海老さん
雨雲雷
第1話
深夜のファミレス!
そこへ人間サイズの海老が入店した!
「朝まで待てねえ! モーニンセッ!!」
「はいモーニングセットお待ちィ!!」
単品うどんをテーブルにドンする店員!!
衝撃で半分ぐらい零れる!
「うめぇ! うめぇよ!!」
うどんを食す海老!!!
「海老さあああああああん!!」
窓を破ってスーツ男が入店した!
彼は新米刑事の磯浜だ!
「わかってるぜ磯浜。そろそろ時間だってんだろ?」
急にクールぶる海老!
頷く磯浜!
テーブルの上に散った分も残らず完食し、海老は会計を済ませて店を出る!
磯浜は後に続く!
「約束のブツだ……」
「ウオッ! ウオァッ!」
港で、男と鮭のやばい取引が行われていた!
男が鮭に渡したバッグの中には札束!
その額五百万!!
人間サイズの鮭、ジュラルミンケースをパカッ!
そこにはイクラがぎっしり詰まっていた!!
五百万とイクラ、トレード!!
「そこまでだオラコラ貴様ら!!!」
突然怒鳴られて男と鮭はビビる!
現れたのは海老!
その後ろには磯浜の姿もある!
「お前なぁ、そんな事していいと思ってんのか! アレだぞお前! 犯罪だぞそれ!!」
「チィッ! サツか!」
男、イクラの入ったケースを抱えて一目散に逃げる!
「海老さん!」
「磯浜ァ! あの男を追えェ!!」
頷いた磯浜ダッシュ!
この場に残ったのは、海老と鮭!
「ウオァ……」
「イクラで大儲けってか? こんな裏取引なんかしねえで、真っ当に市場で売り捌けばよかったのによォ……!」
海老、ファイティングポーズを取る!
「そのバッグを渡せ! テメエは板前送りじゃボケェ!」
「フン、人間ごときに頭を垂れし凡愚め……」
鮭、人の言葉を話し海老をディスる!
「食われるのが嫌で、人に使われる道を選ぶとは嘆かわしい奴だ。魚介類の面汚しめ……」
「うるせえドーン!!」
「ぐわあああああ!!!」
海老タックルで鮭は吹っ飛んだ!!
その後、よろよろと立ち上がる!
しぶとい!
「オイ鮭ェ、勘違いすんな! 俺はなあ、自分の意思で陸に上がったんじゃい! 食われるために飼われた哀れな養殖でも、水揚げされた間抜けでもねえんだよ俺はコラァ!!」
「海老野郎……」
魂の叫びが、鮭の心に届いた!
「そうか……すまん、アンタのこと勘違いしてたぜ。確かにアンタみてえな活き活きとした目をした奴が、んな半端モンのわけねえか」
「よせよ、照れンだろが……」
友情の芽生え!
しかし海老、拳銃を構える!
「だが犯罪者が良い人オーラ出してんじゃねえ!! 逝きな!!!」
バキューン!!
海老は鮭を射殺!!
「ウオォッ……! いや……これでいい……。最後に、教えてやる……。俺は……組織の末端に過ぎねえ、いわゆる雑魚だ……」
鮭、まだ息がある!
「そうか……だが喋るなら、もう少し流暢に喋ってくれねえか。頑張れよ……お前ならできる!」
鮭を励ます海老!
「ああ……なら、これだけ言って逝くぜ。『NOFOOD』のボスが誰なのか……」
NOFOOD!
それは、人間を憎む魚介類によって構成された犯罪組織!!
『俺たちは食いモンじゃねえ』と主張する奴ら!
「テメエ、ボスをサツに売るつもりか?」
「どうせ教えたところで、サツにゃ止められねえよ。よく聞け、名は――」
その後の言葉を聞き、ハッとする海老!
「やはり『ヤツ』か……!!」
海老、思い当たる!
「知ってんのか……?」
鮭、気になる!
しかし海老は答えず跳んだ!
「撃ったんだから早く死ねェーッ!!」
「ぐおおおおおお!!!」
海老のボディプレス!
鮭、今度こそ逝く!!
