大と唯 ごはんでーと

「たまには私からでーとに誘います!!」


「お、おう。それはうれしいな」


 とある休日の日曜日。妙な気合いと共に家にやってきた唯は元気にそう宣言するのだった。


「ごはんでーとをします」


「おう。じゃあ何が食べたい?」


 お家デートと似たようなものだろうと思い唯が好きなメニューを頭の中に思い浮かべる。例によってお肉類だとは思うが。ちなみに二度とフランベはやらない。


「違います!」


「は?」


 なんだか今日はいつにもまして張り切っているような。ぐいっと顔を近づけて、唯がこう言ってくる。って近い近い近い……!


「今日はお家じゃなくて、外で食べよう!」


     ★  ★  ★  ★  ★

 

 唯に引っ張られる形で二人は駅前に来た。ここは結構いろんな食べ物が多いため駅を利用しない人も来るくらいの場所。デートコースとしてはぴったりだろう。


「で、何を食べるんだ?」


 時刻は昼ご飯には少しばかり早い時間。となると屋台で何か買う流れなのだろうか。


「えっとね……まず定番のたこ焼きでしょ?それから焼きそばに焼き鳥にからあげにビーフストロガノフ……」


「待て待て待て」


 すぐさま移動を始めようとした唯の肩をがっしりとつかむ。


 いや、軽食なんじゃないの!?ていうかなんでビーフストロガノフの屋台があるんだよ!!


「え?だってそこに」


「うっわほんとにあるし!」


 まじかよ。屋台で出すもんじゃないだろこれ……。


「取り敢えずたこ焼き買ってくるね?」


「え?いやそれくらい出すぞ?」


「いーのっ。今日は私が誘ったんだから!」


 言って、屋台へと向かっていく唯。取り敢えず近くにあったベンチに座って待つことにした。

 今日ほんとはりきってるなぁ……。


「買ってきたよ~」


「お、さんきゅ」


 戻ってきた唯の手にはたこ焼きが1パック。ん? 1パック?


「……俺の分は?」


 まさかのおあずけなのだろうか。何にもしてないのに。


 ゆたかの隣にぽすっと腰を落としこちらを見上げる唯。若干顔が赤い。


「えっと。最近私はゆー君成分が足りません」


「は?」


「簡単に言うとイチャイチャが足りないの!」


 ……まあ確かにここ最近はテストがあったりして一緒にいるとしても勉強しかしてなかったような。


「えっと、じゃあ今日のメインテーマは……」


「ごはん!!」


 あれ!?言ってることが違わない!?


「……もそうだけど今日の目的はイチャイチャすることです」


「…………」


 やっばい。何この子かわいい。こっちまで顔真っ赤になりそうなんですけど!?


「えっと。具体的には……?」


「あ、あ~ん……」


 そう言って爪楊枝に刺したたこ焼きをこちらに差し出してくる唯。

 

 ……成る程。


「テンプレだなぁ」


「いーのっ」


 そう言って口の中に押し込まれるたこ焼き。


「あっつ!?」


 照れ隠しでつい余計なことを言ってしまった。


「おいしい?」


 顔をくりんっと傾けて聞いてくる。なんか今のかわいい。


「お、おう。うまいぞ」


「そっかぁ」


 満足そうな顔で微笑むともう一つたこ焼きを爪楊枝で刺し、こちらに差し出してきた。


「んっ」


「あーん」


 ゆたかはもう一度食べようとするが、


「むっ」


 急に唯が不満そうな顔になり、たこ焼きを引っ込めてしまう。


「あれ?」


「そうじゃなくて…さ。ほら。私は食べさせてあげたけど、まだ、食べてないよ?」


「……っ!?」


顔を赤らめ、どこか期待を含んだ眼差しをこちらに向けてくる唯。


 ……今の顔は駄目だろ。なんというか、思わず目を逸らしてしまった。


「あ~ん」


 顎を少し上に向け、小さな口を開いて食べさせてくださいモードの唯さんがそこにはいた。


「あ、あーん」


ゆっくりと、唯の口の中にたこ焼きを持っていく。


「んっ」


「…………」


「どうしたのゆー君?顔真っ赤だよ?」


駄目だ。これは完全に駄目なやつだ。もう隣の彼女の顔が見れない。

その後も食べさせあいっこは続いたのだが、ゆたかは最早機械のように唯の口にたこ焼きを運ぶことしか出来なかった。


まだまだでーとは始まったばかりである。














     


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る