綾瀬重工整備部特別展示

暗黒星雲

シン・カザマの栄光 ― ジェット機編

 ここは萩石見空港。

 滑走路脇の特別展示スペース。


「ねえねえ睦月君。すごいね」

「ああそうだな。つーか、涼。お前何がすごいか分かってないだろ」

「ジェット機が沢山」

「小学生じゃないんだから、こう、もっと違う感想はないのかよ」

「垂直尾翼にユニコーンのイラストが描いてある。全部」

「大変よくできました。アレは数ある頼爺コレクションの中でも最大級にマニアックな代物だ」

「何処がマニアックなの?」

「それはな。シン・カザマの乗機を見事に再現しているところさ」

「シン・カザマって誰?」

「お前、あの伝説の撃墜王トップエースを知らないのか」

「知らない。でも、大空のサムライは読んだことがあるよ」

「おお、伝説の零戦れいせんパイロット、坂井三郎の自伝だな」

「読んだときはすごく興奮したんだけど、後でフィクションが入ってるって聞いて興ざめしたかな」

「そうらしいな。撃墜数もかなり盛っているらしい」

「でも、撃墜王とか憧れるかも」

「だろだろ。シン・カザマはな。あの伝説のコミック『エリア88』の主人公で、戦闘機パイロットなんだぜ。撃墜数92機の正にトップエースだったんだ」

「え? 実在の人じゃないんだ」

「まあな。しかし、あの作品はな。刊行からもう60年になるけど未だ人気衰えずって感じだ。その架空世界での乗機を再現している物好きが頼爺よりじいだ」

「架空の戦闘機を再現できるの?」

「物語世界は架空だけどな。登場する機体は実在するものばかりだ」

「へー」

「F8クルセイダー、サーブ35ドラケン、F-5E タイガーII、クフィール、F20タイガーシャーク、そしてX29の6機だ」

「全部本物なの?」

「残念なことにF20とX29はモックアップ、ハリボテだ。しかし、他の4機は本物で飛行可能だぞ」

「え? 飛ぶの」

「当たり前田のクラッカーだ」

「何それ。意味わかんないし」

「いいんだよ。その手は桑名の焼きハマグリみたいなもんだ」

「ますます意味不明」

「ははは。お、F14が出てきた。アレはミッキー・サイモン機だ。バニーのマークが目印だな」

「ミッキーって誰?」

「シンの相棒でF14トムキャットを操る化け物パイロットの事さ。今日はシンのF5EとミッキーのF14が並んで展示飛行するんだぜ」

「うわー。なんか凄いね」

「だろ。ちなみに、F14のパイロットはお前も知ってる人だぜ」

「え? 誰かな?」

「こないだ会っただろ。花田弥生はなだやよいさんだよ」

「あ、あの綺麗なお姉さんだよね。胸が寂しいけど」

「おいおい。聞こえたらどうするんだよ。あの人、五月よりおっかないんだぜ」

「そうなの?」

「そう。こないだ宮内博士にお見舞いしてた鉄拳を覚えてるだろ」

「あ、あれね。凄い音したよね。宮内博士泣いてたよ」

「お気の毒だったな。お、動き始めた」

「そろそろかな」

「だな」

「凄い音」

「くわー。痺れるぜ」

「あ、早い。浮き上がった」

「バックファイアがすげえ。おおおおもうあんなとこ」

「うわー。カッコいい」

「あ。オレ、ドキドキが止まんね」

「ボクもだよ」

「お。高度下げて来たな」

「うひゃ。大迫力」

「弥生さん、手を振ってたな。気づいたか?」

「分かんなかったよ。でも凄いよ」


 年に一度、綾瀬重工が主催する航空ショー。

 今日の目玉はレストアされたF14とF5Eの展示飛行。


 もちろん、ブルーインパルスや最新の艦載機『叢雲むらくも』の展示飛行もあったけど、古いコミックの主人公が乗った機体は全国から集まった航空ファンの熱い注目を受けていたらしい。



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