「しまった、もう少し情報を吐かせるべきだったな」
うっかり海老!
やっちまったぜ、と遠い目で月を見る!
「また天然なトコ、出ちまったか……」
「海老さぁ~ん!」
男を捕まえた磯浜が戻ってくる!
「終わったか。いや、むしろ始まりなのかもな……」
「海老さん?」
磯浜、よく分からない!
そこにパトカー数台と軽トラが登場!
パトカーからは警察、軽トラからは板前が降りてくる!
「海老さん、お疲れ様です!」
やってきた警察たち、海老に向かって敬礼!
「おう、鮭が情報を吐いた。ようやく奴らの尻尾、いや尾ヒレを掴んだぜ」
「さすが海老さん! 一網打尽にしてやりましょう!」
イクラ取引の男は警察が連行する!
鮭は板前がお持ち帰りした!
見届けた海老は、夜の海を眺める!
「……アイツとの決着をつける時、か」
感傷に浸る海老!
そして波乱の予感!!
警察署の会議室!
スクリーンには日本地図がドン!
全国の漁港や養殖場を丸い点々で表示していた!
しかし丸い点々、半分以上にバツ印がついている!!
「えー、先日新たに、養殖場が襲撃されました」
バツ印、追加!!!
「またNOFOODの仕業か!! これで何件目だ!!!」
偉い人が怒って机をバーンと叩きながら立つ!
「まあまあ、落ち着きましょうや」
冷静な海老!
彼もこの会議に参加していた!
「これが落ち着いていられるか!! 奴らのせいで我が国は、深刻な魚介類食えない状態に陥りつつあるんだぞ!!!」
NOFOODは港の漁船、そして養殖場にある網や生簀を次々に破壊しているようだ!
裏で行う取引は、その資金稼ぎだった!
やばい奴ら!
「そんなに魚介類を食えないのが嫌なら、さっさと奴らを捕まえればいい……この会議は、そのための話をする場でしょうが」
「ぬぐぐ……!」
偉い人、プルプルしながら座る!
さすが海老さん……!
静観していた者達、思う!
「えー、今後はこれまで以上に警備を強化し、襲撃に備えるため多くの人員を割きます」
「そっちは任せたぜ。俺は別行動を取らせてもらう」
海老、大胆な宣言!
「では海老さんは何を?」
「決まってんだろ、頭を潰すんだよ……!」
席を立つ海老!
「待て! 貴様、実力は認めるが少しはチームワークというものをだなあ!!」
偉い人、また怒って立つ!
「集団行動は人間の得意分野でしょう。だが俺は海老なんでね」
謎の説得力で、偉い人口ごもる!
シーンとなった会議室を、海老は出ていった!
「海老さんっ……」
署を出た海老のもとに、磯浜が寄ってくる!
なんだか心配した様子!
「磯浜か。お前の想像通り、またお偉いさんを怒らせちまった。だがな、俺は人間の組織に属しちゃいるが、魂まで売ったつもりはねえ……奴らにペコペコ頭を下げるぐらいなら、海老ピラフにでもなった方がマシだぜ」
魚介類のプライド!
「それよりお前、俺と一緒にいたら周りの人間との間に溝ができちまうぞ。それでもいいのか?」
磯浜、力強く頷く!
「ヘッ……敵わねえな。よし、ついてこい!」
NOFOODを止めるため、海老と磯浜は行く!!
海老と磯浜がやってきたのは、自然豊かなキャンプ場!
「鮎! どこにいる?!」
川の前で、海老は叫んだ!
「おや、こりゃまた懐かしい顔だ」
ガサガサと草むらから出てきた鮎!
人間サイズ!
「ちょうどいい、これからメシにしようと思ってたんだ。海老もどうだ?」
「いただくぜ」
そうして焚き火を二匹と一人で囲んだ!
標準サイズの川魚が焼かれている!
「ほらよ、塩加減バッチリだぜ」
鮎に渡された焼き魚を、食す海老!
「うめェ! 超ウメェーーー!!!」
「ヘヘッ、そいつぁよかった」
そう言って鮎も焼き魚にかぶりつく!
