第5話 天災
一つだけいいことを教えてあげましょう。城の地下には…
去り際にサタンはそう言った。
最後のほうはよく聞き取れなかった。
次に俺を襲った感覚は浮遊感だった。
海の上を漂っているような感覚。
俺はなんでこんなとこにいるんだろうか。
直前のことも思い出せない。
俺は死んだのか。
そんな考えが頭をよぎった。
ふと自分が机に突っ伏して寝ているということに気づいた。
顔を上げるとそこは教室のようだった。
しかも懐かしい雰囲気が漂っている。
そして教室の前方左端に懐かしい女性が机で作業をしている。
「傀儡君そろそろ帰りなさい」
微笑みながら優しい声でそういわれた。
ボーっとしていた頭が徐々に働き始めた。
徐々に霞んでいく教室そんな中。
女性はずっと微笑み続けていた。
☆――
意識が覚醒した俺の目に初めに映ったのはじっとこっちを覗き込んでいる蒼だった。
「どうしてこっちを見てるんだ?」
「生きてるかどうかずっと見てた。それに、治癒魔法かけてたから」
蒼は無反応のままじっとこっちを見つめている。
「どうした?惚れたか?」
少し冗談を言ってみると
「そんな軽口叩く元気があるなら治癒魔法は解除してもいいわね」
「すまん冗談だ。俺が悪かった。頼むから今解除するのだけはやめてくれ」
治癒魔法は欠損した体の部位を生の幻素で補填する魔法。
体を補填するのだからとてつもない技量が必要になる。
蒼の場合はスキルでなんとかしている。
ちなみに幻素とはmpのミクロサイズの粒のことで、全ての魔法はこの粒が集まってできている。
話を戻すと治癒魔法は補填されてる部分が光って見える。
そして今俺の体は全身光っている。
つまるところ今解除されるとほんとに大変なことになる。
「多分もう少しで終わる。mpの消費が少なくなってきてるから」
「ずっとかけ続けてたんだろ。mpは大丈夫なのか?」
「大丈夫。なくなりかけたら光からもらってたから」
ふと視線をずらすと光が椅子に座って苦しそうに座っていた。
「何時間このままで居たんだ?」
「3日間」
「飯とかその他色々どうしたんだよ?」
「その時だけここの魔術師に代わってもらってた」
「蒼がやる必要はないじゃないか」
「私の方が早い。それに恩返しもしたかったし」
一瞬蒼の顔が赤くなった。
「そうか。ありがとう」
「どういたしまして」
その後少しの間静寂が支配した。
☆ーー
目の前に迫る剣を自分の剣で受け止める。
しっかりと平たい部分で受け止めるのには慣れてきたが衝撃を吸収するのはまだ
苦手だ。
怪我の回復から3日後、俺はいつも通りエリシアと訓練をしていた。
「なんだか動きにキレが出てきたね傀儡」
「確かに最近調子がいいね」
全身を治癒したからだろうか新しい体を得たように体が軽い。
「レベルも結構上がったんでしょ?」
「確か30位だったかな?」
前回のサタン戦でサタンを倒してもないのに経験値がたくさん入った。
よくわからないが、それでレベルが30まで上がったのは事実。
まだまだわからないことだらけと言うことか。
「それだけ上がれば強くなったよね。ステータスどの位上がったの?」
「だいたい平均600くらいだったと思うけど」
「結構上がったじゃん!」
「でもみんなに比べたら、、、。」
みんなとっくに1000は超えている
「みんなが普通じゃないだけだから。それは」
「確かにそうだけど。なんで俺だけこんなにステータス低いんだろ」
「MPはすごいことになってるし大丈夫じゃない?」
「それが実はそうでもないんだよ。レベル分くらいしか上がってない」
「元がすごいんだからいいじゃない」
「伸びがないってのは結構来るものがあるんだよ」
「でも、それ以上上がったらもう収集つかなくなっちゃうんじゃない?」
「そうでもないだろ強化したら結局MPなんてないに等しいからな」
「一分も高ステータスで動けたら十分!!」
のんきに会話なんてしていたが今は訓練中。
「現にかなりきついし!!」
今は俺が攻撃している。
エリシアは防戦一方といった感じだ。
とうとうエリシアに追い付いてきた、が。
