第1話 若葉芽吹く季節に

 高校生になれば、恋をしたり彼氏ができたりするものだと、幼い頃の自分は思っていた。だけど実際はそんなことは無くて、高校生活の一年目はひたすら部活に身を捧げていた。


 私は美術部所属で、今年から二年生になった東雲心春しののめこはる。美術一筋で、中学の頃も美術部にいた。


「はーるー」


 突然部室の扉が開き、同級生が飛び付いてきた。名前は榎本咲えのもとさきで、私の幼馴染みで腐れ縁だ。


「何だよ、咲」

「今日、転校生が来るんだってさ」

「あっそう」

「興味無さそうだね」

「無いし。咲も邪魔しないてないで、早くクラスに帰れば?」


 少しふてくされながらも彼女は離れ、椅子を持ってきては静かに座った。咲も同じ美術部の一人だが、彼女は基本的に幽霊部員だ。


「咲、またサボるつもり?」

「サボらないよ。そういう春こそ、そろそろ行かないとじゃないの?」

「わかってるよ」


 パレットをキャンバスの近くに置き、制服の上に着た作業着を脱いで同じように置く。流石に暑くなってきたせいで、脱ぐとむわっと生暖かい空気が出てくる。


「やっぱり男の子みたいだよね、心春」

「うるさい」

「彼氏できたら、どんな風になるのかな」

「どうせ、男っぽい自分にはできない」


 肩までの黒髪を後ろで縛り、細いフレームの眼鏡をして、制服はスカートではなく学校指定のスラックスを履いている。首元にはするはずのリボンはしていなくて、第一ボタンは開けていた。目付きがきついのもあってか、喋らなければ男子と間違われる中性的な顔立ち。おまけに、性格は男みたいに荒い。そのせいもあってか、女子には好かれるが男子にはまったく。というよりも、同性扱いされることが多い。


「ほら、早く行くぞ」

「はーい。転校生楽しみだね」

「別に。興味無いし」


 美術室にはよくある角椅子に置いたリュックを持ち上げ、二人で部屋から出ていく。階段を降りて一つ下の階へ行き、真ん中辺りにあるクラスへと入る。


 四階建ての校舎は、西と東と別れていてそれぞれが二棟ずつある。私達がいるのが西棟の総合科。隣は普通科で、東棟はすべて工業科が使っている。総合科の一階は三年生、二階は二年生が使っている。三階は美術系の教室が多くあり、別名「美術棟」と呼ばれている。棟でも何でもなく、ただその階が美術系の部屋が多いだけなのだがら何故か棟なのだ。そして、四階は一年生達のクラスが並んでいる。


「HR始めるから席に着けー」


 扉から入ってきた担任がそう告げ、教室の中で友人達の所で話していた生徒達がそれぞれの席へと戻っていく。


「今日はみんなにお知らせがあるから、最後までちゃんと話聞けよ?」


 クラスの人達が「何だろう」と、ざわつき始める。そんなことに興味が湧かない私は、教師の話などお構い無く、ハードカバーの本を取り出して読み始めるのだった。

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