その姿を、何か言いたげに磯浜が見ていた!
「『オイオイ共食いかよ』って言いたげだな、磯浜」
海老にそう言われ、磯浜は遠慮がちに頷く!
フッ、とシニカルに笑う海老!
「何もおかしなことはねえんだ。この世は弱肉強食……海なんて特にそうだ。共食いなんてよくある話だぜ」
「海老さん……」
「お前も食うか? 美味いぜ?」
磯浜が受け取ろうとした焼き魚を、鮎がヒレでパーン!!!
「人間風情に食わせる魚はねえーッ!!!」
鮎、マジギレ!
「人間は人間でも食ってろボケが!!! わざわざ魚を食うんじゃねえ!!!」
「落ち着け鮎! クールに行こうぜ!」
興奮する鮎を、海老が宥める!
磯浜、すっかりビビッてしまった!
その後!
「すまねえ、つい取り乱しちまった……。人間とはいえ、海老の連れだもんな」
鮎、謝罪した!
「こいつは、まあ、俺の相棒みたいなもんだ」
磯浜の肩をポンポン叩く海老!
磯浜、嬉しそう!
「相棒ねえ。お前も変わっちまったな」
皮肉を込め、悲しげに鮎は言う!
「磯浜。鮎はな、人間が憎くてたまらねえんだ。そして俺も、昔はそうだった」
海老、流れで過去を語り始める!
「俺と鮎、それともう一匹いたんだが……その三匹で、人間をブッ潰してやろうと誓ったことがあったのさ。食物連鎖の頂点から、奴らを引きずり下ろしてやろうってな」
ああ……と懐かしそうに頷いた鮎も、静かに語りだす!
「だが俺は、ビビっちまって真っ先に抜けた。人間は許せねえが、戦ったって勝てっこねえ。捕まって食われねえように、遠くでひっそりと暮らした方がマシだってな」
「鮎が抜けちまって二匹になったが、それでも俺たちは戦い続けた。養殖場に捕らわれた仲間の解放、寿司屋への殴り込み。色々やったもんだ」
海老も昔は悪い魚介類だった!
「ある日、俺はヘマしちまって一度サツに捕まったんだ。俺を捕まえた敏腕刑事、ヤツとの出会いが俺を変えた。まあ、それを語るにゃ酒がねえとな……だから今はナシだ」
「まあそんなこんなで俺たち三匹はバラバラになっちまったわけだ」
鮎、話を締める!
「海老さん……」
「安心しろ磯浜。少なくとも俺は、もう人間に害をなそうとは思っちゃいねえ。だからといって、無条件に従うつもりもねえけどな」
そして海老、鮎がパーンして地面に落ちた焼き魚も完食!
「ごちそうさん。美味かったぜ」
「ああ。それで海老、俺に用があって来たんだろ? まあ、大体察しはつくけどな……」
「おう。俺たちが抜けた今も、まだ戦いを続けてやがるあの野郎……ザリガニを俺は捜してんだ。何か知らねえか?」
やはりか、と鮎思う!
「アイツは今も時々、このキャンプ場に顔見せに来るんだ。変わらねえぜ。今も人間への憎しみでギラついてやがる。むしろ俺たちと組んでた頃よりも、沢山の同胞を抱えた今の方が活き活きとしてるぜ」
「まさかNOFOODを作ったのが奴とはな。まあ、それも納得か。俺たちが止まっちまった後も、あの野郎は進み続けたんだからな」
「ああ……まさに悪のカリスマって奴だ」
「おいおい鮎、随分とヤツを褒めるじゃねえか」
指摘され、照れる鮎!
「実際、アイツは俺たちのリーダーだったろ? 俺はあの頃から、そして今も、アイツに憧れてんだよ」
「それは知ってるぜ。バレバレだからな」
「ヘヘ……。だから海老、今のお前にザリガニは売れねえ。信念はどうあれ人間側についたお前よりも、NOFOODの味方を俺はしてえんだ」
「そうかよ。まあ、それなら仕方ねえ」
海老、立ち去ろうとする!