「ストップストップ。エリシアストップ。MP切れだ」
やはり制限時間がある。
制限時間は本当につらいな。
MPが切れるまで使うとぶっ倒れるし。
MPが切れると意識はあるのに体が動かなくなるなんて状況に陥る。
体が言うことを聞かなくなるのだ。
まあスキルで動くことはできるんだけどな。
体が言うことを聞かなくだけっぽいのでスキルで動けた。
「やっぱり成長したよ。毎晩剣を振っているだけはあるな」
息も絶え絶えにエリシアはそんなことを言い出した。
「なんでしってるんだ⁉まさか隠蔽魔法を見破った?」
「勘よ勘。傀儡の隠蔽魔法が見破れるわけないじゃない」
「これが女の勘というやつか」
「別に完全に勘てわけじゃないし。傀儡が訓練場に行くの見たことあるから」
なんとそこを見られていたとは。
今後は移動中も気をつけよう。
そんなことを言っていると突然地面が揺れ始めた。
「!!まさか巨大な魔物でも現れたというのか!?」
エリシアが警戒を始めた。
しかしその揺れはさらに大きくなりもはや立てないほどの大きさへと達していた。
体感時間10秒程の揺れ実際にはそこまで長くはなかっただろう。
しかしこの揺れは生物の本能直接訴えかける揺れだった。
「これは魔物じゃない地震だぞ!!」
「地震?なんだそれは?」
「知らないってことはこんなことなかったてことか?」
「どんな書物にもこんな現象は書かれていなかった」
「とにかく城の上に行くぞ」
「なぜだ?」
「町が無事か確認する。俺たちは勝手に城から出れないからな」
「なるほど、わかった」
どれくらいの被害が出ているのか、
確かめれば今回の地震の大きさの予測がつくと考えての行動だ。
エリシアと一緒に階段を上っていく途中
「この地震とやらは久々津がいたところでは頻繁に起きていたのか?」
「そうだね。ほかのところよりは多めに起こってた」
「そうか。だからあんなに動じないでいられたのか」
「そうでもないよ。現に結構恐怖を感じてたし」
そんな話をしている間に、城のバルコニーについた。
そこで見えた光景は地獄そのもので目を疑う光景が見えてきた。
家はすべて壊滅。
町中の家屋は瓦礫と化していた。
「厄災がやってきた様じゃな」
「誰だ!!」
唐突にかけられ声にエリシアは鋭く反応する。
振り返ったそこには小柄な老人が立っていた。
「おっと。驚かせてしまったようじゃな。わしは、ダニエルというものじゃ」
「王の側近、大賢者のダニエル様ですか!?とんだご無礼を」
「今はそのようなことをいっとる場合ではあるまい」
ダニエルと名乗った老人はしわが深く年老いた様子に見えるが、
しかしそこにはただの老いではなく、長年を生き抜いてきた聡明さが見て取れる。
「そうでしたね。それで、先ほどの厄災というのはどういうことなのでしょうか?」
「今のご時世、知っているものも少なかろう。なんせ百年前ほどから影が薄くなってきておったし。して厄災とは昔からこの地に根付いておった竜のことじゃ」
「なるほど。それで、その竜の名前は何というのですか?」
「その竜の名はレヴィヤタン。やつが眠りから覚めるとき、大地は雄たけびを上げ、海はその口を広げすべてを飲み込むといわれておった」
「そんな、今すぐその竜を退治しなくては!!」
「それが、レヴィヤタンを見たものはだれもおらんのじゃよ。それどころか、そもそもレヴィヤタンがおるのかどうかすら怪しいほどでな。わしの見解では自然災害の一種ではないかと思っておるのじゃよ」
「そんな、、。では我々にはどうすることもできないと?」
「そういうことじゃな」
エリシアからしたらかなり残酷な言葉だったろう。
国の危機を前に何もできないというのは。
自分の願いをかなえることが不可能だと告げられるのは。
「大地震からの津波ということですね」
「ほう。そなたこの現象を知っているとな?」
「はい。地震は頻繁に起こっていましたから。津波も記憶にまだ新しいので」
「なるほど。では何か防ぐ案は考えられんかの」
「津波が来たらとにかく、海から離れる。高いところに逃げるが常套手段ですね」
