第249話 外伝 のんびりとしたとある日のこと

 どうもっす。僕っす!

 良辰が公園に僕の巣を作ってくれたんですが、結局良辰の家のテラスにいます。

 先輩もよくここにいますからね!

 

「よお。ハト」

「先輩! ちいいいっす!」

「今日もいい天気だな……くああ」

「そうっすね!」


 テラスの手すりに先輩と並んで留まり、ぼーっと空を眺めているとうつらうつらしてきます。

 あ、あの雲。いもむしに似てるっす。

 良辰がこの辺りを魔法の壁で塗り固めてしまったので、いもむしがいなくなっちゃったっす!

 タイタニアが餌をくれますが、やはりいもむしには敵わないっす。いもむしうめえっす!

 

「やはりいもむしっす! いもむしがいいっすよね! 先輩」

「……」

「先輩!」


 先輩が返事をしないっす。

 反応がないっす。こいつは一大事です。先輩は僕と違って蒸発したら終わりなんですよ。

 

 こうしちゃあいられないっす。

 翼をばさーと開き、空へと飛びあがり、一直線に先輩の首元へきりもみですよおお!

 ギュるるるるる。

 我ながらいい回転です。

 これなら、先輩をこっちに戻すことができるはずです。

 狙うは顎下。

 嘴をしっかりとしめ――。

 

「こううらあああ。殺す気か!」

「先輩、生きていたんですね! よかったっす!」


 先輩は漆黒の羽を揺らし、華麗に僕の嘴を回避しました。

 そして、先輩はくあああと目を剥き嘴をパカンと開いて僕を威嚇してきます。


「寝てただけだろうに。全く」

「やっぱり先輩はすごいっす。パネエッス!」

「意味が分からん……。それよりハト。良辰の一番好きな奴って誰か知ってるか?」

「先輩じゃないんですか?」

「違うわ!」

「じゃあ、まさか、僕っすか! いもむしをくれるなら何でも聞きますよ」

「それも違うわ!」


 はて。好きな奴ですか。

 先輩でも僕でもないとすると、誰なんでしょうか?

 きっと、パネエ人に違いありません。

 俄然興味が湧いてきました。いもむしと餌の次くらいに。

 

 僕の興味を感じ取ったのか、先輩が独り言のように呟きました。

 

「ま、でも。ハトってのは遠い話じゃあねえな」

「やはり僕なんですか!」

「違うわ!」


 む。むむ。

 僕と似たような存在が他にもいるのでしょうか?

 良辰のことなんてどうでもよくなってきました。僕のお仲間がいたなんて驚きですよ。パネエッス!

 

「どんな人なんですか?」

「そいつは集にして個。個にして集。群体にして個。個にして群体。いつも良辰の傍にいる。良辰も稀にそいつを愛でている」

「おおおお。近くにいるんすね! パネエッス!」


 居ても立っても居られなくなった僕は翼をはためかせ、良辰を探しに行くことにしました。

 

 ◇◇◇

 

「そんなわけでやって参りました」

「良辰の部屋に」


 僕の言葉に先輩が続きます。

 良辰は自室にいました。さすが先輩です。一発で良辰の居場所を当てるなんてパネエッス!

 

「来るのは百歩譲って構わないけど、乗るな!」


 良辰が何やらわめいています。

 良辰の頭は狭いのだから、動くと落ちそうになるじゃないですか。

 先輩と二羽で乗ると狭い狭い。

 あ、落ちそうに。

 

 そんな時は爪を思いっきり引っかけます。

 

「抜ける。俺の髪が抜けちゃう!」

 

 良辰が僕を払いのけようと手を伸ばしてきましたが、空中に飛び上がり易々と回避できました。

 彼は動きがトロいのです。


「こらあああ。飛び回るな! ハト。そして、カラスはいい加減、俺の頭からどけえ」

「僕は捕まるわけにはいかねえっす! パネエッス!」

「羽毛が飛び散る! せっかくさっき掃除したばっかりなのに」

「お前が掃除したわけじゃないだろ、良辰。またタイタニアに頼めばいい」


 良辰の叫びに、先輩が鋭すぎる突っ込みを行いました。

 ぐうの音も出ない良辰は先輩を頭に乗せたまま項垂れてしまいます。

 

 一見すると、良辰で遊んでいるだけに見えると思うことでしょう。

 ですが、これは先輩の深淵なる作戦行動だったのです。

 

 ほら、良辰が僕の羽毛を拾い集め始めましたよ。

 いよいよです。

 彼が四角い箱の中に羽毛を放り込みました。

 

『おいちいいいい。こんないいものを』


 こ、この人がが良辰の好きな人っすか。

 確かに先輩の言った通りです。良辰がにやにやしていますよ!

 でも、分かります。

 彼女の声、マジ可愛いっす。僕も好きになってしまいました!


「良辰! その子のこと好きなんすか?」

「え、いや。嫌いじゃあないけど……ゴミ箱だぞこれ……」

「好きなんすね! 僕も一発で惚れてしまいました」

「惚れるって、ゴミ箱さんは無生物だぞ。レベルが高すぎるだろ……」

「そんな顔をしても騙されませんよ! 良辰はいつもニヤニヤしていると先輩から聞いてます」

「そ、そんな人を守銭奴みたいに。そんな顔をしていたのか俺……」


 頭を抱えてへこんでいるフリをしているのでしょうが、賢い僕は騙されませんよ。

 略奪愛。パネエッス!

 いえ、そもそも相思相愛とは決まったわけじゃあありません。奥手な良辰のことです。きっと片思いに違いありません。

 

「カラスさん、ハトさんー」

 

 扉の外から餌の人の声がします。


「おい、ハト。タイタニアが探している」

「餌っすね! 行くっす!」 

 

 餌となれば行かねばなりません。

 待っていてくださいね。愛しい人。また会いに来ます。


※パネエッス! もう意味が分からんっす!

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最強ハウジングアプリで快適異世界生活 うみ @Umi12345

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