第6話 弁当箱と黒いショーツ

 翌日、バングーがオレたちのクラスに編入してきた。

 オレたちは、いつものように授業を受け流し、友達を焼き、放課後まで教室で意味のない話をした。

 日が暮れると、キャタピラがオレの家に行くと言い出した。

 昨日、無駄にいい感じになってしまったので、あれよりも進展したらどうしようと思いつつも、別に困るわけじゃないし、むしろ死ぬ前に恋愛とかってあってもいいんじゃないのか。そんな気持ちが芽生えてきた。もちろん、その一方で、キャタピラが死んだら立ち直れないかもな、っていう気持ちもある。


 キャタピラは、オレの家に上がり込むと、弁当箱を広げた。いろんなオカズとおにぎりが入っていた。

「作ったから、食べろ」

 とぶっきらぼうに言う。照れ隠しなんだろう。オレは、少しどきどきしてきた。

「ほら、食え。これシャケが入ってる」

 キャタピラは、おにぎりをひとつ手に取ると、オレにつきだした。形は悪いがうまそうだった。

 キャタピラのおにぎりを受け取ろうと右手を伸ばした時、視界が歪んだ。目の焦点が合わない。どうしたんだ? と思って気がついた。そこに見えるものを、全身で拒否しようとしているんだ。オレの右手の掌には、真っ赤な模様が浮かび上がっていた。

 オレはしばらく動けなくなった。

 先に動いたのはキャタピラだ。立ち上がるとオレの肩を思い切り蹴飛ばした。ミニスカの奥の黒いショーツに、白い花の模様があるのが見えた。でも、なんで蹴飛ばされるんだ、と思いながらオレは畳の上に転がった。

「このクソがああああああ」

 キャタピラは叫びながら、倒れているオレを蹴飛ばし始めた。わけがわからなかった。夢を見ているようだ。紅い文様が現れたことも、理由もなくキャタピラに蹴られていることも全く現実味がない。考えてみれば、あの『青い陽』以降、夢を見ていたような気がする。

「てめえ、どういうつもりだ。許さない。そんなの絶対許さないんだから」

 キャタピラが震える声で怒鳴った。顔中涙でぐちゃぐちゃだった。それでオレは現実に戻った。オレは1週間以内に死ぬ。キャタピラが蹴飛ばす理由は不明だが、オレは死ぬんだ。


 死にたくない、と思った。




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ノルドの軛 一田和樹 @K_Ichida

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