GAME 9 ( ゲームキュウ ) 18

――1年前(都市国家ヌヌララ、商業都市ヴォイスⅣ)


ここは第16行政区にある地下集会所だ。

集会所といっても、公になっているものではない。

信仰迫害時代のカタコンベのように秘密裏に作られ、会合そのものも秘密裏に行われている。


私は、ある古書店のバックヤードに存在する隠し扉から裏部屋に抜け、さらに、そこにある隠し階段から地下に入った。

地下通路を歩くこと5分、ようやく、この地下集会所にたどり着いた。

今回は、ここが大商人ギルドのアジトとして使われるらしい。

集会参加者も、ごく少人数だった。


出席者は、大商人ギルドの長、エーギルと、第4行政区長のレダ、第15行政区長のオーリシエ、第16行政区長のユミル、第17行政区長のナイアド、エーギルの護衛である剣士テミストと槍騎士メガクリテ、それに私とテルパだ。


エーギルはゾカと同じくらいの年齢に見えた。尊翁といったところか……。


私たちは彼らに全てを話した。

突然、ガルガスから手紙が届き、4年前、神官アルケに捕らえられた仲間の救出作戦を敢行したこと……、ヴォイスでは、キャリバンの協力を得て、幽閉の塔を襲撃したこと……、そのキャリバンの裏切りによって、実はその作戦内容が相手方にバレていたこと……、獄長プロスペローとキャリバンを戦闘の末、殺害したこと……。


本来、亜族とは表向きでは接点が無いことになっているため、このような首長や幹部の前に来るなんて初めてのことで、当然、厄介者扱いされると思いきや、その反応は意外なものだった。


「あのプロスペローを殺ったとは……。あなたは我々の救世主だ。」


「ヴォイス最強の剣士を殺るなんてとんでもない。」


「プロスペローに勝てるのは神官だけだと思っていたが……。」


「よくぞプロスペローを殺してくれた。感謝します。カエデさん……。」


「キャリバンの死は自業自得だ。」


私とテルパは、あの激闘のあと、村に戻ってゾカに事情を説明した。

そして、ヴェルヴァリエの森の、さらに奥深い場所に集落を移動させた。

そこは拓けた場所の無い樹海そのものだったが、隠れ里としての住み心地は悪くなかった。

引き続き、テルパの部下4人に、ゾカと村人の警護をしてもらうことになった。


この地下集会所では、いろんな意見が飛び交った。

その内容は以下の通りだ。

まず、エーギルが口を開いた。


エーギル「我々は、組織の存続が危ういほど、厳しい状況にある。聖農ギルドと均衡だった勢力は奴らの政治的圧力によってみるみる削られ、行政区長はここにいる4人だけになってしまった。ただ、そうは言っても、ここからは忠義が厚い岩盤支持層のエリアだ。これ以上、削るのは難しいだろう。今日の緊急会合は、そういう政治的な話ではない。先程も話に出たが、プロスペローとキャリバンが死んだ。亜族の刺客によって殺害された。その刺客こそが、ここにいるカエデとテルパの二人だ。今までは王都の圧力と、その圧力を背景にした政治的駆け引きのみで勢力を削られてきた。それを民主的な抵抗のみで対抗してきたが、今回、それが武力衝突に発展してしまった。表向きは我々、大商人ギルドの正規軍の仕業ではないが、今までグッと我慢してきた連中にとってはカエデとテルパを英雄と崇め、これを機に開戦を主張するものも出てくるだろう。ただ、冷静さも必要だ。仮に開戦した場合、王都はどこまで関与してくるだろうか?我々、大商人ギルドと聖農ギルドのみの戦いなら大いに望むところだが、それでも戦力は1対10だ。10倍の敵、プラス、王都の軍、下手したら神官も加わるかもしれない……。」


レダ「エーギル様、この機を逃してはなりませぬ。ヴォイス最強の剣士プロスペローを倒した二人がこちら側にいて、何を恐れる必要があるのでしょう。もう一度、勢力図を塗り替えなければなりません!」


オーリシエ「レダ殿は、神官との交戦も持さないと申すか?」


レダ「このまま何もしなかったら、ただ消滅するだけの組織だ!」


ナイアド「ただ、闇雲に戦っても、それは同じだ。」


ユミル「カエデさんとテルパさんは、いったいどうやってプロスペローを倒したんですか?罠にはめたのですか?それとも正々堂々と真正面がサシの立ち合いをしたのですか?あなたがたの実力は神官をも上回るものなのですか?」


オーリシエ「どう戦ったかを聞くのは、ご法度かと……。我々だって、自分の技の手の内を誰にも見せていないでしょう。」


ユミル「カエデさんは剣とロッドを両方を装備しておられる。ちょっと気になりましてね。」


レダ「もう、キュウソネコカミ状態なんだよ。我々には逃げ場が無い。たとえ、相手が強くても、もうやるしかない!」


ナイアド「エーギル様のご意見は?」


エーギル「うむ。カエデとテルパの話によると、プロスペローとキャリバンを殺った件は、おそらく、法的には何の音沙汰もなく終わるだろう。わざわざ厳重なセキュリティをオフして、法の統治に触れないところで、ひっそりと始末したかったみたいだからな……。逆に、ひっそりと始末されてしまったわけだ。二人が幽閉の塔に侵入した証拠は何一つ無いのだから……。証拠が無ければ、強引な潰しはできないだろう。ただ、キャリバンの裏切りによって、その情報は事前に洩れている。」


