第2話 変わらない退屈な日常

 教師の長い話が一旦終わり、みんなにちゃんと話を聞くように注意をしてから再び口を開く。


「今日は、みんなに紹介したい人がいる。入ってきてくれ」


 教室に入ってきたのは一人の男子生徒。短髪に健康的に日焼けした肌をしていて、なぜか目が離せなかった。


「今日から新しく仲間になる子だ、仲良くしてくれよ?」

綿貫葵わたぬきあおいや。京から引っ越して来はったんやけど、こっちのことはよぉわからんのや。だから、教えてもらえたら嬉しいんやけど、よろしゅう頼んます」


 かなり強い関西弁でそんなことを話ながら、綿貫という男子生徒は笑顔を浮かべた。


「綿貫の席は、東雲の隣な。東雲、頼むぞ」

「聞いてないんっすけど……」


 抗議するものの、その転校生は空いた隣の席へとやってきて座った。


「東雲って言うんやね、よろしゅう」


 特に返事は返さずに、私は一時間目の授業の準備を始めた。この学校は広いだけでなく、授業も自分の選択制が多い。私はそのため、一日の半分以上を美術棟で過ごしている。


「どこ行かはるの?」

「授業」

「ここで受けへんの?」

「私はね。同じ授業の奴に、どこの部屋か聞いて。それじゃあ」


 移動教室が続くためその分の教科書等を持ち席を離れようとした時、転校生に声をかけられた。


「俺もその授業なんやけど、一緒に行ってもええ?」

「勝手にすれば」


 それだけ言い、廊下へと出る。すると、教室に残ってる人達が私の陰口を言い始めた。


「あの変人が面倒見るんだってな」

「綿貫くんも大変だね」

「変人が移らなければいいけどな」


 どうでもいいと思いながらその言葉を聞き流し、一応転校生が出てくるのを待つ。


「待たせてかんにんな?」

「別に」


 目的の教室へと歩きながら、彼が口を開く。


「さっきの、言い返さへんの?」

「猿に言い返して何になる?」

「猿は言いすぎかも知れへんけど、せやね」

「何もしてこないなら、言いたいこと言わせとけばいいし。ここが最初の授業、日本史をやる教室だ。席は基本的に自由で、みんな好きなように座ってる」

「おおきに、助かったわ」


 私は窓際の一番後ろの席に座り、持ってきた文庫本を開く。その隣に彼が座るのをちらりと見て、また視線を手元の文章へと戻す。授業開始までそんなに時間はないが、どうせ今日も先生は遅刻してくるだろうし、他の生徒達もそれをわかってなのかまだ来ない。予鈴がなるが、教室にいるのは私達二人とあと数名。


「他はどないしたんやろ?」

「これがいつも通りだよ」


 授業を告げるチャイムが鳴り、いつも通りの変わらない日常の始まりを告げた。

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パレット&キャンバス! 樫吾春樹 @hareneko

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