黒き鳥は子を持つ
ー1年前ー
「では、私は村で買い物をしてきます。」
「おう、行ってらー」
「行ってらっしゃい。クロウ。」
「はい、行ってきます。」
私はこの日も近くの村で食材などを買いに出かけた。村には新鮮な食材が沢山ある。私はこの村で買える食材が好きだった。
ー村ー
「今日も随分と賑わっていますね。」
相も変わらずこの村は、いつも人でいっぱいだ。
「すみません、リンゴとそれから人参、じゃがいもを二つずつ。」
私と同じ年くらいの青年が経営している八百屋で私はいつも野菜などを買う。店員の青年も私のことはもう見慣れているらしい。
「君…いつも僕の店で野菜とか買ってくれるよね?いつも買ってくれてありがとうね。」
「お礼を言うのはこちらの方です。この店の新鮮な野菜や果物のおかげで美味しい料理が作れますので。」
「それは僕としても嬉しいな。僕の実家は農家でね。両親が大量に送ってくれるんだ。それはそうと…君、もしかしてあの大きな屋敷から来てるの?」
そう言うと彼はラルス様とカトラ様が住んでいるマーセル邸を指差した。
「はい。私はあの屋敷に仕えているものでして…」
「やっぱり。あの大きな屋敷はここらでもちょっと有名になってたからね。」
有名…確かにあそこまで大きかったら目立つのも無理はない。
「では私はこれで。またここへ買いに来ます。」
「うん!いつでもいらっしゃい!」
これが後に夫となる青年との出会いだった。彼の名は「マルロ・センティア」。今では私の名前は「クロウ・センティア」となっていた。
プロポーズをしてきたのは彼から。確かあの時は八百屋の裏でプロポーズされたような。後に式も挙げ、私達は正式に「夫婦」となったのだ。そしてその1年後…
「お疲れさま、クロウ。」
「私達の新しい命です…名前は翼(レイヴン)から取って…「レイヴ」。」
第一子で長男のレイヴが産まれた。私達夫婦はこの子を一生ものの宝物だと思った…
「……ということがありまして。」
「随分と回想が長い上に俺の恥ずかしい話まで取り上げやがったなコイツ。」
「うん、そこは僕も思ったよラルスさん。」
「今回一番恥ずかしい思いしてるのはマルロさんの方だなこれ。」
「でも私はラルスの小さい頃の話聞けて満足よ?」
「やめろよカトラ…傷口えぐるのは…」
「すみません、お茶の時間が不味くなってしまって。」
「俺の話はともかく、お前の旦那の恥ずかしい思い出をベラベラ言うのは少し考えた方が良いぞ…」
「申し訳ございませんでした。ですがラルス様があの時助けてくれなかったら、今頃私は自分の名前に誇りなんて持てていなかったと思います。」
「まぁ、それは…だな…」
「だから改めて言わせてください。「あの時」はありがとうございました。」
終わり。
ロスト・サイド―黒き翼の少女― Next @Trex
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