「だが、他でもねえダチの頼みだ……『ファミレス』に行け。それが、俺から出せる最大限のヒントだ」
友情!
それが海老に大きな手掛かりを与えた!!
「ありがとよ、鮎……! うし、行くぞ磯浜ァ! 次はファミレスだオラァ!!」
海老と磯浜、街に戻る!!
その頃には、すっかり夜だ!
この街には、ファミレスが沢山ある!
だが海老は、迷わず駅前の店に向かった!
そこは、磯浜が窓ガラスを割ったファミレスだ!!
「イラシャセッセ~! お二人様でしょーか?」
「サツだ。店長を呼んでくれや」
海老が言い、磯浜が警察手帳を見せる!
店員、ビックリ!
「て、てんちょおぉ~!」
店の奥に走っていった!
そして!
スタッフルームで海老と磯浜、店長が対面した!
「単刀直入に訊こう。この店、NOFOODと繋がってんだろ」
「ギクッ!」
店長、分かりやすい!!
「い、いえいえ! 当店の従業員は皆人間ですし、そんな犯罪組織と繋がりなんて……!」
「誤魔化すんじゃねえオラコラァ!!! お前アレだぞ! 情報の隠蔽とか公務執行妨害とかで逮捕すんぞオルァ!!」
「海老さん!!」
磯浜、店長に掴みかかろうとした海老を止める!
「分かってるよ磯浜、恫喝はマズイって言いてえんだろ?」
気を取り直した海老、改めて店長を問い詰める!
「店長さんよ、嘘はナシにしようや。人間じゃ分かんねえだろうが、この店は微かに潮を感じるんだよ」
「ッ……!」
店長、絶句!
その時、部屋の外からコンコン!
誰かがドアをノックした!
ガチャリ!
「もういいよ店長。ここからは、アタシがこの子たちの相手をしようじゃないか」
入ってきたのは、ホタテ!!
人間サイズ!!!
「お、オーナー……!」
立ち上がった店長、深々とペコリ!
ホタテに席を譲った後、退室した!!
「よくここが分かったねえ?」
「サツをナメんじゃねえ。それより人間を憎むNOFOODが、人間と一緒にファミレス経営とはな。ザリガニが許可するとは思えねえが?」
「私は人間共を奴隷のようにこき使ってんだ。だからザリガニも口を出さない」
「そうか。何にせよ、スタッフの教育がなってねえぜ。モーニングセットを頼んだのにうどん持ってくるわ、それをテーブルに叩きつけるわ……俺が寛容な海老だから、事なきを得たようなもんだぜ?」
「そうは言うけどねえ、その坊やだって窓ガラスを割って入店したんだ、部下の躾がなってないんじゃないかねえ?」
ホタテの指摘に、磯浜ビビる!
弁償の危機!
「お互い様ってことか」
「ああそうさ。だから割った窓ガラスも弁償しなくていいよ。NOFOODの資金力なら、その程度の出費は痛くも痒くもないからねえ」
磯浜、ホッ!
「ついて来な。ザリガニもアンタに会いたがってる」
ホタテ、席を立つ!
かつての同志と、再会の時!!!
車でやって来たのは、繁華街のクラブ!
扉の前には、二匹のウツボが立っていた!
「待てゴラ、ここは人間が入っていい店じゃねえ……!」
ホタテと海老の後に続いて店に入ろうとした磯浜、ウツボに凄まれる!!
「おお、そうだったね。悪いけど、坊やはここで帰ってもらおうか」
「海老さん……!」
「磯浜、心配すんな。また後で合流するぞ」
海老、磯浜の頭をポンポン!
「仕方ねえ、磯浜は帰らせる。だから、俺の相棒に手ェ出すんじゃねえぞ……!」
今度は海老が、ウツボを睨む!!
ウツボが後で、磯浜をボコりそうなのに気付いていた!
「分かった、約束する。いいね、アンタたち」
「ウス……」
ウツボ、ホタテに従う!
磯浜と別れ、いざ店の中!
店内、ノリノリのBGM!
酒を呑む客!
踊る客!
みな魚介類!!
みな人間サイズ!!!
