この物語の一番好きな点は、主人公が自分の不幸を嘆かないところだ。かわりに怒る。
怒りを表明するのは、ときとして、幼稚で、惨めなことのようにとられるかもしれない。「あの人、あんなことくらいで怒ってるよ」なんて、陰口を言われてしまうかもしれない。そんな社会で多かれ少なかれ、怒ることを恐れている人が多いような気がする。
でも怒りという気持ちはとてもストレートで、だからこそ人々が共感できる道具であるはずだ。
主人公は怒っている。与えられた人生を幸福に彩ることを強いられ、がなっている。私たちはそんな主人公の姿を見て共感し、怒りを手に入れる。怒りは推進力だ。主人公が新たな道に進み始めたように、私たちを違う世界に連れ出してくれるだろう。
『音楽の道を目指そうとした途端、親から突き付けられた「皆に助けられた命」という事実。
不真面目に生きようとしているわけじゃあない。だが、親が望む人生を送らなければ不真面目という社会通念を押し付けられ、世の中の不条理に耐えられなくなった多利末睦歩は雨の中に飛び込んだ——。』(作品紹介より)
まず、この設定に強く惹かれました。
多額の寄付金によって手術を受け、命をとりとめた主人公の、その後の話です。
――寄付で生かされたのなら、世間に恩を感じながら生きて欲しい。
――真面目に生きて、立派な人物になるべきだ。
――いやいや、元気に生きてさえくれれば、それでいいよ。
いろんな意見があると思います。
私も自分なりの意見を胸に抱えながら、一気に読み進めました。
序盤では、主人公の鬱憤や息苦しさが「これでもか!」というほど描かれています。
多くの人に生かされたという事実は、彼から自殺という自由さえも奪ってしまった。その息苦しさを想像して涙が浮かびました。
果たして彼は、自由に生きることのできない獄中のような人生を送るのか、それとも魂の叫びに従って生きるのか。
1~3話めは鬱屈としていますが、4話目でいきなり話がかっこよくなって痺れました。まさにロック!
その後、主人公の「本当の人生」が始まったかのように見えますが、事態はさらに急転していきます。
7話で事件が発生し、8話で事態は悪化。そして驚きの9話。
起承転結でいうなら、「転、転、また転」という感じです。
そして10話の疾走感と爆発するエネルギー!
主人公は、今度こそ自由な世界へ飛び出せるかもしれない。すがりたくなるような希望が描かれたラストです。
詩一さんの作品を読むと、毎回「なんかすごいものを読んでしまった」という読後感が残ります。
この作品は特にそれが強く感じられました。
「アコライト・ロック・イン・ザ・ハウス」というタイトルの意味は、あとがきに書かれているので、気になる方はそちらも併せてご覧ください。
かなりロックで、作品の世界観に通じるものがあります。
また、この作品の主人公はロックの歌詞を書いているという設定なのですが、隠すことなく心の内を書き殴ったような文章が、そのまま等身大の主人公を表しているようで興味深かったです。
そして、この作品の最大の魅力は社会に対して「善意によって生かされたら、自分の好きな人生を選んではいけないのか?」という難問を投げかけている点だと思います。
この作品を読んで、物の見方や考え方が少し変わりそうな気がします。
人生に影響を与えるストーリー。
まさにロック!