大と唯 ゲーセンデート

「あと一回!あと一回でとれるからぁ!!」


「おまっ。すでに野口さんが何人溶けたと思ってる!?これ以上はやめなさい!!」


人は、欲しいもののためであれば少々の犠牲は気にはしないだろう。しかし、それしか見えなくなった場合、他のことが頭に入らなくなることもある。


 ……今の唯なんかその状況にぴったりだと思うのだが。


 そう。だからこそ恐ろしい速度で野口さんが穴に吸い込まれ、硬貨として生まれ変わっちゃったりしているのだ。なんと無慈悲な。


 どうしてこうなった。ゆたかは当初はこんなことになるとは思っていなかったのだが。


「ほんと。どうしてこうなった」


     ★  ★  ★  ★  ★


 学校終わりの放課後。今をときめくカップルなゆたかたちは今、近所のゲームセンターに来ていた。

 ゆたかとしては、プリクラや二人でやるゲームを中心にほのぼのカップルらしいことをしたかったのだが。


「ゆー君見て見て!キュアマゼンタの限定フィギュアだって!!」


「え。まじか」


 問題はUFOキャッチャーの前を通りかかったときに起こった。UFOキャッチャーの中身はキュアキュアの限定フィギュア。この前の劇場版限定キャラ。


「う~ん。これくらいなら取れないことはない、か?」


「え、ほんと!?」


「ん。多分?」


 なんて。ちょっと彼女に良いとこ見せようとしたのが間違いの始まりだったのだ。

 結局2、3回挑戦してみたが、まあそう簡単に取れるものではなかった。


「やっぱ難しいかなぁ」


「わたしやってみていい?」


 と、今度は唯が挑戦してみることになったのは良いのだが。結果今に至る、という訳だ。

 1回、2回失敗したときはほにゃりと笑っていたんだけどなぁ……。


「ここをアームで引っかければ取れると思うから!!」


「だからそれで何回失敗してると思ってるんだ!?」


 もはや最初のプランは完全崩壊である。さようならほのぼのデート。


「ほら、じゃああと1回俺がやるから、それで取れなかったら諦めろよ?」


 流石にこれ以上無茶をさせるわけにはいかないので無理矢理変わる。


「う~……」


「そんな頬を膨らませた顔しても駄目です!頑張って取るから!な?」


「う、うん。頑張って!!」


 まだ少し不満そうだが身体の前で小さく両手でグーを作りながら応援してくれる唯。


「さて、やってみるとしますか!」


「おー!!」


   ★  ★  ★  ★  ★


 で、どうなったかと言えば。


「♪~」


 めっちゃにやけ顔で袋を大事そうに持っている唯を見れば一目瞭然だろう。


「……ほんと取れて良かった」


「さすがゆー君だね!やるときはやる!!」


 ……まぁ、この笑顔を見れたので結果的には良かったか。


「じゃあ次は何するか」


「う~ん…じゃああれにしない?」


 そう言って唯が指さした方向にあったのはプリクラだった。


「え、ああいう身体を動かす感じじゃなくて良いのか?」


 指さしたのは某太鼓をどんどんたたくゲーム。あれは唯が好きなゲームの類いなのだが。


「うん。確かにあれは好きだけどさ……」


 そう言ってこちらの手をそっと握ってきた唯。その顔は赤く、うつむいている。


「……恋人っぽいこと、したいなって思って」


 こちらを見ずに伝えてくる唯。思わずこちらも照れてしまう。


…いきなりこういう雰囲気の変化はずるくないですかね、唯さん。


 お互い無言でプリクラの中に入る。というかさっきまでの雰囲気はほんとどこへ行ってしまったのだろうか。


「えっと、取り敢えず撮るだけ撮るか」


「………」


 唯はゆたかの手を握ったまま何も言わない。

 二人の雰囲気とは裏腹にプリクラの明るいガイド音声が鳴る。


『それじゃあ、3,2,1で撮るから好きなポーズをしてね!』


 …テンションたっかいなぁ。これ。


 パシャッとカメラの音がプリクラ内部に響く。


『こんなかんじでどうかな?』


 液晶に表示された写真を見ると、そこにはお互い目も合わせず手をつなぎ顔を真っ赤にした二人が映っていた。


「流石にこれは……」


「だね」


 お互い苦笑いで次の指示を待つ。


『それじゃあ次は、もっとくっついてポーズを撮ってみよう!!』


「いきなりこういうのがくるのか!?」


 確かにカップルモードなるものを選んだけれども。いきなりすぎるような気がしてならないゆたかである。


「ほら、指示が出てるからっ」


 と、ゆたかが固まっている間に唯がぐいっと身を寄せてきた。普段以上に距離が近くなり、お互いの体温が伝わっているような気までしてくる。

 腕を組み、唯の顔がかなり近い位置にある。こいつまつげなっがいなぁ……なんて思っているうちに撮影が終わったらしい。


「おぉ、これは…」


 再び表示された写真をみると、先ほどよりも距離が近い、これぞカップルというような写真が表示されていた。


「うん。これならいいか」


 一人納得し、終了のボタンを押そうとすると、


「まだだよ…」


 横から唯が手を伸ばしその手を止めた。


「後一枚あるから……」


 言って、上目遣いにこちらを見上げてくる。


 え、何この感じ?普段の唯と全然違うんですけど。先ほどよりも顔を赤くした唯を見て、自分までまた熱くなってきた……!


『じゃあ最後に、好きなポーズでもう一度撮ってみよう!!』

 

 そんな指示があり、カウントダウンが始まる。


『3…2…1…』


 唯が何を考えているかは分からないが、取り敢えず唯の肩を抱き寄せる。


『…………パシャッ』


「!?」


シャッターが切られた瞬間、頬に何か柔らかい感触があったような……!?


「ちょ、唯!?」


 流石にそこまでのことをするとは思っていなかったのでかなり慌ててしまう。唯の方を見ると、


「…………」


 顔を真っ赤にして唇に指を触れさせている唯の姿がそこにはあった。


「こ、こいびとだから……。このくらいしないと、ね?」


 そう言って恥ずかしそうに、しかしうれしそうに微笑む唯。


 なにそれ、超うれしいけど恥ずかしいんですけど。


「で、でも、これ以上は、今日は、だめです」


「は?」


「だ、だから……」


「さ、さよならさんっ」


 何を思ったか突然逃げ出した。ていうか何その捨て台詞!?


「え、ちょ」


 後に残されたゆたかには、


『落書きタイム~』


 なんていう相変わらずテンションが高いプリクラの音声が残されるのだった。


    ★  ★  ★  ★  ★


 あ、後日唯にはちゃんと写真は渡せましたのであしからず。





 




 




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る