概要
すべてが雪に覆われる
わたしは雪が降り積もった風景を一度も見たことがない。街や山野、家々の屋根や公園の芝生、それに休田や神社の境内の銀杏の巨木が等しく雪に埋もれる光景を。
わたしは南九州の小さな島で生まれた。その島で高校卒業までを過ごし、大学は宮崎の公立大に進んだ。島でもかつては何年かに一度くらいは、雪の積もることがあったという。しかしわたしが物心ついてからは積もるほどの雪を目にすることは一度もなかった。
わたしは南九州の小さな島で生まれた。その島で高校卒業までを過ごし、大学は宮崎の公立大に進んだ。島でもかつては何年かに一度くらいは、雪の積もることがあったという。しかしわたしが物心ついてからは積もるほどの雪を目にすることは一度もなかった。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!雪が降り、積もる、その理不尽さと不気味さ。
全三編に分かれている、今作の前半を勝手な感想として三浦哲郎の作品群に近い手触りを感じました。
非常に、文章がきれいで、文と文の接続も滑らか。とても書きなれた方なんだな、というのがよく分かる文体でした。
その上で語られる雪に縁のない「わたし」の心理描写は冷静で、抑えられた冷静な印象を持ちました。
「わたし」は妻の妊娠を機に、彼女の実家へ行き、そこで雪景色を見る訳ですが、ここからの展開は徐々に人間世界から別の世界へと移っていくような、何か踏み越えてはいけないラインを感じさせられました。
また「わたし」に起こる異変もこの点とマッチングし、緊張感はホラー的な要因を生み出します。
妻の両親…続きを読む