GAME 9 ( ゲームキュウ ) 19

――1年前(都市国家ヌヌララ、商業都市ヴォイスⅤ)


ここは第15行政区にある地下金庫だ。

この場所に来るまで、何度も厳重なセキュリティを通過した。

荘厳な地下回廊の一室に、その部屋はあった。

もちろん、この部屋の入口にも厳重な管理が施されている。


部屋の中は、巨大な金庫とテーブル以外、何もなかった。

テーブルの上には顕微鏡やピンセットなどの備品が置かれている。


「オーリシエさん、この地下通路の、他の部屋には何が置いてあるんですか?」


私が言った。


「銃や刀などの武具、それに防具です。数万点はあります。」


オーリシエが言った。


「ヴォイスの住民同士で戦争が始まるかもしれないなんて、何とも残念です。」


テルパが言った。


「まだ、わからないですよ。テルパさん。政治的に削られているのは事実ですけど、軍事的には何も変化は無いので……。いざ戦闘となったら話は別です。向こうは、数は多いですけど、こちらで残っているのは忠誠が厚く、戦闘力の高い精鋭部隊ばかりです。向こうも闇雲に戦闘を仕掛けるなんて行為はしてこないと思います。」


オーリシエが金庫を開けた。

中から、すでに死んでいる伝書鳩と、その体に付いていた思われる手紙があった。

オーリシエはそれを金庫から持ち出して、テーブルの上に置いた。


「カエデさん、テルパさん、これが先程、言っていたものです。行方不明になっている亜族の方々の手がかりになるといいのですが……。どうかご覧になってください。」


「これが伝書鳩?スズメバチにしか見えないけど……。」


私とテルパは驚いた。


「これは軍事用の伝書鳩です。わかりやすく言えば、品種改良されたオオスズメバチです。発見時のまま冷凍保存してあります。そして、これが手紙です。発見時は、この身体にカメレオンのように張り付いていたものです。この紙は着色されていて、伸びたり縮んだりしますが、その性質を駆使して軍事用に改良されています。」


オーリシエはピンセットを手にした。

それを使って、小さく折られている紙を広げた。

そして、その紙を、顕微鏡の台の上に置いた。


「どうぞ、カエデさん、テルパさん、ご覧になってください。」


私は顕微鏡を覗いてみた。


「確かに文字が刻まれているけど、これは暗号文ですね。しかも、亜族の暗号文とはちょっと違いますね。」


続いて、テルパが覗いてみる。


「これは、カズミさんの筆跡ですね。間違いないでしょう。ですが、この暗号文はオーリシエ殿しか解読できないのでは?」


「その通りです。この部屋はおろか、この地下通路及び地下室のセキュリティは完璧です。読み上げても問題ないでしょう。私が読み上げますので聞いてください。」


「わかりました。」


オーリシエは顕微鏡を覗いた。


「オーリシエ殿、このメッセージを亜族の仲間に知らせてほしい。全てを暗号化して送ります。オーリシエ殿の解読ファイルにて、解凍を願います。私は今、浮遊島である都市国家ヌヌララの地殻の部分、つまり、地下にいる。黒の刻は、惑星ルネロンにいる。ここから伝書鳩を飛ばして、無事に地上に届く可能性は極めて低い。地上の世界は飾りに過ぎなかった。この都市国家の中枢は地下にあった。信じられないような地下世界が広がっている。ここは地下要塞テルクシノエ。宇宙船の離発着場以外にも、都市と呼ぶにふさわしい壮麗な建築物が多数ある。地上の世界と、この地下の世界は完全に遮断されている。地下に都市があるなんて、ゾカ様を含め、おそらく誰も知らない。王都パステスナ・メダリドと、この世界を結ぶ通路があるようだが、どことどこが繋がっているのかはわからない。私たちは薬か魔術で睡眠状態にさせられたあと、ここにいた。だから、何もわからない。この地下世界の存在を知っているのは、最高統治機構の神官たちと、聖農ギルドの長、フランシスコと、その幹部くらいだ。おそらく、他の人間は知らないだろう。これはトップシークレットになっている。この状況から地上の世界に戻るのは不可能だ。それとカエデに伝えてほしいことがある。私はアルケに捕まる直前、記憶を取り戻した。私は七年前の東京発ロンドン行の飛行機事故の搭乗者だ。この世界が死後の世界なのかどうかはわからない。ただ、それがこの世界に来る直前の記憶……。この地下世界に来て二年が経過したが、ある奇妙な情報に触れた。カエデの言っていた「GAME9」のことだ。そのゲームをやったことがあるという人物がいる。名前は、テツ・イシグロ。知っているか?ただゲームのタイトルは「GAME9」(ゲームキュウ)ではなく「GAME8」(ゲームハチ)だ。この人物は、以前、王都で統制官をしていたらしいが、今はどこで何をしているのか、わからない。地球に戻りたいのなら、この人物を探した方がいい。何か手がかりになるかもしれない。この地下世界の話はトップシークレットだ。話題にしているだけで拘束の対象となる。扱いはくれぐれも慎重に……。私はこの世界が並行世界なのか、それとも、死後の世界なのか……、いろいろと探ってみるつもりだ。アルケとイオカステと遭遇したとき、もう一粒、例の物を手に入れている。それを同封する。では、幸運を……。」


