第2章
最終話 ハイテンションと長所無
「で、どうだった?」
私の声に、
「うん、いいと思うよ~。あ、1つだけ。タイトル某映画パロってない?」
普段と変わらない間延びした声の璃月。
「いえす! 飛鳥ちゃん大好きだから」
「そ、そうかい……。カクヨムに投稿するのー?」
普段と変わらない呆れたような目の璃月。
あ、これは私のテンションが高過ぎるからか。
「当然の如く! 因みに、この小説はあずさ史上初の現実モデル? がいるんだ」
私は閉じられたノートを璃月から受け取る。
「へー! あ、井上くん? モチーフ
教室の隅にいる男子の集団。璃月はそれの中心にいるであろう猪上に目を向ける。
「ピンポンっ!」
「じゃー、真子ちゃんは?」
「いるわけないでしょ。いたら可哀想じゃん、猪上の彼女なんだよ?」
私は猪上を
「……あぁ!うん」
察してくれたらしく、璃月は笑顔で頷いた。
「……まぁ、
ボソッと小声で言った私に璃月は目ざとく反応した。
「あぁそっか……。この高校であーずーと小中学校同じなの、猪上だけなんだもんねー。てことは、あーずーは猪上が好きなの?」
ニヤニヤした笑みを浮かべて訊いてくる。
「なわけ。りっきーは猪上の長所はなんだと思う?」
「……ない?」
「ピンポンっ!」
満面の笑みで私は言う。
キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。
「あ、予鈴鳴ったわ。またな~」
「ん、ばいばい」
コンッコンコンコンコンコンコンコン。
西日が差し込む静かな教室にチョークで文字を刻む音が響く。
5限、数学。
睡魔が襲ってくる時間帯のようで、このクラスの2分の1の生徒は度々眠い目を擦りながら授業を受けている。8分の1の生徒は、授業を受ける事を諦めたのか、机に突っ伏して寝ている。数学の教師はその8分の1の生徒を叱る事も起こす事もない。
――ここ、田舎とはいえど県内トップの高校なんだけどな。
私の心の声が彼らの夢の中に届く事はない。
お前は何の部類なんだよって? 私はというと、残りの8分の3の生徒に含まれる。その8分の3の生徒は真面目にノートを取っている。
何故私がここまで細かく観察できるのか? それは、自分の席が1番後ろの窓際だからだ。担任の先生の机は廊下側にあるので、先生から最も遠い席、ともいえる。ここが私の席。
「
「あ、はい」
指名された私は立ち上がった。驚いた椅子はガタンという音を立てた。
田邊あずさ。これが私の名前。
先生の問いに正解を出し、安堵の小さな溜め息と共に椅子に座る。だが、その振動で磨り減った球体状の消しゴムがころころと転がり落ちてしまった。その消しゴムは床を転がり続け、止まったのは目の前にいる男子の席の近く。そいつ――猪上はさっきから、
小さな消しゴムには気づく由もない。私からするとそれがないと困るのだけれど。そう思って、私は椅子を引く音がしないようにそっと席を立った。
この頃、君に追いかけられた 齋藤瑞穂 @apple-pie
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