第2話 火葬
「そういえば、あんた、誰かいい相手いないの?」
唐突な話題の変更に驚きながら、良太は「まぁ、それなりに……」と言葉を濁す。
その返答になんとなくポジティブな雰囲気を感じ、冴子は「そう」と言いながら口の端をかすかに動かした。
「あんたの人生はあんたのモノだから、自由に生きなさい」
「うん……」
「でも、後悔しないようにしなさいね」と良太の方を見ながら冴子は言葉を続けた。
モニターの画面を前に向けている良太がどんな顔をしているのか、冴子には見えなかった。
『予定宇宙域に到着。射出許可をお願いします』
「最後に、お別れしましょう」
「うん」
座席から立ち上がり、後ろの扉の横にあるパネルをタッチするとプシュッという空気が抜けるような音と共に扉がスライドした。
扉をくぐると、貨物室には彼が入れられた棺があった。
側面は昔の名残で木目がプリントされていて、一見すれば木製に見えるが、蓋は透明な素材なので不思議なアンバランスさがある、四角い箱。
その中で横たわっている彼を、冴子は暫く見つめていた。
棺は既に密閉されていて、彼に触ることは出来ない。
こうやって、見ているだけ。
ぼーっと彼を見つめ続けていると、なぜここに来たのか、冴子は分からなくなってきた。
ぐるぐると、頭の中で意味のないことを考えてしまう。
「母さん、そろそろ」
「……そうね」
良太の声で我に返り、立ち去ろうとしかけて、立ち止まる。
冴子は振り向き、棺を、彼を見た。
「三五年、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。私もそのうちそちらへ行きますから、待っていてくださいね。……本当に、ありがとう」
そう言い、冴子は扉の方へと歩き出した。
「射出許可」
『射出許可。入力された座標へ向けて射出します』
扉が閉まると良太が霊柩車に射出許可を出した。
それと同時に貨物室でガコンガコンと機械音が響き、天井側でなにかが開く音がする。
『射出します。カウント、五、四、三、二、一、発射』
そのアナウンスの後、霊柩車の上側から棺が音もなく飛んでいった。
太陽へと向かって。
彼は、お日様が好きだった。
いつも窓際に寝転んで、陽の光を浴びながら食後にお昼寝するのが彼の日課だった。
それを思い出し、冴子はこの太陽葬を選んだのだ。
彼は喜んでくれるだろうか? 面倒くさがりの彼のことだから、どうでもいいと思ってそうだけど。と、冴子は思う。
窓の外で小さくなっていく棺を、冴子はいつまでも見つめていた。
「あっ」
「どうしたの?」
冴子は「なんでもない」と言い、また彼が飛んでいった方に視線を戻す。
そうだ。あの男は、彼を買ったペットショップの店長だ。
冴子は思い出し、小さくつぶやいた。
モニターの中の良太の耳が、それを捉えるようにピクピクと大きく動いていた。
二〇XX年、科学技術の発展により人は動物とも子を作れるようになった。
人と獣の両方の特長を併せ持つ存在。
人は彼らのことを『獣人』と呼んだ。
ライジングサン葬送とマンチカン 刻一(こくいち) @kokuiti
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