第3話 出発
そこまできつくなかったな。
そう思っていた時期が私にもありました。
そんなテンプレセリフが聞こえてくるほど素晴らしく忙しくなった。
まず午前中だが、朝ご飯を食べて訓練場に行ってから昼食までずっと訓練だ。
もちろん精神統一だけ。
かなりきつかった。
スキルがあったが途中から考えることがなくなってかなり本当に精神統一した。
終わったときには足が接着剤で固まったかのようにしびれて動けなかった。
そして昼食後、俺は例の剣の練習をしたのだが。
なんと相手がエリシア本人だった。
約二時間ほど基本的な動きを叩き込まれたあとに、
「よし実践だ!いくぞ!」
突然エミリアさんと一対一で戦うことになった。
かなりしごかれた。
武器は木刀だったが普通に痛かった。
多分エリシアはそこまでステータスに大差がないと思ったのだろう。
途中あまりにも痛くなったので(HPもかなり減っていた)
スキルを使ってエリシアの動きを若干コピーした。
あまりにもきれいにエリシアの剣に俺の剣が吸い込まれて行くものだから、少しエリシアが不思議そうな顔をしていた。
そうして少し時間が経ったかはたまたかなり経ったのか。
エリシアが少し休憩しようと言い出した。
「君を訓練し始めてから思ったのだが、君は本当のステータスを隠しているな?」
エリシアにバレた。
少し動揺しながらも、スキルでそれを顔に出さないようにして返す。
「傀儡でいいですよ。それよりなぜわかったんですか?」
「わかった。これから君のことを傀儡と呼ぶことにするよ。それでわかった理由だが、
傀儡が剣を振るときの速さがステータスに比例していないと思ってね」
「全員のステータスを覚えているんですか?」
「いいや。覚えているのは傀儡と勇者だけだ。流石に全員分は覚えられない」
「なぜ俺なんかのステータスを覚えているのでしょうか」
「傀儡にはなにかあると思ったからね」
「何かとは?」
「傀儡は質問が好きだな」
そう言ってエリシアは立ち上がると、
「もしも勇者が太陽とすると、傀儡はさながら月のようなものだ。
傀儡にはなにか隠したいことでもあるんだろう?」
聞いた通り本当に目のいい人だ。
「傀儡には本心で話してほしい。だから今から私も自分を隠すのを止める」
そう言うとエリシアは少しの逡巡のあと息を吐き話した。
「実は私は指揮官のような口調に離れてないんだ。上から目線っていうのが嫌いでね」
「なるほど。じゃあ俺も敬語はやめたほうがいいですかね?」
「お願い。私は最初に行った通り上下関係とか嫌いなんだよね」
「わかった。それで、今の話の流れだと本当のステータスを見せてほしいってかんじだね」
「そういうこと。というわけで見せてくれる?」
「ああ。いいよ」
本来であれば、こんなに簡単に自分の根幹に関することを人に見せるようなことはしない。
しかしエリシアは俺に仮面を外して接してくれた。
まだ少しの警戒はあるもののステータスくらいならと思った。
そして他言無用を条件に自分のステータスを開示した。
流石に職業は隠した。
「まさかこんなにMPだけ突出しているとは思わなかった。
これならイメージ力さえあれば結構強めの魔法も撃てそうね」
「魔法の強さは魔力によって決まるのでは?」
「実は最終的に魔法の強さはイメージで決められるの。
同じ詠唱にいくらMPをつぎ込んでも魔法が大きくならない理由はそれなの」
なるほど。そういうことだったのか。
「まあそんなことより訓練を再開しましょう。人もちらほら集まってきたし」
そう言うとエリシアは顔を指揮官のそれに戻し、
「ラストスパートだ!がんばるぞ!」
そう言ってあの辛い訓練を再開するのだった。
☆――
訓練という名のシゴキか始まって今日で一ヶ月たった。
俺は今スキルなしでエリシアの動きについて行っている。
理由は魔法にある。
魔法には自信の魔力をその身にまとわせる「エンチャント」というものが確立されている。
それを使うと自身の魔法属性を物理攻撃に乗せることができるのだが、使っている最中は徐々にMPが減っていく。
これは魔法全般に言えることだが、何かを放出するような魔法とは違い、
その状態を維持し続ける魔法は使っていると徐々にMPが減っていく。
MPの供給が途切れれば維持していた魔法は消え去る。
話がずれたが、さっき話したエンチャントの魔法。
使うと少しステータスが上がるのだが、
これを応用してステータスを強化できないかと考えた。
結果は半分成功半分失敗だった。
ステータスの数値を上昇させるイメージでやると発動した。
だいたい皆と同じステータスになるようにイメージしたが、
MPがゴリゴリ削れ一分くらいでからになった。
それでもないよりはマシとエリシアに相談したところ、
「なら今日から一分間特別な時間を設けよう。その時だけ私は本気を出すから」
と言われた。
完全にやる気満々だ。
そういうわけで今はスキルを使わずにエリシアさんと訓練をしていた。
これによって俺の剣の技術も上がってきた。
おっとMPがもう残り少ない。
そのことをエリシアに伝えると、
「そろそろ休憩するか」
と言われた。
「にしても傀儡はすごいな」
「どうして?」
「だってこんなきつい訓練にも耐えているじゃないか」
きついって自分でも思っているならもうちょっと優しくしてくれてもいいのでは?