奥のVIPルームに、ホタテと海老入る!
そこには、メス魚介類のハーレムに囲まれたザリガニがいた!!!
ボディーガードのサメも二匹いる!!
「よォ……久しぶりじゃねえか。まあ座れや」
「おォ……じゃあ座らせてもらうぜ」
対面のソファーに座る海老!
数年ぶりに、二人は言葉を交わした!!
「随分と大所帯だなザリガニよォ。そいつらみんな、お前の女か?」
「強いオスには、メスが集まってくるもんなんだよ。自然の摂理ってやつだ」
海老、ぶっちゃけ羨ましく思う!
「で、何の用だ。まさか今更、NOFOODに入れてくれってわけじゃねえんだろ?」
「当たり前だ……俺が今なにやってんのか、どうせ知ってんだろが」
「おうよ警察だろ? この前、鮭をやったのもテメエだよなあ? 可哀想に。人間に食われ、クソになっちまったんだろうぜ」
ザリガニ、グラスのウイスキーをグビッ!
飲んだ後、テーブルに強くドン!
「海老ィ……お前、オレたちの間じゃ裏切り者だって評判だぜ? よく一人で店ン中入ってこれたなァ……!」
事実、ザリガニを囲むメスたちは海老を睨んでいた!
ボディーガードのサメ二匹は、もっと睨んでいる!!
歓迎されていないのは、明らかだ!
「昔のダチに会うってのに、何をビビる必要があるんだ? おお?」
しかし海老、怯まない!
強気!
「おおそうだな。テメエは確かにオレのダチだ。そうじゃなかったら、とっくの昔にすり潰して海老団子にしてるところだ」
「そいつぁ面白れぇ。面白れぇが、俺はここに愉快なトークをしに来たんじゃねえんだ……決着、つけようや」
海老、大胆に言い放つ!
ザリガニ、ニヤリと笑った!
「おう、いいねえいいねえ! そうこなくっちゃなあ!! ブッ殺してやるよ海老ィ! タイマンしようじゃねえか!!」
勢いよく立ち上がったザリガニ!
海老も立ち、両者睨み合う!!
「ついて来いよ海老……オレたちの決着にふさわしい舞台を用意するぜ」
「望むところだオラァ……!」
また場所を移動することになった!
やって来たのは、港の倉庫!!
「なんだこりゃあ……!」
海老が見たのは、超巨大な鉄鍋!!!
直径二十メートル!!
フッ素加工!!
大勢のNOFOODメンバー、バケツで鍋に水をためていく!!
「こいつぁ、NOFOODの金で作った特注品だ。コイツで俺が何をしようとしてんのかは、言わなくても分かるよなあ?」
ザリガニ、海老の隣で不敵に笑う!
「まさかお前、これで人間たちを……!」
「そうだ正解だぜ海老ィ!!! こいつで焼く! 炒める! 茹でる!! そんなオレたち魚介類が味わった苦しみってヤツを、人間共に身をもって思い知らせてやんだよ!!」
海老、戦慄!
ザリガニが行おうとしている事は、あまりにも残虐だ!!
「まさか『酷い』なんて思ってんじゃねえだろうなあ? ああ? その言葉、そっくりそのままオレたちが人間共に返してやりてえぜ、なあテメエら! そうだろォ?」
ザリガニ、集まっているNOFOODメンバーに問う!
百匹を超える魚介類たち、一斉に騒ぎだした!!
「ウオォォォ!! その通りだァ!」
「人間ども、じっくり火を通してやるぜええええ!!」
鍋の下に敷き詰めた大量の薪!
そして着火剤!!
サメが火のついたジッポライターを投げ、炎が上がる!!
強火!!!
盛り上がる魚介類たち!
「でけえコンロも作らねえとなあ……なあ海老ィ?」
「こんなモノまで作りやがって……ザリガニ、てめえ!」
怒る海老!!
「そう熱くなるなよ。どうせこの後、テメエはあの鍋ン中だ……それまでは、せいぜい常温を維持しとけ」
ザリガニ、海老と向かい合う!
