第4話 失

 僕は根木さんのアドバイスのもとで報道番組にてMCをさせてもらえるとのことだった。そして今日、この建物で行われる会議は今後の番組の方向性を決める重要な会議だ。今日はマネージャーと出席する。


「皆川君、ニュース番組だからって、別に硬くなりすぎる必要はないからね。」

「ありがとうございます。」

「じゃぁ、そろそろ報道局の方が来るからちゃんと挨拶して始めましょうか。」


少しおしゃれをした男女が入ってきた。

「こんにちは。君が皆川君だよね。話は聞いてるよ。恥ずかしながらこの前はじめて作品を読ませてもらったよ。いやぁ、こいつがどうしてもって薦めてくるから。」

「そうはいっても、いい作品だったでしょ。やっぱり生田さん、皆川君に受けてもらってよかったでしょ。」

「ごめんごめん、こっちばかりで喋ってて。

この間お渡ししたプリント読んでいただけました?」

「はい。とても興味深い内容でした。」

その時、マネージャーに電話がかかってきた。

電話に出るらしくごめんねのポーズをしながら部屋から出て行った。

「小説かにそんなこと言われるだなんて光栄だなぁ。

じゃぁ、早速どのニュースを扱うかの話なんだけど、皆川君が興味あるジャンルってこの中にある?」

そうやって出されたのは数枚のカード。

「政治・スポーツ・経済・テクノロジー・外交・芸能ニュース・週刊誌の内容を使った番組ってあるんだけど。」

「そうですね・・・。テクノロジーですね。」

「そうかぁ、ちょっといい?」

「はい、何ですか?」

「放送時間が変更になるんだけどいいかなぁ。」

 そうやって足元から出してきたのは深夜枠で収録されたものを放送するというものだった。

「なぜ深夜枠に急に変わるんですか?」

「やっぱり芸能ニュースのことをやるべきだと思う。」

「は?」

「やれって言ってんだよ。ここに来たからにはちゃんとやってもらわないと。」

「そんなこと書いてなかったじゃないですか。」

「だから何だよ。」

「生田先輩、どうしたんですか。」

「うるせぇ、黙っておけ。」


 僕は黙って局を後にした。三か月後放送開始時には違う人が僕の穴を埋めていた。

そしてかなり偏った内容のニュースをしていて様々な他の番組でその番組は酷評されていた。

 あの日からもう一月がたつ。

僕はもう一度活動休止をしたいといった。

僕は休ませてもらえた。タレント業を、半永久的に、だ。もうしなくてもいいと言われた。


 僕はやめた。小説を書くことも、テレビに出ることも。もうすべてやめてただのクラスであまり目立たない男子高校生になった。そうしてどれくらいたった年月が経った頃の事だろう。僕は偶然会った。



「すいません、皆川春樹さんですよね。」

最初は違いますと答えていたがしつこさのあまりそうですと答えてしまった。


*


近所の公園をジョギングしていた時の話だ。

「ですよね。私、瀬古敏弘と申します。フリーで犯罪ジャーナリストをやってます。まぁ、覚えてないですよね。私先日、ネットニュースの会社を辞めまして。

いやぁ、ほんとに子供二人いるのにどうやって生活していくの!って怒られちゃいましたよ。」

「瀬古敏弘…、ネットニュース…、あっ、もしかして。」

「そうです。私が瀬古です。この度はお詫びをしたかったと思っていたんでお会いできてうれしかったです。」

「いや、もういいです。失礼します。」

僕はベンチから立った

「あともう一つ!」

「何でしょうか?」

「竹中薫って知ってますか?」

「誰ですか?」

「なら、桜木薫ならわかりますか?」

「さく…、あぁ。そんな奴もいましたね。」

「彼女は今月末、出所します。」

「それがどうかしましたか。」

少しの沈黙の後、僕は踵を返してジョギングを再開しようとしたとき、

「また、」

僕は振り返った。

「また、小説書いてくださいませんか!」



「僕は・・・。」

黙り込んでしまった。

そんなこと、しばらく考えていなかった。ただ表現は稚拙になっているだろう。

付き合う友人が変わった。会社でそれなりの地位に就いた。それなのに全て捨てることはあるだろうか。あの時の様に。


「もうすべて、捨てたくはないんです。」

「そうですか、お忙しいのにすいません。・・・私は、」

風が僕らに桜の花びらを届けてから彼は言った。

「▲ ◆ ◣ ● ■ !」


*


 別に後悔なんてしていない。

もう一度、全て失うことを決めた。書き始めた。小説を。

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灰色の僕と多分桜色のきみ 西野結衣 @yui_nanase

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