雪が降り、積もる、その理不尽さと不気味さ。

 全三編に分かれている、今作の前半を勝手な感想として三浦哲郎の作品群に近い手触りを感じました。
 非常に、文章がきれいで、文と文の接続も滑らか。とても書きなれた方なんだな、というのがよく分かる文体でした。
 その上で語られる雪に縁のない「わたし」の心理描写は冷静で、抑えられた冷静な印象を持ちました。

「わたし」は妻の妊娠を機に、彼女の実家へ行き、そこで雪景色を見る訳ですが、ここからの展開は徐々に人間世界から別の世界へと移っていくような、何か踏み越えてはいけないラインを感じさせられました。
 また「わたし」に起こる異変もこの点とマッチングし、緊張感はホラー的な要因を生み出します。
 妻の両親の方言も別世界に迷い込んでいるような感覚を強め、最後の「三」。
 ここで語られる「雪女」の部分は非常に良かったです。
 最後の数行は非常に美しい文章でありながら、「わたし」はもう逃げられないという点で、切なく、苦しく、怖い終わり方でした。そして、考え方によって、それは「家族になる」という点で考えれば救いとも考えれました。
 一筋縄ではいかない名短編でした。
 また可能であれば著者のもっと他の作品を、できれば長いものを読んでみたいとも思いました。