貧乏くじ男、東奔西走
以星 大悟(旧・咖喱家)
貧乏くじ男、東奔西走
伯母が送ってくれた蕎麦、あと3箱もある。
食べ切れないからと送ってくれたのは、ありがたかったし何より普通の蕎麦よりずっとお高めの、お中元やお歳暮で本当にお世話になった人に贈る様な上等な蕎麦だった。
さすがは東京、普通の地方で暮らしていたら一生食べる事の無かった上等な蕎麦だ、心底ありがたいと思ってはいる。
「だけど6箱は……」
いや貰った側が偉そうに言う事じゃない。
今は賞味期限内に食べ切る事だ。
年越しは…どこかの馬鹿が年越しピザなどとデリバリーをした所為で、予定の半分も消化出来ず、年が明けて年明け蕎麦をやろうとしたら雑煮を要求して来た。
このままだと期限が切れる、その前に美味しく食べ切らないといけない。
「しっかし…どこも置いてねえな……」
粉末のそばつゆ。
やっぱり年明けちまったら店頭から寂しく…いや去年もどこにも無かったな。
自転車を止めて、どうするか思案する。
そもそも何故俺はそばつゆを求めて三千里みたいな心境に陥っているのか?まあそれは簡単な事だ、上の馬鹿二人と昼飯はどっちが作るか勝負して俺が負けたからだ。
普段は仲が悪い癖に、嫌な事から逃げる為に結託する馬鹿二人の所為で、俺は自転車に跨って東奔西走している訳だ。
「仕方がない、無いのならアレンジするしかないな」
まずは近くの24時間営業のスーパーで、大手メーカーが出している粉末の関西風うどんだし、これをベースにアレンジをしてそばつゆを作る。
後は…天かすだけでは芸が無いな。
冷凍食品はコロッケが良いな。
後は…ちくわが安いな、ならちくわ天を作ろう。
「材料の買い忘れは無いな」
さっさと帰って作るか。
♦♦♦♦
「さて、まずはつゆだ」
水の量は箱に書かれているより気持ち多めだ。
沸騰させて粉末を入れる、ここからアレンジだ。
そもそも、うどんもそばも基本になる出汁は同じだ。
鰹節、昆布、椎茸、他にも飛魚とかもある。
違うとしたらそばつゆには、かえしが使われている事だ。
「つまり醤油の量を多くすれば蕎麦つゆ、まあ暴論だがな」
醤油、あとここで粉末の鶏がらスープも投入する。
まあ鴨南蛮というつもりはないが、意外と鶏ガラというのはこういうのと相性が良い、で味見をして味の微調整を終えたらそばつゆは完成だ。
次はおかずだ。
コロッケに下準備はいらないが、ちくわ天には必要だ。
とは言っても縦に真っ二つにするだけだが、で衣を作る。
ボールに卵を割り入れ、冷水を入れる。
よく混ぜ合わせたら天ぷら粉を入れて、だまが少し残るくらいで完成。
「さて揚げていくか」
最初はコロッケから。
熟練の主婦なら箸を油の中に入れて、その時に泡立ち方で適温を見極めるが俺は温度計で適温を計る、でコロッケを油に投入して揚げ終わったら金網を置いたパッドで油をきる。
で次はちくわ天だ。
まあちくわは生食が出来るから、コロッケよりも早く揚げ終わる。
余った衣はぶち込んで、天かすにする。
揚げ終わった皿にキッチンペーパーを敷いて見栄え良く並べて、テーブルに置いて最後の作業、蕎麦だ。
沸騰したお湯に蕎麦を入れて、説明書には3分と書かれているが俺は固目が好きだから2分半、茹で終わったらザルに入れて流水でぬめりを取る。
ざる蕎麦ならこれで終わりだが今日はかけ蕎麦。
そばつゆをガンガンに温めて掛けても、一度流水で洗った蕎麦と合わせると温くなる、だからまた鍋で水を沸騰させてさっと温めてから湯を切り、器にパスタとかで使うシリコントングで入れて行く。
「さて、そばつゆを温め直すうちにテーブルに置いて行って」
そばつゆを入れてからだと器が熱くなり過ぎから、そばつゆはテーブルで入れる、コロッケやちくわ天は好みのタイミングでだ。
サクサクの状態で染み込ませながら食べるのが好きな人もいれば、しっかりとつゆを吸ってふやけたのが好きと言う人もいるからな。
「おーい!馬鹿兄二人!出来たぞ!!」
俺が上にいる二人の兄に昼飯が出来たと大声で言うと、ドタドタと階段を降りる音が響いて来る。
何度も階段はゆっくりと降りろと言っているのに、本当に頭が痛い。
早く帰って来い、父母よ。
年末年始はフィンランドで過すとか言って、俺に馬鹿兄達の世話を押し付けやがって……今年の年末と来年のお正月は自分の為だけの時間を過ごすぞ!
「今日の昼飯は…また蕎麦かよ!」
「肉!肉わねーのかよ!これちくわだろ!肉は?」
「魚肉を食え魚肉を、それとコロッケの中にもミンチが入ってる」
「いやもっとこう肉汁!な肉をだな」
「だったら、てめぇら金を出せ!」
不平不満ばかり口にする、この馬鹿兄二人の世話から早く解放されたい。
貧乏くじ男、東奔西走 以星 大悟(旧・咖喱家) @karixiotoko
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