レダ「我々の仕業と勝手に騒ぎ立て、何らかの嫌がらせをしてくるだろうな……。」


エーギル「ここに集う者たちは、命で結束されている者たちばかりで、みな、古参の者だ。これ以上の裏切りはない。だから、武力衝突を相手が望むのなら、相手が動いてからでも遅くないだろう。テミスト!メガクリテ!決戦の準備だけはしておいてくれ。こちらも残っているのは精鋭部隊……。真っ向から殺し合いを望むようなバカな真似はしてこないと思うが……。」


テミスト&メガクリテ「ハッ。どんな交戦があっても対応できるように準備します。」


エーギル「それと、もう一つ、皆に聞きたいことがある。カエデとテルパの仲間たちの所在だ。幽閉の塔にはいなかった。プロスペローの話では、採掘船で惑星に渡ったとのことだが……、何か情報は無いか?」


オーリシエ「鉱物なら私の所で取引があります。それに、その件なら、以前、亜族の者から伝達(伝書鳩による通知)を受け取った者がおります。その鳩と手紙は、私の庁舎の金庫に保管してあります。その情報もすでに私の方で抜いておりますが、私の知らない新情報のようなものはありませんでした。情報としての価値は皆無でしたが、カエデさんとテルパさんが、ご覧になりたいとおっしゃるのなら、見せても構いませんが……。」


エーギル「他には、何か無いか?」


ユミル「知っての通り、この地上には飛行場は無い。調査船や採掘船の離発着場は、地殻のどこかにあるというのは以前から言われていることだが……。それがどこにあるのか?知っている者や見た者は誰もいない。王都の最高統治機構におけるトップシークレットだ。そもそも、地下世界への入口など、この地上にはどこにも存在しない。どこかにあるのでしょうけど、それもトップシークレットだ。その伝書鳩が採掘船の離発着現場から送られてきたのなら、その価値は計り知れないと思うが……。」


オーリシエ「地下への入口を示すような、そういう内容では無かった。書かれていた内容は、すでに我々が知っている内容でしかなかった。あとは亜族の仲間へのメッセージのようなものだけだ。情報に価値は無い。」


ナイアド「伝書鳩を保存しているのなら、発信元と飛行経路を調べれば大きな手掛かりになるのでは?」


オーリシエ「発信元と飛行経路を調べるだと?そんな方法は聞いたことがない。ナイアド殿は何か心当たりでも?」


ナイアド「伝書鳩の発育地であるプリマールの草原に、それを解読できる人間がいる。確か……、獣狩士のルフィーネという人物だ。」


ルフィーネ?ルネさんのことか……。


ユミル「もし、それが事実なら、地下世界への侵入経路を入手できるのでは?」


オーリシエ「ただ、プリマール一帯は聖農ギルドに属している。敵方に所属している者が、我々の調査になど応じてくれないでしょう。近い将来、戦うことになるかもしれませんし……。獣狩士と言えば、動物を自在に操る戦士……、しかも戦闘力が高い。向こうの主力部隊に居てもおかしくないですぞ。」


エーギル「カエデ、テルパよ、大して役に立てずに悪かったな。何せ、4年前の出来事だ。都市部では風化や変遷が早い。情報はすぐに書き換えられてしまう。亜族とは長い付き合いじゃ。我々も出来る限りのことはさせてもらうよ。その代わり、引き続き、我々にも協力していただきたい。テミスト、メガクリテ、相手方が妙な動きを見せたらすぐに報告してくれ。今日はこれで終わりじゃ。では。」


テミスト&メガクリテ「ハッ。」


オーリシエ以外の人物は、全員、瞬間移動で、一瞬でいなくなった。


オーリシエ「では、カエデさんとテルパさん、私の持っている情報が役に立つかはわかりませんが、それをお見せしましょう。2年前、私のもとに軍事用の伝書鳩が届きました。それは亜族の者から発信されています。暗号化されていたので解読しました。我々、大商人ギルドにとはあまり関係の無い内容でした。おそらく、カエデさんやテルパさんに対する個人的なことづけではないでしょうか?その伝書鳩と手紙は私の管理下にあります。何か、あなた方が探している人の手がかりになればいいのですが……。」


テルパ「オーリシエ殿、感謝しています。以前、ガルガス兵士長から聞いたことがあります。信頼できる人物が一人、あのギルドにはいると……。それは、あなたのことだったのですね。」


オーリシエは笑ってみせた。


オーリシエ「この一帯は、我々、大商人ギルドのテリトリーです。ですが、聖農ギルドの間者が紛れ込んでいることもあります。瞬間移動の使い手は、それほど多くはいません。念には念を……ということで、今から瞬間移動で、その場所まで案内します。私についてきてください。」


テルパ「わかりました。」


オーリシエ「では、行きますよ。」


次の瞬間、3人の姿がこの場所から消えた。







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