最終回

《ちゅうに探偵 赤名メイ 最終回》


「おはようございまー・・・

「遅い!」


俺が事務所に入るや否や、赤名探偵から叱責が飛んだ。もう、これも慣れたもんだ。俺はすぐさま赤名探偵のデスクへと歩み寄る。既にメンバーは揃っており、この間赤川の事について一緒に調べてくれたジャスティスこと白井、ピンクガーデンこと桃園、小学生のアーサーこと藍沢、そしてブラックサンダーこと黒柳。みな、それぞれデスクに向かっている。アーサーこと藍沢に関しては久しぶり過ぎてキャラを忘れている程だ。そして赤名探偵は腕を組んだ。


「・・・ひとまず、お疲れさん。私も現地に行く予定だったが、どうしても外せない仕事があってな・・・」


外せない仕事・・・、あんな明け方に、か・・・?


と疑っていると、ブラックサンダーこと黒柳がコソッと耳打ちしてきた。


(本当は、お前の事が心配で夜中まで起きてたんだが、限界が来て寝ちまったんだよ)


心配・・・、赤名探偵が・・・?


俺はその事実を知り、自然と笑みが溢れた。


「ん、笑うな・・・」


照れ隠しに1発俺の腹に拳を立てるが、赤名探偵は語尾ははっきりしなかった。


「すいません。・・・それで、何か事件ですか?」


俺は何の依頼かと問う。が、赤名探偵はニヤッと笑うと、俺の後ろにある扉に向かって叫んだ。


「おい、良いぞ、入ってこい!」


荒々しく呼ばれた誰かは、静かに扉を開けた。入ってきたのは、藤堂警部たちだった。


「久しぶりだな」


松葉杖をついて、浅井さんに支えられながらの登場だ。その後ろには西嶋さんと梅原さんもいた。2人とも、藤堂警部が入院していた際、お見舞いに来た時に俺とすれ違って以来だ。


「藤堂警部!もう出歩いて大丈夫なんですか?」


「良いわけないだろ、抜けてきたんだよ、コレの為にな」


俺の問い掛けに松葉杖で突っ込みを入れる藤堂警部。何やら書類を持っている。


コレ?一体何だ?


藤堂警部がその書類を浅井さんに渡すと、それを読み始めた。


「『赤名探偵事務所、青山 凌 殿。あなたは、的確な判断をもって宮城 久松 逮捕に尽力されました。よって、ここに警察を代表して、感謝状を送ります。 捜査一課 藤堂』・・・」


・・・感謝状・・・?


「あ、あの・・・これって、一体・・・?」


俺は呆気に取られた。赤名探偵を見ると、うんうん、と頷いていた。その他のメンバーも、何やら知っていた様に頷いたり、ニッと笑ったりしていた。


「俺たちは今回の事件、完全に君たち赤名探偵事務所に任せてしまっていた部分があった。特に青山、君にな。最初は警察だけで動こうかと思っていたんだが、規模が規模だったからな。どうしても君たちの協力を仰がなければいけなかった。そして、青山が宮城の部下と知り合いだという事を知り、俺たちはそれに甘えてしまった。どうしても警察が動けない領域になってしまうと手が出せないからな。捕まり、怪我や幼馴染みである赤川 千尋(あかがわ ちひろ)の逮捕により精神的にも傷を負わせてしまった。深く謝罪の意を込めると同時に、今後もより良い関係を保つ為に、今回、こういう形で感謝を伝えようとしたわけだ。本当にありがとう。そして、申し訳なかった」


藤堂警部が深く頭を下げると、それに続いて浅井さん、西嶋さん、梅原さんも頭を下げた。


「・・・そんな事・・・」


俺は正直今回の件について、思うところは多々ある。危ない綱渡りで、命があるのは結果論の末だ。いつ殺されてもおかしくはなく、幼馴染みの逮捕、普段の生活からは全く想像する事のできない事に、俺は貴重な体験をした、と思うのか、二度とごめんだと思うのかは、まだ心の中にある。次に出る言葉が、全てだ。


