第2回
俺はほんの三カ月前までは、どこにでもいる一般的な高校生だった。
しかしファンタジーシフトという新作ゲームアプリで遊んでいる最中、唐突にスマホの中に吸い込まれた。
吐き気がするような眩暈に襲われたと思ったら、気づけば自分の部屋からボロっちぃ城の中へと転移していた。
混乱する俺の前に手のひらサイズのドラゴンがやって来て、自分は神だとナチュラルにぶっとんだことを言い始めた。
「やぁ人間。ワシが君をこの世界に呼んだんだ。ここはエデン聞いたことあるよね?」
エデンとはファンタジーシフト内で登場する架空世界の名前で、ここはその中だと言う。この時点で嫌な予感が止まらなかったが、話を最後まで聞くことにした。
「今日から君、王だから。君はまず王の軍勢チャリオットを結成し、自分の戦力を手に入れるんだ。君の目的は拠点と領土を拡張し、仲間を増やして最強のチャリオットを育成することだ」
いきなり
半信半疑の俺を放置してドラゴンは更に続ける。
「君以外にも王はいるから。そいつらは君と同じく他人の領土を求めて常に領土戦争をしてるんだ。君らの言葉で言えば敵プレイヤーって奴だね。他の王と共闘するも良いし、手当たり次第に襲い掛かってみるのも良い。と言っても戦力が少ないうちは返り討ちにあうのが関の山だからお勧めはしないけどね」
領土戦争、敵プレイヤー、共闘、侵略。ほんとにゲームみたいなことを言っている。
「領土戦争に一切関与しない中立城ってのがあるから、最初はそこでいろいろ話を聞いてみるといいよ。このへんじゃラインハルトがそうかな? 細かいルールなんかはアプリに記載してるから。最初は生きることにすら苦労すると思うけど頑張って。そんじゃ次はチャリオットを大きくする要素、ガチャについて話をしようか――」と、チュートリアルじみた説明を受けた。
誓ってもいいが俺は電波な奴ではない。スマホに吸い込まれたとのたまう時点でかなり電波な奴なのだが、俺を吸い込んだスマホはこの通り今手元にあるのだ。
認めたくはないが、情報を整理するとゲーム世界に落ちたという解答が今のところ一番有力だ。
「ねぇ咲、この王ランクって何?」
「ウチのチャリオットの強さや規模のでかさだ」
「Fってどうなの?」
「一番下だ。駆け出しだからしょうがない」
「
「そういうことだ。まぁウチみたいなとこいっぱいあるらしいけどな」
この王ランクが一番上のSまで上がると、元の世界に帰れるとか帰れないとか。実際にSまで行った人を見たことがないからなんとも言えない。
ATMの前でしばらく待つと、画面下部にある硬貨投入口が開き、硬貨がジャラっと吐き出される。
俺はそれを布袋に入れ、紐で口を結びバッグの中に放り込んだ。
「四八〇〇か、厳しいな」
スマホにギルドの依頼を達成した分の報酬金がプールされており、それを今全額払いだしたのだが、あまりにも稼ぎが少なくて泣きたくなってくる。
「パーッと使おう」
「ダメ人間みたいなこと言うな」
オリオンはギルドに併設されている酒場を親指でさす。そこから美味そうな料理の匂いが漂って来て腹が鳴った。
もうずいぶんと肉食ってないんだよな……。
イカンイカン。稼ぎが少ないのに散財なんてできない。俺は頭を振って食の誘惑を振り払う。
「やぁやぁ誰かと思えば梶じゃないか! お前も祭りに来てたのか?」
俺が首を振っていると、陽気に声をかけてくる少年の姿があった。
報酬が少なかったこと以上に顔をしかめながら後ろを振り返る。
そこには長身で、少しくせっ毛の混じった自他ともに認める美少年が人懐っこい笑みを浮かべていた。
「乾か」
「そんな露骨に嫌そうな目で見るなよ。僕達友達だろ、ト・モ・ダ・チ!」
り合いだ。高校が同じだったが接点はほとんどない。
乾は学校内で問題を起こすが、人の中心になるような人物で、対する俺は仲のいい友人とひっそりしているタイプ。接点があるわけがない。
こいつも俺と同じく王として呼び出されたのだが、同時期に呼び出されたとは思えないほど羽振りがいい。その理由は隣にいる女性が関係している。
「…………」
うるさい乾とは対照的に、静かに佇む長身の少女。彼女は乾の護衛なのだが、ウチのなんちゃって護衛と比べると風格が全然違う。
口元だけが見える機械チックなヘルムを被り、上半身のモビルスー〇みたいな機械鎧は、ところどころ発光している部位がある。パッと見の強キャラ感が凄い。
「エーリカさん、こんにちは」
会釈をすると、彼女はヘルムからビゴォンと音を立てて青色の光を灯すと、会釈を返してくれた。
「…………こんにちは」
相変わらずSF世界からやって来たような風貌な為、立ってるだけで目立つ。
彼女は融機人と呼ばれる種族で、元から機械と生体部が融合しているらしい。
「ちょっこっち無視かよ! つれーわ、そういうのつれーわ!」
「あたしはお前のノリがつれーわ」
俺はオリオンの口をさっと押えた。
「お前は何しに来たんだよ」
「ここに来た以上依頼を受けるか、換金以外の目的はないだろ? アルコールの趣味も今のところはないしな」
そう言って乾は銀行ATMみたいな機械、(正式名称ベスタコンバートポーター、長いのでATMと勝手に呼んでいる)にスマホを接続する。
しばらくすると、ATMが壊れたスロットマシンの如く硬貨を吐きだしていた。
「三〇万ベスタかぁ、今回はちょっといまいちだったな。今度はこれ以上稼いでよエーリカちゃん。僕達のチャリオットまた人が増えたし、いっぱい稼がないとダメなんだよね~」
「またお前んとこ人増やしたのか?」
「まぁただのSR(エスレア)だけどね」
「え、S……R」
「いやぁ、やっぱ一番最初に最高レアであるSSRのエーリカを引いたのはツいてたなぁ。お前もそろそろそのR娘じゃなくてガチャでSSR引けよ。そしたら金なんて一瞬で稼げるぜ。アッハッハッハッ」
と高笑いを響かせ、乾はエーリカさんを連れて去って行った。
相変わらず少し会話しただけなのにどっと疲れてしまった。
俺は唇を尖らせながらも黙ったままでいるオリオンに声をかける。
「どうする、もう少し祭り見て帰るか? もう一本くらいバナナ食えるぞ」
「いいや、もう帰る」
珍しく元気がない様子で、スタスタと家路につくオリオン。彼女の元気がない理由は察しがついていた。
そう、この世界では強さに格付けがあり、俺の相棒はN(ノーマル)、R(レア)、HR(ハイレア)、SR(エスレア)、SSR(エスエスレア)のレアリティランクの中で下から二番目のRクラスの戦士だった。
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