あたたかくてやわらかい、マクガフィンにくるまれた叙情

料理人をしている川島洋介は、仕事を終えてたどりついた荻窪駅のホームで恋人と再会する――1年前に死んだはずの如月結衣と。いや、実際に彼女は死んでいた。
そこにいた彼女は化けて出たのでも蘇ったのでもない、結衣の姿と記憶を映した宇宙人だった。

そんなきっかけで洋介さんは、結衣さんじゃない結衣さんが問題を解決して宇宙へ帰還するまでつきあうことになります。
これだけならどこかで見たお話なんですよ。でも、オムレツっていうマクガフィンが、物語をそこで終わらせないんです。

絶対に忘れたくない思い出があって、でも忘れることにも意味があって……オムレツを通して綴られる登場人物の思いが洋介さんや結衣さんに大切なことを気づかせてくれるんですよ。このマクガフィンの効きがあってこそ、ふたりの迎えるけして甘々じゃないハッピーエンドに希望が見えるんです。

こういう叙情を噛み締める感じ、実にいいですねぇ。ドラマが読みたい方には特におすすめです!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)