それでもこの冷えた手が

白地トオル

それでもこの冷えた手が

 は人を強くすると言うけれど、僕にとって別れは「諦め」でしかないのだから「強くする」というのは的を得ていない。人との出会いや繋がりを絶つということは、その人と向き合うことから逃げているだけの、恣意的な感情が導き出したクソみたいな行動の結果だ。


 その点、は人を強くする。初対面の人間と話すだけで自分の人間強度がめきめきと成長していくのを肌で感じる。一言一句、一挙手一投足、全てに神経を注いで、相手と電波を交わす。息を呑むようなラリーの応酬に血がたぎる。頭のつむじから足のつま先まで血潮が巡り巡って僕を強くする。


 冷たくなった彼女の手に触れたのは、その時点でであり、であった。


 僕は弱さと強さの境界線に立っていた。

  

 誰とも分からぬ彼女の亡骸の側に立って僕はまず己が身を案じた。こんな所誰かに見られでもしたら困る。

 ……彼女の首筋には青紫の指の痕。絶命するその時まで強く絞められた手の指の痕。だが意外にも彼女の顔は安らかに見えた。憎しみを込めて絞殺されたにも関わらず、だ。そんな女性がこの世に何人といる? 愛する人に殺されたいと願う女性が何人といる? そんな人間などいない。少なくとも僕は一度もそんな人間に会ったことがない。


 やっと出会えたよ。

 



 了

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