ありふれた大学生活で、怠惰と充実と、そしてほんのささやかな成長

 幼い頃、担任教師からの暴行や、高校生活での失敗から、どこか何に対してもイマイチ本気になれない学生、池原悦弥。
 囲碁と茶道のサークルに属するものの、双方とも中途半端にこなすだけで、流されるまま流れるままに、惰性で日々を過ごすキャンパスライフ。
 そんな中、授業で出会った青年、光蟲の一線画した生き方に影響され、彼は少しずつだがサークルに対して誠実に取り組むようになって行く。
 徐々に関わりが深まっていくサークルの仲間たち。徐々に充実していく日々に、彼の心にわずかに情熱が宿っていく。
 半笑いの矜持を抱えながら、彼は囲碁と茶道に今日も精を出す。

 リアリティがある大学生活の中で描かれる一面一面と、それに対してぼんやりと思う池原の心情は、どうでもいいことばかり。だけど、それが実に心に沁みる。
 どこか同じ繰り返しの日常に、どうでもいいことを思う彼に、思わず共感してしまう。ゆったりと文章は、独特のリズムで読者を引き込む。
 そして何より、茶道や囲碁に対する造詣が深く、素人が読んでも納得してしまうほどの説得力がある。全てがかみ合い、独特の作品を作り出している。

 繰り返しの日常に、ささやかな情熱がひっそり花咲く作品だ。

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