大と唯 映画館デート


今日も今日とてデートである。この前は水族館、さらにその前はお家デート。

…というか他のカップルは付き合っている彼女とデート以外だと何をするのだろうか?


「ゆー君?」


いやそもそも出かけるだけなら恋人でなくてもできるしそうなると恋人同士ですることつて一体全体なんなのだろうかとか思ったりする。


「ねぇゆー君?」


まあだからといって唯と恋人でないかと思うとそんなこと考えたくはないのだが。

…これって惚気なのか?いや、それ以外の何物でもないか。


「ゆー君ってば!!」


耳元で大きな声で叫ばれ、そこでようやく自分の彼女に呼ばれていたことに気づく。


「あー…悪い。ちょっと考え事をな…。で、どうした?」


「『どうした?』じゃないよ!この中でどれ観るのって聞いたの!」


いかにも怒ってます!といった雰囲気でポスターを指差す唯。怒っている姿も小動物のようで可愛いのだが。

まあつまり、今回は映画館デートという超ド定番のデートに来ているのだった。


      ★  ★  ★  ★   ★


前回行った水族館の近くに大型のショッピングモールがある。その中に併設されている映画館にゆたかと唯は来ている。


「で、どれを観るのかな?私はキュアキュアとかいいと思うんだけど」


「キュアキュアかぁ…。恋人向けじゃあなくないか?」


キュアキュア。ある日不思議な力を手に入れてしまった女の子たちが悪の秘密結社ジョッカーと戦う物語。

ガッツリ子供向けだが幅広い年齢層の人たちから人気を得ている。ちなみにゆたかも唯もその中の人たちだったりする。


「えー。でも私たちなら平気じゃない?」


「いや、確かに平気だが……。もう少しこう、恋人らしい映画ってないのか?」


「良いじゃん、キュアキュア!応援上映だよ!!光る棒だよ!?」


 ブンブンと棒を振る仕草をする唯。なんかもう本人の中では見ることが決定しているような。


「………お前俺に選択肢くれる気ないだろ」


「そ、そんなことないよ?ほら、『キュアキュア』と『大阪ラブストーリー ~俺と彼の五日間~』どっちが良い!?」


「お前その二択を俺に選ばせるの!?」


 それもう一択じゃないのだろうか。


 彼女と観る映画にしてはちょっと自分たちにはハードルが高すぎる選択肢を前に、折れるしかないゆたかなのであった。


     ★  ★  ★  ★  ★


「面白かったね!ゆー君!皆もノリノリだったし!!」


 映画が終わり、その興奮が冷めないままのテンションではしゃぐ唯。映画の最中もかなりはしゃいでいて、何回かいい角度の拳がほっぺたに突き刺さったりした。

 きっと将来有望なボクサーになったりするのかもしれない。


「そうだな、まあ確かにやっぱり面白かったよなぁ……」


 そう。なんだかんだ言いつつゆたかは映画には満足していた。特に映画の子ども向けらしからぬ重厚なストーリーに感動していたりする。


「うんうん!やっぱりキュアキュアにして良かったでしょ?ゆー君も私も楽しめたんだし!」


 そう言ってナチュラルに手をつないでくる唯。テンションが高いせいか心なしかいつもより手が温かいような。


「えへへ…ゆー君の手、いつもよりあったかいね。映画観た後だからかな?」


 手をきゅっとにぎにぎしてくる唯。いつもしているはずの行為のはずなのに、映画一本観た後というだけでこんなに感覚が違うことに驚く。

 つないだ手からお互いの体温が伝わり、全身がかぁっと熱くなってくる。手汗が出てきているのか、少し湿った感覚を覚えるが決してその手は離さない。


「…………」


 先ほどのテンションから打って変わって静かになるゆたかと唯。映画の感想で盛り上がっていたが、もはやそんなことは気にならない。

 大型ショッピングモールと言うだけあって人は多いのだが、意識はつないだ手のみに集中してしまう。お互いにちらっと顔を見つめ合いすぐに逸らす。そんなことを数回繰り返す二人。


「ねえ、ゆー君」


「ん。どした?」


 短く返事を返すゆたか


「やっぱりキュアキュアにして正解だったでしょ?」


 唯が頬を赤く染めながら笑顔で聞いてくる。


「まあ、そうかもな」


 確かに、他の映画を観ていたらこんなに暖かい感覚は得られなかったように思う。たとえ恋人向けじゃあなかったとしても、お互いが好きな映画を観たからこそこうなったのだ。


「…まさか最初っからこうなることを考えてたわけじゃないよな……」


「ん?ゆー君何か言った?」


「いや、なんでもない」


 唯はそこまで考えていたわけじゃないとは思うが。それでも唯のおかげでこうなったのは変わらない。そう思うとうれしさがこみ上げる。

 結局家に帰るまでずっとぽかぽかした気持ちでいる二人なのだった。




 


 


 







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