第3話 コメンテーター
テレビのコメンテーターは偉そうに知ったかぶって僕の事や小説業界のことを
語っている。もちろん全員がそうではないことはよくわかっている。僕のタレント業務についてのことを語っているときには出版社の一部の編集者が嘲笑している様子が
よくわかる。
僕はテレビを結構見る方だったが、この出来事を機に定時の五分から十分程度のニュース番組しか見なくなっていた。僕が一体テレビ局にどんな悪影響を及ぼしたのか
教えてほしい限りだ。
そして学校では僕は一躍話題になった。学校全体で、だ。今まで小説を何百冊と読んでいる僕や白石(前話にて登場)とはけた違いの国語力や語彙力で僕や彼に質問をし
てくる。さすがは部長候補とだけあっての事か、大体こたえられる範囲内で答えて、
必ず最後には文学部の勧誘をしている。僕はそこまで気が回らない。いつも、しゃべる相手といえば白石しかいない。
結局そんなことがあっても一か月もしないうちに世間と一緒に冷めていった。僕にとっては良かった。
そうして、僕はラジオ番組もどんどん普通に、まぁ僕が出ているからかある程度は人気もありといった感じで放送中止には至らなかった。
そんな中、事務所の人が
「ニュース番組のコメンテーターをやって見ない?
多分、皆川君の感性を活かすことができる仕事だと思うんだけど。」
僕は
「遠慮しておきます。この間、あんなこともあったし、僕みたいな根暗な人間が
テレビに出たってどうってことありませんよ。それだったら他の適当なコメンテー
ターにでもやってもらってください。」
マネージャーは
「でもね、皆川君がこれまで以上に活躍できるかもしれない。だってこの間、皆川君言ってたじゃん。ニュースで僕の事ばっかり扱っている昼間のワイドショーはおかしなやつばかりだ、なんて。」
すかさず僕は
「そんなおかしなやつばかりのところに僕が出て行っても目の敵にされるだけですよ。」
と答えた。
少し、事務所の数名が考えて、目を合わせて十秒くらい経過しようとしたとき、僕のことを一緒に仕事やらない?とスカウトしてくれた根木さんが
「じゃぁさ、こんな仕事はどう?」
とホッチキス止めされたプリントを渡してきた。
「えぇと、これは要するに僕がぁ、」
「うん、そういうこと。その仕事なら、皆川君が好きな話題を扱えるし、今まで以上に感性を大事にできる仕事かもしれないよ。あ、もちろん小説を除いてね。
しかも放送時間を見て。」
「えぇと、二十一時から二十二時ですか。あ、たしかこの時間あの局でニュースやってましたよね。」
「直接対決だよ。これ以上ないくらいの仕事でしょ。」
「でもこれ労働基準法的に大丈夫なんですか?」
「これがぎりぎり大丈夫な時間なんだよ。」
「分かりました。」
「お、やってくれるのかい。」
「一度持ち帰って検討します。」
「あぁ、持ち帰れ、持ち帰れ。」
僕は小学生の時からの信頼している出版社の瀬古さんに相談した。
瀬古さんは今他社の引き抜きでネットニュースの会社で働いている。
すると、
「面白そうじゃん。君の活躍を待ってるよ。
Fight!【笑顔の絵文字】」
と返ってきた。
この絵文字には見覚えがある。
そうだ、桜木だ。桜木は今どうなっているのだろうか。
ネットニュースで確認しようとした。
僕は目を見開いた。早速記事になっているではないか。
瀬古さんに言ったことがそのまま。
僕は驚いて、瀬古さんに電話した。
瀬古さんは出なかった。
次の瞬間、僕の携帯に事務所から電話がかかってきた。
「皆川君、なんでネットニュースになってるの?」
「引き受けようか、瀬古さんに相談して、そしたらすぐに。」
「たしかに。とっても短い記事だからその可能性が高そうね。」
「ごめんなさい。僕、どうしたらいいですか。」
「ちなみに、皆川君は仕事受けたいと思ってた?」
「はい。」
「じゃぁ、記事はそのままにしよっか。」
「はい。ご迷惑をおかけしてすいません。」
僕は瀬古さんとの関係を断つことに決めた。もちろん相手には言わない。
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