異能の授かり方がちょっとだけおかしい
にぽっくめいきんぐ
異能の授かり方がちょっとだけおかしい
タイヤの空気が足りていないと、ママチャリのペダルがとても重い。
駅前の牛丼屋から帰る、夜中2時の風は、すこぶる寒い。もう一枚着てくればよかった。
そういや、先々月、このあたりで警察官に捕まったなぁ。
「無灯火で走っちゃだめだよキミィ。防犯登録は?」
別に盗んだチャリってわけでもなかったから、事無きを得たけど、だいぶ時間を無駄にした。ああいうのは嫌だな……。
駅前の、踏切を渡る直前で、チャリのライトを点灯した。
こんな時間には終電も終わっていて、遮断機は開きっぱなし。俺を遮るものなど何もない。少しでも早く帰って、あったかいシャワーを浴びたいところ。
このあたりは、東京都と言っても田舎で、畑が広がっている。ベッドタウンなので夜中には人の気配もない。明かりがないとちょっと怖かったりもする。
(ん?)
いま、畑の隅っこで、なにかが光ったぞ?
背筋がゾクリとした。
キキー!
思わずチャリにブレーキをかけてしまう。
草の間を、おそるおそる覗きこむと、そこには、黒くて四角いプラスチックのパッケージが2つ落ちていた。
(なんだ?)
そのうちの1つを拾い上げ、尻のポッケからスマホを出して、ライトをあててみると、そこには、こう書かれていた――。
『レーベル5周年記念スペシャル! 顔出し解禁! マジックミラー号 未成年の素人ビキニ限定10人本番祭り8時間』
(AVじゃねえか……)
このクソ寒い、冬だってのに。
バスの中で、布の少ない格好で、謎の椅子にしなだれかかる、容姿の微妙な女子達がたくさん映ったパッケージだった。
いや。一人だけ、個人的に凄くタイプな子が混じっていた。
黒髪がきれいで、目の大きい、鼻筋の通った子だった。
これが畑に捨てられたものだという事は、パッケージの裏に「500円」とデカいシールが貼ってあったから、すぐに分かった。駅前のレンタルDVD屋の中古商品だと思われる。
「はっ。家族に見つかりそうになって、こっそり捨てたとかだろ?」
そう悪態をつきつつ、思春期の男の性か、砂にまみれたその黒いパッケージを開けた。
ピカピカピカーーーッ!!!
「うわっ!」
まばゆい光が、AVのパッケージからほとばしり、俺は尻餅をついた。おもわず目を閉じてしまう。
「いててて……」
尻をさすりながら、気づくと。
俺の目の前に、1人の女性が立っていた。
「あなたね? 選ばれし使途は」
このクソさむい夜中に、黒の三角ビキニという薄布な出で立ちで立つその女性は、黒髪がきれいで、目の大きい、鼻筋の通った子だった。
「えっ? ……DVDに居た子?」
俺の好みドストライクの子が、なぜか畑に具現化していた。
(おいおい、初夢か何かかよ……)
そう思って、その女子のやわらか両突起を触ろうとする。こんなの現実ではありえないのだから、大丈夫だろう。
「なんなのあんた!」
バシイ!