「何か防ぐ手段はないのか?なんでもいい!!」
エリシアの悲痛な叫びに応えるべく必死に頭を回すが。
「土魔法で壁を作るという方法も考えられますが、焼け石に水。そもそも建物がすべて倒壊してしまっているので意味はありません」
ポツリポツリと残る家屋も倒壊寸前。
「はっきり言ってこれは国民の非難を最優先にすべきでしょう。少なくとも人的被害は抑えられます」
その言葉でエリシアの顔からかんぜんに表情が抜け落ちた。
「それならば、今すぐに国民に避難勧告を出さねばな」
ダニエルが無詠唱で魔法を発動させるとたちまち彼の声は拡声器に通した用に大きくなった。
『国民の皆は落ち着いて聞け。今すぐ海から離れ高台に避難しろ。繰り返す。皆の者今すぐ海から離れた課題に避難しろ』
ポツリポツリと人影が動く。
それは波紋のように広がりやがて人の波になった。
まるでこれからやってくる津波のように。
その時タイミングを見計らったかのごとく地平線の先から波が見え始めた。
「あれが津波というものか。なるほど確かに海が口を開いたように見えるわけじゃ」
「それじゃあエリシア。僕たちも逃げるよ」
しかしエリシアは一向に動こうとしない。
「何してるの早く行くよ!!」
「いやだ!!私は死んでもここを守る!!」
そういって拗ねてしまった。
「大の大人がよいよなにしとるが!!はぶてとる場合じゃなかろう!!」
「よいよ、とかはぶてる、とかどういう意味ですか?」
「おっとすまん。ついわしが住んでおったところの方便が出てしもおた。そんなことより今は逃げい!!」
そうして逃げようとしたとき、ガスティアの声が聞こえてきた。
「火属性魔法が使えるものは今すぐ王の間まで来い!!」
「おっと呼ばれたのう出這入ってくるとするかのう。バカなことは考えてないといいが」
そういってダニエルは消えていった。
「エリシア早く!!」
ダニエルが消えた後もエリシアは動こうとしない。
「ああもう!仕方ない。運ぶよ!!」
そういってエリシアを抱えるとステータスを強化してとんだ。
エリシアが小さな悲鳴を上げたが、その悲鳴は風にかき消された。
とりあえず中庭に降り、エリシアを下したところで衛兵がやってきた。
「探しましたよエリシア様さあ王のもとへ行きますよ」
そういってエリシアは引っ張られていった。
これで俺は一人になったわけだが、気になったことがあるので隠蔽魔法をかけて城の地下へと向かった。
道すがら衛兵たちが待機していたが隠蔽魔法を使っているためもちろん止められることもない。
そして地下に行くとそこは牢屋だった。
石でできた地下牢。
匂いはひどくじめじめしていてまるで人の住むような環境ではない。
そこにいろいろな人間がつながれていた。
さらに奥へ進んでいくとそこに見覚えのある人間がいた。
それは見間違えるはずもない。
俺たちのクラスの担任であり、俺の恩師であり、唯一心を開いている大人。
俺の人間への関心の最後つなぎ目。
星谷 美乃。
いつもは二十大という若さ、黒髪ロング、優しい口元に目元と美人で評判なのだがその面影は全くなく、今はその体を全裸に剥かれ手を鎖につながれ、体のいたるところには切り傷、
刺し傷、やけど跡に、あおじ、みみずばれ。顔には目隠しが当てられ口には口枷があてがわれている。女性の秘部からは白い液体が流れ出している。
排泄物はそのまま放置されていた。
先生は今気絶しているようだ。
その姿を見たとき、明確に何かがプチンと切れる音がした。
感情的に動きそうになる体をスキルで抑制する。
今すぐ助け出したかった。
こんなことをしたやつを滅多打ちにしてやりたかった。
でもそんなことはできない。
それをするにはまだ力が足りなかった。
唇をかみしめる、血が出てもまだかみしめていた。
静かに身をひるがえしゆっくりと歩き始めた。
涙腺から吐き出された嗚咽はそのまま絶叫へとなり、あふれ出した。
地上に出ても涙は止まることはなかった。
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