「・・・俺はそんな言葉が欲しくて、宮城逮捕に協力したわけではありません」


俺はこの時、少し言葉を間違えたかもしれない。


「俺は幼馴染みが助けを求めていたのを無視できずに、助けに行った。休みの日を使って、個人的に・・・。ですから、この感謝状は受け取れません」


藤堂警部たちはキョトンとしていた。だが、その顔はすぐ口角を上げて笑った。


「今回の件、お前さんは全くのプライベートだと言ったが・・・赤名、どうだ?」


「あ?」


赤名探偵は女子らしくない言葉で答えた。


「本当に、青山は休みの日に捕まり、最終的に宮城逮捕へ協力したのか?」


何だ、何が言いたいんだ・・・?


俺は2人の会話について行けなかった。


「あー・・・そうだな。私が青山に休みを言い渡したのは2、3日。コイツが捕まったのが休みの2日目、宮城逮捕の瞬間は、3日目の朝だ」


・・・それがどうしたんだ?


「私は2、3日という曖昧な表現で休みを言い渡した。よって、2日でも3日でも休みは切れたわけだ」


そこで赤名探偵はニヤッと笑った。


まさか・・・。


「青山。宮城逮捕の瞬間の3日目の朝は仕事のはずだったぞ?その感謝状は貰わねばならんなぁ〜」


そういう事かよ!


赤名探偵はしてやったりな顔でニヤニヤしていた。


こりゃ、受け取らなきゃ締まらないな・・・。


俺はため息を吐き、藤堂警部に体を向けた。そして一呼吸置いてその感謝状を受け取った。


「これからも、宜しく頼むぞ」


はっはっはっ・・・、もう好きにしてくれ。


呆れながらも無理やり作った笑顔は引きつっていた。俺が無理やり感謝状を受け取っていると、ピンクガーデンこと桃園が突然叫んだ。


「あっ!!!」


な、何だ次は!?


「忘れてました!届くの今日でしたよね?」


届く?何がだ?


「そうだな、もう来る頃なんだが・・・」


ゴンゴン。


赤名探偵が時計をチラッと見た瞬間、タイミングを図った様に探偵事務所の扉を叩く音が聞こえた。開けるとそこには宅配業者がおり、何やら大きな物を2つ運び入れた。


「何ですか?」


「ふっ、お前にプレゼントだ」


俺に?


その大きな包みを開けると、赤名探偵や、事務所のメンバーが使っているのと同じ机と椅子が現れた。


「・・・おぉ・・・」


俺は感嘆の声が漏れた。ブラックサンダーこと黒柳が、俺が今までデスクとして使っていた段ボールを潰し、ジャスティスこと白井が机を設置し、ピンクガーデンこと桃園が椅子を置いたが、アーサーこと藍沢は何もしていなかった。


お前は何もせんのかい!


心の中で突っ込みを入れ、俺は改めて自分のデスクを確認する。正直声にならなかった。しばらく眺めていると、痺れを切らしたのか、赤名探偵が肩にポンっと手を置いた。


「まだまだ一人前と呼ぶには早いが、一人前になるための一歩だ。働いてもらうぞ?」


「・・・はい・・・!」


ようやく、認められた気がした。俺は胸が熱くなり、上手く言葉を発する事がでかなかった。嬉しかったのだ。こんなに、誰から認められる事が自分にとって大事だったのかと、再認識できた。しかしその束の間、探偵事務所内に一本の電話が。それを取るピンクガーデンこと桃園。数回頷いて切り、顔を上げて、赤名探偵を見る。


「人探しの依頼です!依頼者さんとはこれから喫茶【スターゲート】で待ち合わせです!」


赤名探偵は頷いた。


「よし青山、いや、ブルーマウンテン、行ってこい!」


「はい!!」


俺はすぐに返事をし、探偵事務所から飛び出した。








《ちゅうに探偵 赤名メイ》終わり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちゅうに探偵 赤名メイ 神有月ニヤ @yuuya-gimmick

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る