黒い鳥の名前の少女

あれは今から数年前…いや、ざっと10年前ほどだろうか。生まれて初めて誰かに助けてもらった日のことを私は忘れない…


ー8年前ー

クロウ(12歳)


「じゃあねークロウちゃん!」

「はい、では。」

当時小学生の最高点にいた私は成績も学年の中で優秀、運動も出来て、誰でも憧れるような存在の子だった。だが……

「おい!!カラス女!!」

ベチャッ!

「な、何をするんですか…!」

「今からお前に泥玉の的当てゲームに決まってんだろ!!うらぁ!!」

ベチャベチャ!

その誰でも憧れる優秀さゆえ、特定の生徒からはいじめられていた。友達はいない訳ではない。だが私をいじめる生徒達は友達と別れたところを狙ってやって来る。そして彼らが私をいじめる理由はこれだけではなかった。

「カラスの癖して人とつるんでんじゃねぇーよ!!カラスはゴミあさって巣に帰るんだよ!!」

私の名前…「クロウ(カラス)」の名が気に入らないらしい。一般的にカラスは人々にとって嫌われ者。彼らは「カラスは嫌われ者」という意識を同じ名前を持つ私にも向けていたのだ。

「や、やめてください…」

「やめてください?やめてと言われてやめるバカがいるか!!」

この日は泥の玉を服いっぱいに当てられた。当然服は汚れた。こんなことが毎日続いていた時、私はこの名前を恨んだ。何故亡き父母は私に黒い鳥の名前を付けたのか?それが気にかかってしまっていた…


「ただいまお戻りになりました…」

「クロウ!遅かった…ってお前泥まみれじゃんか!」

「道で転んでしまっただけです。」

「お前…確か前にもこれぐらい泥まみれで帰って来てなかったか?」

「いえ…本当に転んだだけですから。」

「…ともかく、早くシャワー浴びた方が良いぞ。服は洗濯するからさ。」

「はい…」

ラルス様にも言い出せなかった。マーセル家に仕える者として弱いところを見せたくなかった…自分は守られる立場ではない。「守る立場」なのだからと胸にしまいこんで、決してラルス様には言いたくなかった。


ー次の日ー


「今日はカラスのお前のためにゴミを持ってきてやったぜ!」

ガサガサ!

目の前に置かれた生ゴミの塊。この日は生ゴミを食べさせられそうになった。

「ほら食えよ。カラスのお前なら食えんだろ!!」

頭を掴まれ、顔が生ゴミに着きそうになった瞬間、聞き覚えのある声がした。

「やめろ!!」

「っ…ラルス様っ!」

「クロウに手を出すんじゃねーーーーー!!!」

「な、なんだコイツ!?逃げるぞ!」

ラルス様が助けてれた…?

「お前の名前を呼ぶ声がして行ってみたらこんな有り様だ。大丈夫か?」

「大丈夫…です…」

差し伸べられた手をとり、立ち上がる。この時だった。初めて誰かに助けられたのは…


「いじめられていたんなら正直に言えよ。そうすれば早く助けられたのに。」

「すみません。それに…さぞ失望されたかと…」

「何でだ?」

「こんな弱い従者…ラルス様には見せたくなかったんです。私はラルス様をお守りする存在だから、助けられてはいけないからなのだと…」

「お前を捨てる理由がどこにあるんだ?お前はずっと俺に仕えるんだろ?強い弱いなんて関係ねぇよ。」

「ラルス様…」

「それに、知ってるか?カラスってのは嫌われてるけど、その嫌われる行為は全部巣にいる子供のためにすることなんだ。だから名前なんか気にせずにお前も自分らしく胸張っていけばいいんだ。」

もしかすると父母はこのことを知っていて私にこの名前を付けてくれたのかもしれない…ラルス様に言われたこの言葉は大人になって子供ができた今でもずっと響いている。この言葉のおかげで私は自分の名前に誇りを持つことが出来た…

続く。

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