言わないけど。
「それより傀儡にだけ言っておこう。
今度馬車で一日くらい言ったところにある迷宮に演習に行こうと思っている」
「なぜ僕だけに?」
「傀儡はステータスがとても低いから。四人一組のパーティーでおこなうんだけど、
傀儡ステータス低いし下手したらパーティー全滅とかありそうだから」
確かに否定できない。
「というわけで私のパーティーに入れるから誰とも組まないで」
「それ訓練になるのか?」
「四組ずつで作るとどうせ一人足りなくなるし」
それなら別にいいか。
「というわけで心しておいて。さて訓練を再開するか。魔法なしでな」
そうしてまた『あの』訓練が開始されるのであった。
☆――
演習当日開始当日。
俺たちは訓練場に集まっていた。
「これから馬車で一日くらい言ったところにあるオラトリア洞窟に演習に行く。
これから行くところは魔物の巣窟だ。遠足じゃないからな。気を引き締めてかかるように」
エミリアはそう言うと皆を馬車に乗せた。
☆――
オラトリア洞窟についた。
見た感じ自然のものではなく人工的な感じだ。
「では四人一組でパーティーを作ってもらう。クラスが勇者の人はバラけてくれ」
みんながいっせいにうごきだした。
皆頑張って勇者のパーティーに入ろうと必死だ。
まあ俺はエリシアのパーティーに入るから関係ないけどな。
そうして待っているとエリシアが二人連れてきた。
「今回はこの四人で行くぞ!」
そう言って連れてきたのは、光と愛結蒼だった。
「あの、思っクソ勇者クラスがかぶってるんですが?」
若干自分を見失ったような口調でそう告げると、
「まあまあ、細かいことはおいておこうじゃないか!」
「、、、。もとからこのパーティーで行くつもりだったでしょ。」
ビクッ!
そんな擬音すら出てきそうなほど動揺していた。
「はぁ、、、。皆から文句言われても全部エリシアのせいにするから」
「まあいいよそれで。とにかく今回戦力になるの私と光くんくらいかな」
ちなみに「、、、。もとから....」という下りからひそひそ話だ。
流石に皆の前で休憩時間のような会話を聞かせる訳にはいかない。
「なあ、傀儡。司令塔と中がいいのはいいことだが、気をつけろよ?」
「なんで?」
「エリシアさんはただでさえ、美人なんだ。
そこでお前が一緒に二人っきりで訓練してるんだ。
特に男共がただでさえピリピリしてるんだ。そこに今みたいな態度をとってみろ。
一瞬でお前が嫌なヘイトを買うことになるぜ?」
たしかにそうだったな。
「まあ大丈夫さ。俺役立たずだし」
「本当にそんな態度で大丈夫か?」
「大丈夫だ問題ない」
久しぶりに光るにあったがいつもと変わらないような会話だった。
こんな感じで俺たちの演習は始まったのだった。
☆――
俺たちのパーティーは最後に洞窟に入っていった。
「ちなみにこの洞窟はなんのために作られたんだ?」
「簡単に説明すると採掘場だな。ここが魔物の巣窟になっているからだな」
「つまり危険かどうかってことか?」
「そういうことだ」
ちなみに、俺は今何もしていない。
もちろん魔物の巣になっているため魔物はやってくるが、
前衛二人が強すぎて俺たちだとお話にならない。
前衛はもちろんエリシアと光だ。
ここは洞窟の入り口あたりなのだが、
この辺りの魔物は二人にとって片手間に屠れるようだ。
もちろん装備も最初に倉庫でもらったオーパーツだ。
出てくる魔物はスライムやゴブリンだ。
俺以外のみんなはもうすでに訓練場で訓練用の捕獲された魔物を狩っていたようだ。
というわけでみんな別段驚いてもいなかった。
俺は結構緊張したが。
俺が持っているこの武器だが、実は使った人の魔力のと同じ属性の塊で作られるらしい。
たとえば火であれば「火」だけでできた剣ができるということで。
だからエリシアも微妙な反応を示したのだが、
俺の無属性の魔力で作ったところ無くなるのではなく、
元の物質と同じ金属のまま形が変わった。
まだ魔法について詳しいわけではないのだが無属性の概念だけは本当にわからん。
とにかくそんなこんなでどんどん進んでいくと突然俺の体が光り始めた。
「お、レベルアップしたか。経験値は近くにいる奴にも同じ量入るからな」