「沸騰したら始めようぜ。命をかけた死闘ってやつをよ……」
「やってやろうじゃねえか、オラコラァ!! ボイルされんのはテメエだザリガニ!」
最終決戦の、幕が上がる!!
グツグツ、煮えたぎるお湯!!!
鍋の中に落ちれば、火傷では済まない!!
その鍋の上に渡された一本の角材!
幅、わずか五十センチ!!
「湯加減、いい感じだなァ! なあ海老ィ!!」
角材の端に立つ、ザリガニ!
「おう! 速攻で沈めてやるぜ、ザリガニよォ!!」
反対側の端に立つ、海老!
ルールは単純!
鍋に相手を落とせば勝ち!
以上!
「ねえアンタ、やっぱり考え直しておくれよ! アンタはNOFOODを背負って立つ男なんだ。アンタの身にもしもの事があったら、アタシたちはどうすりゃいいんだい!」
しかしザリガニを止めようとする、ホタテ!
「ホタテェ、テメエ俺があいつに負けると思ってんのか?」
「そうは思っちゃいないよ! アンタは誰にも負けない最強の男さ! でもだからって、わざわざこんな戦いをする意味なんかないだろ? NOFOOD全員であの海老をやっちまえば、それで済む話じゃないか!」
それを聞いてザリガニ、カッカッカと笑う!
「そうだな。でもそれじゃあダメだ。オレと海老の決着が、そんなつまんねえモンじゃいけねえ……。女にゃ分かんねえかもしれねえが、これは男のプライドをかけた戦いってやつだ」
「そのプライドってヤツは、人間への復讐よりも大事なモノなのかい? バカげてるよ!」
「うるせえ黙ってろ! ホタテを連れていけェ!」
ホタテ、サメに引っ張られていく!
「ちょっとアンタ、離しておくれよ! ザリガニが心配じゃないのかい!?」
「そりゃあ本音を言うなら、俺も止めたいッスよ。この戦いは、NOFOODにとっちゃリスクがデカすぎるだけッスから」
「だったらアンタも一緒に――!」
「でも、俺も男ッス。海老との因縁も話に聞いてっし、だからボスの気持ちが痛い程分かるんスよ」
サメの言葉を聞いて、ホタテは抵抗をやめた……!
「わりいな、邪魔が入っちまった」
ザリガニ、ファイティングポーズ!
「いや、いい。それにしても、お前はやっぱり馬鹿だな」
海老、ファイティングポーズ!
「なんだと?」
「褒めてんだよ。馬鹿だからこそ、俺や鮎じゃ辿り着けなかったトコまでテメエは辿り着いた。それをこの戦いで失っちまうかもしれねえんだから、やっぱり馬鹿だわ」
「ほざいてろ――オレが勝ったら、テメエは墓作って埋めてやるぜ。人間にゃ渡さねえから安心しとけ」
「おう。その心遣いに感謝して……おらよっ!」
取り出した拳銃を、投げ捨てる海老!
拳銃は沸騰したお湯の中に沈んでいった!!
「俺とお前の戦いに、こんなモノはいらねえ……そうだろ?」
ザリガニ、ゲラゲラ笑う!
「ああ! よく分かってんじゃねえか! じゃあいくぜ海老ィ! 決着付けっぞ!!」
「来いやザリガニオラァ!!」
海老とザリガニ、叫んで駆け出した!!
迷いのないダッシュ!!
恐れを知らないメンタル!!
鍋の中心で両者ぶつかる!!!!
先制を取ったのは、ザリガニ!
海老にはない鋏でラッシュをかける!
「オラどうした防戦一方じゃねえか海老ィ!」
ガツガツ鋏で殴られる海老!
しかし、機会を窺っている目つきだ!
「いいこと教えてやるよ海老ィ! 今なあ、牛や豚、鶏とも組む話が進んでんだ! オレたちはますますデケエ組織になる!! そして人間をブッ潰す!!」
ザリガニ、鋏で海老を強くガッ!!
「オレを止めてえなら、オレをブッ殺してみせろや海老ィ!!」
「言われなくてもやってやんよゴラァアアア!!!」
ザリガニの大振りな攻撃を、身体を反らして避ける海老!