「いてえー!」
叩かれた。
「目を覚まして! この世界を救う使途さん。あたしは女神」
「ちょっと待て」
俺は、女神などと自称するその女子の、細い肩をつかもうとした。
「だから、触んなっつってんろうがよ!」
蹴られた。
「女神に触れるとか、ありえないですー」
鈴の鳴るような女声はかわいいけれど、その直前の足蹴で、俺のビビリはマックスだった。
「あんたの名前は?」
「へ?」
「名前! 名前ぐらいあるでしょ? 使途なんだから」
「え、ええと……よくわからないけど、
「竜彦! いい名前ね! 竜の血を引く一族かしら?」
「いえ……単なる大学1年生ですが……」
「まぁいいわ。竜彦。あなたには、この女神『椎名はるん』が、異能の力を授けます。その力で、この
「椎名、はるん……」
完全に、AV女優チックな名前じゃねぇか。
確かに、ある意味、女神かもしれないけど。
しかし、畑に捨てられたAVのパッケージから、女神が飛び出てくる? なんて、現実にはありえない現象だ。だが足蹴は痛かった。異能とやらも本当かもしれない。
……それにしても。
ラノベでも読んだことないぞ? こんな異能の授かり方。
「異能、ですか……。どんな異能なんですか?」
ぶるんぶるんと揺れる、ブラック三角ビキニの中の、適度サイズなダブルおまんじゅうに目をやられながら俺が聞くと、女神はるんは答えた。
「この、パッケージのタイトルが、そのまま、あなたの異能になります」
「はぁ?」
そう言って、俺は、右手に大事そうに持ったままのパッケージを、もう一度見た。
『レーベル5周年記念スペシャル! 顔出し解禁! マジックミラー号 未成年の素人ビキニ限定10人本番祭り8時間』
「あの……これで、どうやって戦えば?」
「マジックミラーでなんとかするしかないんじゃない?」
女神はるんは、あっさり答えた。
「いや、それはおかしい」
さすがに俺は、片手を横に振った。
「しょうがないでしょ。私は、女神ランク81位の、しかもその中の1人に過ぎないんだから。上位女神が選んだ使途の中には、たくさんの猛者が居るから、決して楽な戦いじゃないわ。でも、竜彦ならきっとやり遂げられる。私を選んだ使途ですもの」
いや、畑でたまたま拾っただけなんだけど……。
口に出しては、俺はこう言った。
「猛者……ガチで、戦うの? 使途同士、とかで?」
「その通りよ。上位女神の使途には、触手を操る者や、敵を痙攣させる達人、ささやき戦術のうまい知者、薬を盛る卑怯な男、やんちゃな妹を仲間にした弱気なお兄さんなんかがいるけど……」
「いや、困るんだけど」
「私も困るんだけど。使途が
両肩をおさえて、寒そうにブルブルと震える女神はるんは、たくさんのことを俺に教えてくれた。寒そうなのは当たり前だ。黒の三角ビキニだぞ?
「えっと、女神ランキングが、異能の出力に直結しているわ。だから、下位ランクの女神の使途は、異能の使い方の工夫でなんとかするしかないの。でも! 予習はできないの。そのパッケージの中のDVDを鑑賞してしまうと、異能の力が失われちゃうから、絶対にだめよ? 観ちゃだめ。妄想力を異能の
「いや、大学1年だっての。思春期ではあるけど……」
「見つけたわ! 女神を!」
俺の言葉を途中で遮る、出し抜けの闖入者は、2人居た。
「あ、あなたは、女神ランキング2位の、笹野まなみ!」
「なんですと!」
俺は声を上げた。
笹野まなみと言えば、グラビアアイドルとして一斉を風靡した、あの……。
「私の使途に勝てるかしら?」
笹野まなみちゃんの隣にいたのは、腹の突き出たオヤジだった。
「ワシが授かった異能は、『無敵』。敵無しだぞ。敵無し」
オヤジは、気持ちの悪い表情で笑った。
「だいぶ頭の悪そうな自己紹介だな……」
俺は、フッと笑って立ち上がる。
そして、電光石火の早業で。
畑に落ちていたもう1つのパッケージを拾った。
「「「なっ!」」」
ハモる、女神はるん。元グラビアアイドル。
こんな条件で戦えるかっての。
その位の計算ぐらい出来らぁっ!
せめて、もう少しマシな異能の力を、授からないと!
2つ目のDVDパッケージのタイトルは――。
『はじめてイッちゃった! ~ウブなメガネ女子、初ドキュメント』
こうして俺は、異世界に転移することになったのだ。
<了>
異能の授かり方がちょっとだけおかしい にぽっくめいきんぐ @nipockmaking
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