今作を読んで思い出したのはゲーム小説だった。
異世界転生モノの起源は2ちゃんねるのドラクエパロディ(世界の半分を勇者がもらった話)らしい。
実際にその通りなのかは、もっと詳しい人が綺麗にまとめていると思うので、そちらを参考にしていただきたいが、僕は雑に「らしい」ということで話を進めたい。
単純に僕が言いたいのは異世界転生モノはゲーム的な想像力によって最初から始まっていたという点。
異世界転生モノを小説として真正面から捉えるのではなく、ゲームのノベライズ(実際にそのゲームはないけれど)くらいの感覚で読む方が実は正しかったのではないか、と思う。
なので、以前はよく見かけた「異世界転生モノは小説としてお粗末」みたいな批判はそもそもの出自からしてズレた批判だったといえる。
だからなんだ、という話なんだけど、今作の「異世界転生した俺の代わりに魔王軍最強の殺戮機械が現世に送り込まれていたんだが」を読むと、ゲーム的なリアリティと小説的なリアリティがちゃんと渾然一体となっているのが分かる。
異世界に転生した「俺」の代わりに現代には「魔王軍最強の殺戮機械」が自分に転生をしてしまった。ゲーム的に言えば、ファンタジー世界へ行ってしまった「俺」の視点で進んでいくところを、ファンタジーの住民が現代で役割を見つける話が中心になっている。
また、この役割というのも「魔王軍最強の殺戮機械」だからこそたどり着けるもので、ここは非常に小説的な読み味が感じられた。
何より文章は読みやすく、コメディとしての笑いもある。
「殺戮機械」の日常を考えてみればそうだよね、というギャップも読んでいて心地良い。
個人的には「鎌倉名物の鳩サブレー」の使い方が良かった。美味しいよね、鳩サブレー。
少し堅苦しいレビューになってしまったけれど、異世界転生モノに慣れ親しんだ人もそうでない人も楽しめる一作になっていると思うので、多くの人に勧めたい一作だ。