おまけ短編 後日談

第83話 僕の大切なもの捜索

 いい加減僕はハンバーグ触手球体を失った玉なし野郎でいることに危機感を覚えて、芳香剤に僕の魔力に反応するセンサー魔道具を作ってもらう。


「ちゃんとあなた本体には反応しないけど、あなたの魔力が込められた物体には反応するように作ったわ」


 そう言って芳香剤がくれたそれは、植木鉢に咲く一輪の花だ。ためしに僕は眼球を一個、そこらへんにコロコロと転がすと、その花はグェエエエ!と鳴いた。


 ……花じゃないのかよ。


 結局ウザ鳥と同じ仕様になるのは芳香剤クオリティといったところか。


 ミーナはその花を見てかわいーと言っている。ついにミーナは何を見てもかわいいと言ってしまうお年頃になってしまったのか、とちょっとショックを受ける。


 まあこれを使えばとりあえず僕のハンバーグ触手球体を探すことが出来そうなので、芳香剤にお礼を言おうとしたところ、


 グェエ……、グェエ……


とウザ花が少しだけ反応しはじめる。全然止まる気配もない。


 これ、ぶっ壊れたんじゃないか?と思って芳香剤に非難の視線を向ける。


「こ、壊れてなんかないわよ! 本当にあなたの魔力が込められたものが近くにあるんじゃない?」


と芳香剤は慌てて弁解する。


 そう言われても僕は何かに魔力を込めた記憶なんてないんだが……。


「魔力ってものはね、愛着を持ったものには勝手に移っちゃうこともあるのよ。魔女に可愛がられていたペットが、いつのまにか高純度の魔力を持って精霊に近い存在になるなんてこともたまにあるわ。あなた魔力も多いし、何か特別大切にしていたものとかない?」


と芳香剤は言う。


 特別に大切にしていたものか。なんだろう?


 僕の宝物はミーナからもらった木のツルで編んだかんむりだったが、マーラー国のゴタゴタの時に失われてしまった。というか多分デブになった僕が吸収した。あれもこれも全てザァメンのクソ野郎のせいだ。


 他に何かあったかな? もしかしてウザ鳥とかじゃないよな? と考えていると、ミーナが、


「私もドゥティの大切なもの探す!」


と言い出す。


「ボクも手伝うよ。お兄さんがそんなに大切にしてるものって、何か気になるし。もしかして、好きな人の何かだったりするのかな?」


とクルルも乗り気の様子だ。


 ミーナはクルルの話を聞いて、じゃあこれだ!と自分のパンツを脱いでウザ花に近づけて、


「あれ、反応しないなぁ」


と少しがっかりしている。


 僕はミーナのパンツは好きだが、別にペットのように可愛がってはいないぞ。


 グゥエ……と自信なさげに鳴くウザ花は、もう一度眼球を近づけるとグェエエエ!と元気よく鳴くので、どうやら僕の大切なものとやらは若干遠くにあり、それに反応しているようだ。このウザ花を持って家の中を歩き回り、グェエエエ!と鳴いたものが僕の大切なものということになる。


 こうして我が家で、僕の大切なもの捜索活動が始まった。



 魔王城の中をちょいウザ花を持ってうろうろ歩き回っていると、ノアに声をかけられる。


「なに怪しいことしてるんじゃ?」


 クルルがノアにウザ花の説明をして、僕の大切なものを探してると話す。


「ふ、ふーん。」


と言ってノアは、ミーナが両手で抱えるウザ花の前に手をかざして、反応を確かめている。何してるんだこいつ?


 僕は「明日ぐらいにこの花を使って、ハンバーグ触手球体を探しに行ってくる」と粘土板に書いてノアに見せる。


「……え、あぁ! あれか! ……そうじゃ! あれはわらわにも責任の一端があるから、手伝ってやるのじゃ。」


と言いながらノアは手を引っ込める。なんか今日のノアは挙動不審だ。


「二人で探しに行くのじゃ! じゃ、じゃあ……その大切なもの捜索、頑張るんじゃぞ。」


と言い残してノアは去っていった。


 ミーナとクルルが「私もいく」「ボクもいく」と言っているが、ウザ花は一つしかないし大勢で行く意味はあまりない。


 それにあのときネックレス状態の僕がノアのうっかりでばらまかれた場所は、魔物がうじゃうじゃいる森だった。ミーナとクルルを連れていくのはちょっと心配だ。本当ならノアだけに探させたいところだが、それはそれで申し訳ないので、ノアの言う通り僕とノアだけでいいだろう。


 クルルが「くっ、強敵が現れたよ……」とよく分からないことを言っていたが、僕たちは捜索を続ける。


 一日中探し回ったが、結局ウザ花が騒がしく反応するものは何も見つからなかった。僕の大切なものってなんだったんだろうか? みんなと暮らすこの家自体が宝物……なんてことはないか。


 それともやはり芳香剤のミスで、このウザ花は壊れてるんだろうか? そうだとすると、明日ノアとハンバーグ触手球体を探すときにも支障がでるので、早めに直してもらわなくてはいけない。僕はやれやれ、と思いながら芳香剤の元に向かった。




 自分の部屋に戻ったノアはベッドの上に登り、最近毎日抱いて寝ているサメの抱き枕を大事そうに持ち上げる。


「これ、どうやって返せばいいんじゃ……。」


 そのサメの抱き枕の頭部には、僕のハンバーグ触手球体が取り付けられているが、僕はそれを知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

触手モンスターでも恋がしたい!(旧題:異世界に転生したら醜い化け物になっていた件) イカのすり身 @ikanosurimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