小説を書く人であればだれもが一度は考える新人賞への投稿。しかし、誰もが考えるということは当然ライバルも大量ということ。無数の投稿作の中で埋もれることなく、いかにして頭角を現すか?
ここで普通なら一つの作品に集中してクオリティアップを図るなどと考えそうだが、この作者は全く異質の発想をした。
どうやっても選考には運の要素が絡むし、つまりは確率の問題である。だったら試行回数を増やせばいつかは当たる。つまり「数撃ちゃ当たる」と。
かくして作者による1年と九カ月の投稿戦線が幕を開けた。
ジャンルを問わずあらゆる新人賞に送り続け、その送った作品数はタイトルにもある通り圧巻の96本! ひと月に4本以上という超ハイペースで投稿している計算になる。
ここまでの本数を書くための速筆のメソッド、作品が落選したときのメンタルの保ち方、作品を書くためのアイデア捜しなど、作者がプロデビューに至るまでに行った具体的な執筆方法が紹介されている上に、選考でどのくらいまで進めば編集部から連絡が来るのか? 新人賞に使い回しはダメと言われるが実際はどうなのか? どういった賞に応募すれば作家として生き残りやすいのか? など投稿をする上で気になる疑問への回答も充実している。
現在ではWEB小説から直接デビューするケースも増えているが、やはり受賞デビューというのは魅力的。新人賞に投稿しようと考えている人は必読のエッセイです。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
非常に面白い観点から投稿と賞について切り込んだ体験談だと思います。
偶然と統計について詳しくなると、些細なことで一喜一憂しなくなる達観した人生哲学を手に入れられるような気がしますが、投稿にも同じことが言えるのです。
完全に余談ですが、Leonard Mlodinawという方の書かれたThe Drunkard’s Walkという偶然性と統計学について述べていた本がありましたが、作者様と非常によく似た考えを統計学の観点から述べておりました。小説、スポーツ、映画、ワインの格付け…どの分野にもある成功と失敗を人間は「必然」だと思い込みがちですが、常に偶然の存在を念頭に入れた方が良く、大切なのは失敗してもめげない努力と継続性という内容でした。
興味がある方は「たまたま 日常に潜む『偶然』を科学する」という邦題でダイヤモンド社から翻訳本が出版されてるので、是非読んでみて下さい。
個人的にはかなり人生に影響を与えた本でした。
(仮にもうすでに作者様やどこかの話の応援コメントが紹介してる本でしたらすみません。)
文庫本を本屋さんで手に取った時、本の上部が茶色く変色している
ような古い版でも定価で売られているのは普通です。その本の価値は
刷られた時といつまでも同等ではありません。値段では表せない価値の
上がるものと下がるもの、それはいつも変動しているのだと思います。
だから出版業界はどれほど低迷しているようでも強気なのだと思って
いました。生鮮食品業界だったら、変色したようなのはすぐ売り場から
撤去されるでしょう。
これを書いた方の出版業界でデビューするという堅い決意には本当に
頭を垂れて敬意を示すより他できることがなく、自分が公募で選ばれ
なかったことにも「つまらなかった」以外に何か理由があるのでは
ないかと思わせて下さいました。いや、つまらなかったんでしょうけど、
書きたいことがそれだったので仕方ありません。
デビューはできなくてもいいです。と言うか、こんな努力は私には
とてもできません。多分決意が甘いんです。
それでも100%で書いていたい。
私にはそれしかできないから、それでいいかなって思いました。
101話まで読ませていただきました。
その中で様々な場面で、そうだったのか、確かに身に覚えがある……と唸るところがありました。
使いまわしや、投稿回数による受賞確率など、計測によるご判断についても納得しました。
まさに「想像するな、計測せよ」の世界だと。
特に後半で、「古典へ目を向けてみよ、そこには著作権が切れた宝がたくさんある」のようなアドバイス、わたしも年間で読む本を古典に少し変えてみようと思い至りました。
なかなか最近アイデアが浮かばず、読むほうに専念しておりますが、何かひらめくものに出会えそうな気がします。^-^
勇気がでました。ありがとうございました!
小説賞への投稿というのは、想像以上の労力を要します。
まず執筆は、頭脳戦であり体力勝負です。
専業ならまだしも、学生なら学校、社会人なら仕事、家庭がある人なら家事と、公私全ての物事と並行して行われなければなりません。
やっと本編が完成しても、度重なる推敲に悩ましい文字数制限、そして便概作成が待っています。気が遠くなるような作業の連続なのです。
使い回しをするにせよ、作者様のように100回近く投稿するのは並大抵のことではありません!
しかしこれ以上に厄介なのは、「落選」するというプロセスを踏まねばならないということです。
やっとの思いで投稿して、焦がれる思いで結果を待っても、賞レース上では恐ろしい程アッサリ落選させられます。しかも第一関門の一次審査すら、全体の10パーセント程度の通過率という狭き門なのです。(これは賞によりますが)
巷には「一次で通らない作品は小説以下」という説が溢れていますから、普通の人がここで落選しようものなら、簡単に心が折れてしまうでしょう。
しかし、この作者様は違いました。
『新人賞受賞は運=確率!』という仮説のもと、度重なる試練にも心挫けることなく、受賞の栄光を掴まれました。
素晴らしいの一言に尽きます。
しかしそれだけでではありません。出版業界や小説家の今後、私達の未来についても警鐘を鳴らす内容も含まれます。
小説家を目指す方、新人賞投稿を躊躇っている方、もはや心が折れてしまい筆を折ろうかと(!?)考えている方に、是非読んでいただきたい作品です。