隙だらけのザリガニに、海老のタックルがドン!!
「ぐふっ……!」
ザリガニ、角材の上から吹き飛ぶ!
落下するザリガニの下には、沸騰するお湯!!
「ザリガニーッ!!」
ホタテ、叫ぶ!
NOFOODの魚介類たちも「ボスゥ!!」と口々に叫んだ!
しかしザリガニの鋏を、海老が掴む!
熱湯につからない、ギリギリセーフの位置!
「なんの真似だ海老ィ!! テメエ、情けのつもりかァ!!!」
「ダチが危ねえから、身体が勝手に動いちまったんだよ!! 悪いかコラァ!!!」
怒鳴り合い!
「離しやがれ! オレはな、人間に負けるのは死んでも御免だが、テメエになら負けても悪くねえと思ってんだ!!!」
「ザリガニ、お前……!」
ここで突如、大量のパトカー乱入!!
軽トラも三台来る!!
「サツだ! サツが来やがった!!」
NOFOODの面々、大慌て!
海老も気を取られた!
その隙に、ザリガニは海老の脚を振り払う!
「あばよ、海老……!」
「ザッ、ザリガニィイイイイ!!!!!」
ボチャーン!!!
「撃てーッ!」
警察たち、魚介類に向け一斉に発砲!
「仕入れの時じゃあああ!!」
板前も包丁を持って魚介類を襲う!
倉庫は、混乱の渦!
「俺たちはッ! 人間に食われるために生まれたんじゃねえええッ!!!」
立ち向かう者!
「裏口から逃げろ! 急げェ!」
逃げ惑う者!
「ザリガニ……ああ、なんで……!」
「姐さん、早く逃げねえと!!」
崩れ落ちるホタテと、それを抱き起そうとするウツボ!
「海老さんッ!!」
「磯浜……!」
角材の上から降りた海老に駆け寄る、磯浜!
警察たちもやってきた!
「海老さん、お疲れ様です! NOFOODのボスは?」
「それなら、鍋の中だ」
「なんてデカい鍋だ……確認してきます!」
騒乱の中、海老は倉庫の外へ歩いていく!
「海老さん!?」
戸惑う磯浜!
「俺も、まだまだ甘エビだな……ここぞという時で、情が邪魔をしやがる」
立ち去る海老の背中、どこか悲しみを帯びていた……!
後日!
港で海を眺めていた海老、船に乗り込もうとする怪しい集団を発見!
「どこへ行くつもりだ?」
そこにいたのは、ホタテを始めとするNOFOODの残党だ!!
「沖の方まで行って、ザリガニを海に放してやるのさ。それがこの男の望みなんだよ」
ザリガニの死体は、サメが決死の覚悟で回収していた!
そしてザリガニ、過去にこう言っていた!
『オレは海水の中じゃ生きられねえ。だが、それでもデケエ海に憧れてんだ。だからオレが死んだ時は、死体は海に捨ててくれや』
「海葬ってか。なら、俺も乗せてってくれよ」
海老の頼みに、ホタテ困惑!
「アタシたちを捕まえないのかい?」
「今日はオフだ。プライベートで人間のために働く義理はねえさ」
海老、クールに笑う!
するとホタテも、「そうかい」と微笑んだ!
船でやってきた、太平洋の沖!
「あばよ、ダチ公……」
海老、最後の挨拶!
ドボン!
ザリガニ、海に沈んでいった!
船は引き返していく!
遠ざかる、ザリガニの沈んだポイント!
「まあ、すぐに浮かんでくるだろうさ。そして同胞の糧になって、自然に還るんだ」
「そうだな」
振り返らない海老!
後悔を断ち切った、漢!!
後日!
ファミレスでうどんを食している海老!
「海老さーん!」
磯浜が、普通に入店してくる!
「磯浜、NOFOODが動き出したのか?」
頷く磯浜!
「よし、なら行くぞ磯浜ァ! 漁の時間だオラァ!!」
海老の戦いは、これからも続く!!
完!
海老さん 雨雲雷 @amagumo_rai
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