第3話 大きな空に

 等間隔に立った街路灯が道を煌々こうこうと照らす。その役割を担う自動販売機の前にスーツ姿の男性がいた。手にした缶コーヒーをあおっている。

 雄介は駆け足で通り過ぎた。数メートル先で立ち止まって振り返る。男性は空になった缶をゴミ箱に捨てて歩き出そうとしていた。その背に思い切って声を掛けた。

「よかったら、空を見てください!」

 返事を待たずに再び走り出す。戸惑うような声を背に受けたが足を止めなかった。

 何度か道を折れて目抜き通りに出た。四車線の道路では車による渋滞が起きていた。鳴らされるクラクションには多分に怒りが含まれている。歩道は虹色に染められていた。建ち並ぶ店舗は無秩序な光を放ち、人々を取り込んでいく。

 雄介は邪魔にならないように店舗の隙間に身を寄せた。

 その時を、じっと待つ。

 車の流れが止まった。時間が止まったかのように動かない。運転手は堪らず、車外に出た。信号機は赤になっていた。その先も同じであった。

「これが」

 雄介は異変に気付いた。真っ先に夜空を見上げた。

 店舗の明かりが一斉に消えた。街路灯は、ただのオブジェとなった。

 夜空に星の瞬きが浮かび上がる。厳かな背景に鮮やかな線が引かれた。

「流れ星だ!」

 思わず声になった。雄介は期待に満ちた目を周囲に向ける。

 人々は見ていなかった。突然の暗さに戸惑いが先行しているようだった。

「そんな……」

 失意の中、一方で力強い声が上がった。

「流れ星だ!」

 見ると若い男性で目を見開いて指差す。同様の声が方々で聞かれた。周囲は歓声に等しい興奮に包まれた。

 雄介は驚きの表情で即座に見上げる。

 無数の光の線が夜空を覆っていた。流れ星は加勢を受けて流星群となった。

「……君の友達なんだね」

 静かな感動が胸に打ち寄せているのか。少し涙ぐむ。それとなく人差し指で目を擦っていると人々の願いが聞こえてきた。

 雄介は右前方に目をやる。一台の車の傍らにスーツ姿の母親が手を合わせていた。

「家族が健康でありますように! 残業は減らして欲しいけど、これからの学費を考えると、まあ、無理な訳で、とにかく家族が幸せでありますように!」

「お金が欲しいって言えばいいのに」

 くすりと笑って雄介はパーカーのフードを目深に被った。自然な足取りで、その場を離れる。

 脇道に入った途端、フードをけて笑顔で駆け出す。

 前方にある街路灯の明かりが点いた。走りながら夜空を見上げると粉っぽい光に阻まれて星は見えなくなっていた。

「ありがとう!」

 感謝の言葉を夜空に放つ。母親の車と競うかのように全力疾走となった。

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街の夜空を駆け抜ける 黒羽カラス @fullswing

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