神世とひと世とが流れ込みあう時代、少女の願いを根として咲いた物語が綴られています。均整を保ちつつ、まろやかさを含んだ文体が読了までの導きとなって、妖しくも美しい世界を追体験できます。その心地よさに、かならずこの物語を、そして少女たちの生の記憶を、こころのなかへと収めずにはいられなくなるでしょう。
いっときの美しくも儚い夢を見ていたかのような読後感です。百合の花を体に宿らせた若き姫君の生の歩みが、やわらかで雅やかな文体でつづられており、独特の平安幻想を作り上げている物語です。切なく麗しい独自の世界があるだけでなく、短編としての完成度も高いため、一気に引き込まれて読み終えました。平安時代や、女性同士の交流のお話が好きな方はもちろん、もっと広く様々な方におすすめしたくなるような、胸に静かにしみる素敵な作品です。