第8話「燻り」
焼香は真直ぐに天に昇る
たなびきもしないのか キミらしいな
美しい人だった
最期までレールにのることはなく、しかし逆らうことはできず
ただゆっくりと下ってゆくさまを、自分の足で歩んでいた
手を貸すことすら躊躇われた
その凛とした姿は今もありありと
鈴と鳴る声を忘れはしない
愛していた
いっときでも共に 同じ部屋で過ごし、同じ時を吸い吐いた
ヤニ臭いキスでさえ、幼馴染として煙すら馴染んでことを悔いる
立ち昇る白き煙は、様々な時と香りを呼び起こし揺らいでしまう
視界は霞んでも、身はここに確かに 私は存在しているのだから
私はその煙を絶やさないように
魂の炎から分けられた半身を
小さな生のともしびをそっといだいて守り続ける
この子が天に昇る香りの意味を理解できるその時まで
部屋に残るたばこの香りはいつか消えるだろう
我が家にけぶる食卓の煙は焦げ臭く染み付いてゆく
私はその温かさを絶やさぬよう頑張るからさ
叶うならば
その幸せを誰かと分けあい
たなびく煙に手を合わせ
後の世に残せるごく当たり前の人に育ってほしい
彼女が残した手記を私は伝え続ける
天に還った妻に届けと
煙に思いを馳せ
年々大きくなる娘を連れ
真直ぐに生きよと
その手を合わせ願い続ける
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