半笑いの情熱
サンダルウッド
2010年・春
清明
第1話「逃避」
大学に入学して一年が経つ。
囲碁部と茶道部に所属しているが、どちらにおいても参加はしなかった。茶道部は部員数が多く、私が欠けても勧誘活動に支障はない。
九号館の売店で唐揚げ入りのおにぎり二つとポカリスエットを購入し、メインストリートの喧騒を抜けてホフマンホールに潜り込んだ。
薄暗い階段を降りて地下二階へ行き、
主力の四年生が卒業し、部員は片手で数えられる程度にまで減少した。少し誇張があるにしろ、まともに囲碁が打てる部員という意味ではそのぐらいだろう。勧誘行事に参加しようがしまいがとやかく言われるような活気のある部でなかったことは、私にとっては不幸中の幸いだった。
机の上のプレイステーションを片付け――囲碁がまるで分からないのになぜか所属しており、時々部室にゲームだけしにくる煩わしい三年生が数名いる――、鞄から先ほど買ったおにぎりとポカリスエット、そして今朝四ツ谷駅の売店で購入した週刊碁を取り出す。おにぎりを口に含みながら、先月の本因坊戦の棋譜並べを始めた。
狭い室内に唐揚げと海苔の匂いが広がり、隣室から登山愛好会の部員たちの笑い声がもれる。次の手を探しながらふと、自由だと感じる。勧誘活動に積極的に参加するのも、それを断りこうしてひとり、狭くて
それはあまりにも愉快で、同時にあまりにも孤独だ。
高校までの規則的な生活に、あまり馴染めなかった。マイペースで、いわゆる集団行動が不得手だった。
小学五年の時に担任教師から度重なる体罰行為を受けて以来、自分は生きてゆくことに向いていない人間なのではないかと心のどこかで感じ続けている。
最初の一年間で、友達と呼べる人間は見つからなかった。
特に欲してもいなかったが、仮にそれを――たとえ表面的な関係性であっても――難なく作れる程度の社交性があれば、個だけではなく集団においてもそれなりの愉快さを覚えたのかもしれない。
初夏の頃、塾講師のアルバイトの研修初日に、態度が悪くコミュニケイションに難があると叱責されてそのまま辞退した。学業にも今ひとつ興味を持てず惰性で講義を聞くのみであったが、部活動――主に囲碁の方――にはそれなりに精を出していた。
棋譜並べと昼食を終えて週刊碁を鞄にしまい、代わりにSONYのWALKMAN――最近購入した、細長いボディーの機種――を取り出す。インナーイヤー型のイヤフォンを両耳に装着して本体をランダム再生させると、GARNET CROWの『百年の孤独』が流れ出した。高校三年の秋に発売されて以来、何千回聴いたかわからないほどに夢中になった楽曲だ。
歌声もメロディーも編曲も
今日はしかしそんなセンティメンタルな気分ではなく、むしろ眠気を催してきた。メインストリートで愛想を振りまきながら勧誘活動に勤しむ学生たちの顔を思い出すと
部屋の電気を消し、しばし休むことにした。こんな寂れた部室に間違えて誰か訪れるということもないだろう。
テーブルに突っ伏して目を閉じると、
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