経験値は生物を殺した時に出る生命エネルギーの塊のことを言う。
「レベルアップするとステータスが上がる。
トレーニングなどをしても上がるが、レベルアップが一番の近道だ」
なるほどそうなのかと思いステータスウィンドウを開けた。
そして悲しくなった。
すべてのステータスに大体50くらい上乗せされただけだった。
MPに至っては1しか上がっていない。
まあこれはいいだろう。
周りからどのくらい上がったかどうか聞かれたが
「まあ、それなりに」
とだけ言っておいた。
さらに進んでいったのだがそろそろ魔物の数も多くなって、
前衛二人を抜けることが多くなっていた。
そこを俺が倒、、、。そうとして割とガチでやられかけた。
切る瞬間に身体強化を200くらいかけて切り捨てた。
そこまでMP を使わなかったし、MPの自然回復ですぐに満タンまで戻った。
突然悲鳴が上がったのでその方向に顔を向けると愛結蒼の声だった。
ゴブリンに襲われているようだ。
スキルのジャッジメントで受け止めていた。
攻撃された部分だけに局所展開されるような形の障壁が生まれる。
恐怖におびえて反撃もできそうになかったので一応倒しておいた。
「ありがと、、、。」
「いいよ別に、それより大丈夫だった?愛結さん」
「大丈夫。それと蒼でいいよ。名字で呼ばれるの嫌い」
そう言って蒼は、うつむき加減に暗い影を顔に落とした。
「じゃあ蒼。なんで反撃しなかったんだ?」
気づいていた暗い顔を気づかないふりをして聞いた。
「できなかったの。生き物を殺すなんて急にはできない。少なくとも私には無理」
「そうか、、、。」
何も言葉を返せない。
いや、むしろ返さないほうがいいだろう。
こういう時に励ましの言葉は絶対NGだ。
少なくとも蒼にはかけないほうがいいだろう。
かといって別にかけられる言葉もない。
であるならば、下手に刺激しないほうがいいのである。
「とにかく、このあたりからは前衛から魔物もこぼれてくる。注意して進もう」
今の俺にはこのくらいの声掛けが精いっぱいであった。
☆――
かなり開けた広大な空間。
そのあちこちには穴があり、それぞれ1~10までの番号が振られていた。
その真ん中でおれたちは今休息を取っている。
さすがは元採掘場。
かなりの広さがあるようで1日では最深部にたどり着けない。
「あ~あ。疲れたぁ~。無駄に広いわねこの洞窟」
そんな軽口をたたくのは立華綾乃を筆頭とした女子の集団だった。
女子には魔術師系の職業の人が多く、
間接的な攻撃をするので蒼のような状態に陥った物はいないらしい。
そうして皆ワイワイしていた。
初日の不安と緊張が嘘のようにまるで氷が解けるかの如くに。
「皆注目!」
この空間全体に響き渡る声でエリシアが注目を集める。
「今日はここで終了とする!
これからテントの設営に入るので、手伝えるものは手伝ってほしい。」
そうして、数人の協力と王国の兵士たちの努力であっという間に設営が終わった。
みんな今は思い思いに自分の時を過ごしている。
誰の顔を見ても疲労の色がうかがえる。
まあしょうがないだろうな。
初めての実戦だ。
戦ったことがあるとはいえ、訓練と実践ではその重みが違ってくるというもの。
そう受け取ることにした。
☆――
みんなが寝静まった丑三つ時。
そんな夜中に悲しげな素振りの音が響く。
しかしその音に見張りは誰一人気づいていなかった。
それはその音の主。
傀儡が隠蔽魔法で音を消し去っているからである。
なぜ彼がそこまでして素振りをしているのか。
それは努力によって伸ばせるステータスの値。
努力値を上げるためである。
そのために、ここ全域を覆い尽くすほどの任意の音の除外効果の発動、
そしてそれと同時に素振りを行っていた。
それはステータスが低い彼がみんなに少しでも追いつくための努力だった。
そんなこととはつゆ知らず、見張りはあくびをして眠たげに交代を待つ。
生徒たちも静かに寝息を立てる。
そこにはやはりもの悲しげな素振りの音が響くのだが、誰も気づくことはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます