル同士でも、大地を想う気持ちは皆同じだからね」

「そういうこと。だから、みんなで大地君を応援しようってことになったんだよ!」


 綾香が付け足すように言ってくれる。

 俺は上京してきて、心強い信頼できる女の子たちと仲良くなれた。

 だからそこ、彼女との関係性に、きっぱりと終止符をつけなくてはならない。


 俺が愛梨さんたちに囲まれてる姿を、遠目から見ている彼女を見つけて、視線を合わせる。

 俺は、ゆっくりと彼女の元へと歩いていく。

 彼女の元へ向かって行くのを、止める者は誰もいない。

 俺の心の中での答えが出ているのを知っているかのように、皆快く送り出してくれているように思えた。


 奈菜先輩と向かい合うと、先輩はにこやかな頬笑みをたたえた。


「あれが、今の大地の大切な女の子達なんだね」

「はい……だからごめんなさい。俺は奈菜先輩ともうお付き合いすることはできません」


 きっぱりと言い切った別れの言葉。


「そう……なら、仕方ないわね」


 奈菜先輩も諦めたような表情で肩をすくめる。


「でも、いいの? あのままだと、いずれ彼女たちも傷つけることになるわよ?」

「分かってます。だからそこ、決断は早い方がいい。そうですよね?」


 俺が奈菜先輩に尋ねると、少し驚いたような表情を浮かべて、すぐに表情を和らげた。


「分かっているのならいいわ。なら、もう大地の中ではどの子にするか決めたのね」

「はいっ……!」


 俺の心の中で決めた決意が揺るがぬうちに、はっきりと返事をした。


「なら、私から一つ忠告」


 そう言って、奈菜先輩は明後日の方向を向いて語り出した。


「彼女たちを傷つけた上で、諦められない子も出てくるかもしれない。それでも、大地は自分の信念を貫きなさい」

「はい……分かりました」

「それじゃ、バイバイ、大地……」


 軽く手を振って、奈菜先輩は踵を返すと、オーランサークルのメンバーたちの方へと戻っていった。


 もう振り返ることはない。

 奈菜先輩も俺も、過去の未練を無くして、払拭した瞬間だった。

 俺は、これから起こるすべての可能性を加味して、自分で全ての責任を負うことを心に誓った。

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