第248話 それからそれから
あれから三ヶ月の月日が流れた。
実りの季節となり、農場では連日収穫で大賑わいだ。牧場も順調に家畜の数が増えていて、安定して肉が供給されるようになってきたと聞く。
ゴミ箱さんに投入されるゴミも増えに増え、ゴルダは青天井に増えていっている。ゴルダの桁って何桁までいくのかなあ……なんてハウジングアプリを覗くたびに思ったりしていた。
クリスタルパレス公国からの移住準備も進んでいて、冬になる前に第一陣が大草原にやって来ることで調整がついている。
場所は大草原の一部とフェリックスの領土に隣接する土地を使うことになった。フェリックスの領土近くは森林地帯だから、木材も豊富に伐採できるんじゃないかな。
いずれにしろ最初は物資が足らないだろうから、ハウジングアプリでサポートする予定だ。
強力な害獣が入ってこないように一キロ四方で升の目になるような形で我が道を敷くつもりでいる。森林はどうするか、要相談。
少なくとも、大草原に関しては升の目を採用ってことで。
「フジィ、準備はできた?」
階下からタイタニアが俺を呼ぶ声がする。
「おー、今行くー」
お気に入りのジャージを着こみ、ドアを開けて階段を降りた。
「お。遅かったな」
「ごめんごめん」
実は服で悩んでいたのだ。
いつもジャージだから、こんな日くらい別の服にしようかなってね。
リビングにはタイタニアとワギャンが既に着替えて待っていてくれていた。
でも、二人の服を見た時、俺の気持ちが変わってしまう。
「そうだ。着替えてしまったところ悪いんだけど、準備したい服があってさ。見てくれないかな」
「うん!」
「何か考えがあるんだな」
二人は特に気分を害した様子はなく、むしろ期待に胸を膨らませているようだった。
せっかくだから、もっとこう気分を盛り上げるような服にしたい。
ゴトリ――。
ハウジングアプリで注文すると宝箱(小)から聞きなれたいつもの音が響く。
「これ、浴衣だよね」
「この前のモノがあるんじゃないか?」
宝箱を覗き込んだ二人が思い思いの声をあげる。
「そうだったあああ。せっかくのお祭りなんだ。みんなで着ようと思ってさ」
「ふじちまらしい。この前と模様まで同じだぞ」
「わたしも!」
あ、あはは。
センスまで同じだったとは、さすが過去の俺、考えることが同じだな。
「マルーブルク達のもあったよな。ジルバやマッスルブの分は無かったっけ」
「そうだな。みんなで着れば楽しそうだ」
「うん!」
あはははと朗らかに笑いあった。
そうなんだ。本日はお祭りを開催する予定なんだよ。
前々から、無事収穫ができたらやろうやろうと言っていた収穫祭がいよいよ開催となったわけなのだ!
花火とかも準備して、盛大に祝おうじゃないか。うんうん。
◇◇◇
集会場にみんなを呼び出して、それぞれ浴衣に着替えてもらう。
「ヨッシー。やっぱりこれはキミの趣味かい?」
「おそろいですね。マルーブルク」
マルーブルクはラベンダーと淡い青色の浴衣。
一方でフェリックスは柄が同じで柄と下地の色が入れ替わった浴衣を着ている。
もちろん、女性物だ。ははは。たまにはいいじゃないか。
フジデリカって懐かしい。
「胸がキツイみゅ……」
「帯が回らないぶー」
バッチリと決まっているジルバに対し、黄色と淡い青の浴衣をはだけさせているアイシャに帯を手に持ったままのマッスルブ。
あちゃー、サイズが合わなかったか。
でも、それはそれで俺らしいかもしれない。困っている二人を見て、つい微笑んでしまった。
きりりと決めたフレデリックとそれとは対照的なクラウスも並ぶと絵になるし、リュティエの着物姿は案外似合うことが分かったり。
下駄をはいたリュティエって結構カッコいいんだぜ。
「ふじちま、紹介する。ティンパニだ」
ワギャンと手を繋いで現れたふわふわした淡い茶色の毛並みのコボルトがペコリとお辞儀をする。
「大魔術師様、初めまして。ティンパニです」
「藤島って呼んで欲しい。ワギャンの彼女にそう呼ばれると痒くなっちゃうよ」
「彼女……い、いえ、そんな」
ティンパニは恥ずかしいのか、ワギャンの後ろに隠れてしまった。
あれ、ワギャンの好きな人ってティンパニじゃなかったっけ。彼と恋人同士になったんだと思っていたんだけど……。
「聖者様。翼が入りません。どうすれば」
腰帯だけ締めて、胸にサラシを巻いたフレイが上目遣いで俺を見上げてくる。
「だあああ。服、服着て。頼むから。タイタニア……、あああ、アイシャ……どっちもダメだああ。どうしよう。お、おお。ティンパニさん!」
「はい!」
「何とか頑張ってフレイに浴衣を着させてやってくれ」
「わ、分かりました!」
ティンパニに手を引かれ、フレイが着替えに戻って行った。
◇◇◇
何のかんのあったが、うちわを持って公園に来るところまで進んだ。
公園の南側に特設会場を作っているんだけど、人でごった返しているし、俺が行くと騒ぎになりそうだったから夜の公園でゆったりすることにしたんだよ。
ベンチに腰掛け、隣にはタイタニアが座っている。
何かと煩いクラウスはフレデリックと仕込みに行ったし、マルーブルクとフェリックスコンビは特設会場に挨拶へ。
リュティエも同じく。
ワギャンはブランコのところでティンパニと語り合っていた。
フレイ? フレイはまあ、うん、魔族の客人の相手をしなきゃで挨拶に行ってしまったのだよ。本人はとっても嫌がっていたけどねえ。「聖者様と一緒に夜を楽しむのですうう」とか勘違いされそうなことを叫びつつ、何度も振り返っていたっけ。
マッスルブらは俺が何度も登ったあの展望台から空を眺めている。
てなわけで、残ったのが俺とタイタニアってわけなんだ。
「お、そろそろ始まるぞ」
うちわを空に向けると、タイタニアがそれにつられるように空を見上げる。
「わああ。あ、あがったよ!」
タイタニアがきゃっきゃと空を指さす先にオレンジ色の花火が光った。
「おお。一発目はこれできたか。さすがクラウス。いや、フレデリックさんだったか」
続いて、連続で花火があがり、巧みに色と形の違うものを混ぜ合わせたこの繊細な進行はフレデリックで間違いない。
クラウスは打ち上げに徹しているのかなあ。
空に上がる花火を楽しんでいると、いつしかタイタニアとの距離が縮まり彼女の頭が俺の肩に乗っていた。
「ねえ。フジィ」
「ん?」
俺の肩から頭をあげ、じっと俺を見つめてくるタイタニア。
彼女の顔が妙に色っぽく、桜色の唇が嫌に目に付く。
「あのね。フジィ」
「うん」
何かドキドキしてきた。この感じ……まさか。
「闘技大会をいつするのかって、みんなから聞かれてて」
「あ、そうね。闘技大会ね。あはははは。まあでも、今はそれを忘れて花火を見ようぜ」
「うん!」
再び頭を俺の肩に乗せるタイタニアの顔をチラリと横目で見てから、空を見上げる。
色とりどりの花火が一斉にあがり、空を明るく照らす。
いろんなことがあったけど、これからの幸せを暗示しているようで思わずにやけてしまう俺なのであった。
おしまい。
※ここまでお読みいただきありがとうございました。
思った以上に長いお話しとなりましたがこれにて一旦幕引きとなります。
また外伝を投稿していくかもしれません。
お読みいただきありがとうございました!
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