オーリシエは顕微鏡から離れた。


「これがカズミからのメッセージ?届いたのはいつですか?オーリシエさん。」


私が言った。


「届いたのは二年前です。」


「同封とはどういう意味です?」


「私にはわかりません。」


オーリシエが答えた。


「この伝書鳩は死んでいるんですよね?」


「そうですが……、何か?」


「解剖してもいいですか?」


「まさか、カエデさん……。」


私は、手術用のメスとピンセットを手に、伝書鳩の解剖を始めた。

すると、伝書鳩(オオスズメバチ)の身体の中から、カプセル型の、一粒の薬が出てきた。


「こ、これは?」


オーリシエは驚いた。


「カズミがイオカステの家に侵入したのは、この薬を手に入れるだめだったんだ。神官アルケと遭遇したのは運が悪かったが、私のような表族は、ここに来る直前の記憶を失っている。だから、その記憶を回復させるために時間薬がほしかったんだ。カズミは立派に任務を果たしたんだね。こうなったら、何が何でもカズミを救出しなければならない。」


薬を手に、私は涙ぐんだ。


「カエデさん、残念ながら、ここに書かれてある地下世界に関する情報は、すでに我々も把握しています。ゲームがどうのこうのというのは我々にはわかりませんが、何かお役に立ったでしょうか?」


オーリシエが言った。


「オーリシエさん、これは私にとってはとてつもなく大きな情報です。大商人ギルドにとっては、最高統治機構が管理する地下世界の話はあまり関係ないでしょう。知ったところでどうにかできる話ではありませんし……。下手に関わると王都が本気でヴォイスの制圧に乗り出してくる可能性があります。今は戦力の充実と結束を図ることに集中すべきかと思います。私は、このメッセージの中で、気になる文面があったので、しばらくヴォイスに残って調査をしたいと思います。もし、戦闘が始まるようなら、すぐに駆け付けます。」


「おお、それは心強い……。この行政区は私が管理しているので公的機関は自由に使ってもらって構いませんよ。ホテルも手配しましょう。何かわからないことがあれば私に聞いてください。テルパさんはどうされますか?」


「私もここに残ります。兵士長やカズミさんの救出に繋がる手がかりを集めたいと思います。」


驚いた……。カズミがあの飛行機の搭乗者だったなんて……。ただ、妙だな。あの事故は、機体の残骸は何一つ発見されていない。もちろん、死体も荷物もだ。海における飛行機事故ならあり得る話だと思っていたから、特に気にならなかったけど、ひょっとしたら……。いや、まさかな……。あの飛行機の搭乗者だったカズミがここにいるということは、あの人もここにいる可能性がある。この世界のどこかに……。しかも、20代の前半の容姿で……。信じられない……。これも、あの「GAME9」のプログラムの一部か?それに「GAME8」とは何だ?テツ・イシグロだと?何者だ?日本人か?私はこれからどうしたらいい?いったい何がどうなっている?ここは死後の世界なのか?私は死んだのか?それとも、ここは並行世界?わからない……。あれこれ考えていても意味はない。とりあえず、カズミが命を懸けて手に入れてくれた時間薬を飲もう。どうするかは、そのあとだ!



※カクヨム毎日更新キャンペーン(2024/08/09~08/31)が今日で終了しますので、更新も、一旦、今日で終了します。一応、このキャンペーンを知ってから一週間くらいで大雑把な下書きはしたけど、ほぼ無計画でここまで殴り書きをしてきたので、メンタルが限界です。これからは計画的に辻褄を合わせていこうと思います。また、時間があるときに、ゆっくりと更新していきたいと思います。

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