双発機は美しい ― レシプロ機編

 ここは萩石見空港。

 ボクは再び、睦月君と一緒にここへ来ている。


「今日は特別に乗せてくれるんだ」

「えーっと。何に」

「涼、お前は馬鹿だな。ここにきて乗るって言えば飛行機だろ」

「え? それちょっと怖いよ」

「お前、高所恐怖症だったのか?」

「違うよ。ララと一緒にしないでくれるかな」

「はは、スマン」


「よく来たね。睦月君と涼君」

「あ、弥生さん。こんにちは」

「こんにちは。こっちは鳥頭のジェイよ」

「鳥頭は勘弁してくださいよ」

「お前の赤毛が鶏のトサカみたいなんだよ」

「ほんとだ。言われてみればその通りだよ」

「涼君だったかな? 君、口は災いの元って言葉知ってるかな?」

「すみません」

「ははは、ジェイ。そのくらいで勘弁してやれ。今からテスト飛行するこの機体に特別に乗せてやる」

「ジェイの一〇〇式に睦月が乗れ。私と涼はモスキートだ」

「オーケー、オーケー。睦月はこっちだ」

「ちゃんとヘルメット被るんだぞ。よし、これでいい。インカムのスイッチはこれだ。押してから話せ」

「分かりました」

「こっちだ」

「結構狭いですね」

「文句を言うな。シートベルトはしっかりと閉めろ」

「はい」

「よし。いいぞ。エンジンを始動する」

「うわっ。凄い音」

「そりゃそうだ。27000ccのV12が二基で排気管は24本。消音機なんかついてないからな。ははは」

「すさまじい爆音ですよ」

「すぐに慣れるさ」

「慣れそうにない」

「いくぞ」

「うわ。早い。浮いてる」

「当たり前だ。飛行機だからな」

「うわあああ」

「一々うるさい」

「だってえええ」

「お、ジェイの野郎追い抜きやがった。許さん」

「えええ。待ってください」

「待てないね」

「ああああああああああああ」

「こいつ生意気」

「ひっくり返るううう」

「捕まえた。オラオラ」

「いやあああああ」

「へん。撃墜(仮)したな。非武装の偵察機如きで偉そうにするんじゃないよ」

「はあはあはあ」

「おい。涼君大丈夫? 吐きそう?」

「大丈夫です。何とか……あっ!」

「何? 照れてるの」

「恥ずかしいです」

「モスキートの良いとこなんだぞ。隣同士だからこうやって手を握ってあげられる」

「ははは……」

「あー。真っ赤だね。胸がキュンキュンしちゃうよ」

「からかわないで下さい」

「本気だって言ったら?」

「え?」

「嘘嘘、冗談だから本気にしないでね」

「はい……」

「あれ? がっかりした?」

「そんな事ないですけど」

「ごめんごめん」

「あれ、一〇〇式でしたっけ」

「そう。キ46。陸軍の一〇〇式司令部偵察機だ」

「なんだかスマートでカッコいいです」

「あれは世界で最も美しい機体と言われているんだ。大戦中のな」

「なるほど。納得です」

「でも、こっちに乗って良かっただろ」

「何でですか」

「ほら、あっちは操縦と航法が離れてるんだ。手を握ってやれない」

「そうかも……って、それは良いですから」

「ふふーん。今度、地上でデートしようね」

「はい」

「OKかな。お姉さんは嬉しいよ」


 その後しばらく日本海を飛んだ。

 晴天の元、青い空と白い雲の中を。


 ボクは、透き通った空気と溶け合うような感動を覚えていた。



 

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