第5回
体ばかりに視線がいってしまったが、顔はまだ少しあどけなさが残る少女といった感じだ。
「そうですか、わたしはへイムダル領から召喚に応じやってきましたソフィア・ブルク・エドナドールです。ソフィーとお呼び下さい」
そう言って会釈するソフィー。首にかけた十字架が小さく揺れ、胸は大きく揺れる。
「たゆんたゆん」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、なんでもないです」
「王様、敬語なんて使う必要はありません。わたしはこれより王の私兵、なんなりとお申しつけ下さい」
「は、はい。あっ俺は梶勇咲。皆からは咲って呼ばれているから、そう呼んでくれていい」
「何を言います、貴方は王様です。王が兵から名前で呼ばれるなんてあってはならないことです」
なんか凄く育ちが良さそうな人がきたな。
俺はスマホをソフィーにかざすと、彼女のステータスが表示される。
ステータスは体力、魔力 攻撃力、防御力、敏捷、技量、信仰の項目をSSが最大でS~Fの八段階で表示してくれる。ちなみにサイモンは体力C、魔力F、攻撃力E、防御力E、敏捷F、技量F、信仰Fとなかなかに泣きたくなるステータスだった。
彼女はと言うと。
名前 ソフィア クラス・
体力 C
魔力 A
物理攻撃力 C
魔法攻撃力 B
物理防御 B
魔法防御 S
敏捷 B
技量 D
信仰 SS
スキル一
スキル二 主への信仰 信仰心を高めることによって、全ステータスを上昇させる。
うわ、何このステータス、信じらんない最大のSSとかある。
技量が低いのが少し気になるものの、ほぼ全てのステータスが高水準を満たしている。
信仰の高さは回復魔法を多く使えるということであり、この平均的に高いステータス、彼女の装備からして生粋のヒーラーというわけではなく、回復魔法を使いながら攻撃もこなす攻防両立タイプなのだろう。
その証拠に斧と槍を合体させたような、いかつい武器をその手に持っている。
通常のヒーラーなら教典か杖を使用するはずだ。
「王様、わたしが一番最初の兵なのでしょうか? やけに静かですが」
「いや、君は六番目の仲間だよ」
「そうなのですか? では既に魔の軍団と戦われているのですね」
魔の軍団? なんだそれは? 通常のモンスターのことだろうか? それならダンジョンなどで倒しているが。
「王様、礼拝堂はどこでしょう? 王様に会えたことを主に報告しなくてはなりません」
「れ、礼拝堂?」
「はい、わたしの住んでいたお城には礼拝堂があり、一日に三度、神に感謝を捧げなくてはなりません」
「お、おぉ」
なるほど、これは確かに信仰が高そうだ。
「すまないけど、この城に礼拝堂はないんだ」
「そうですか、では作っていただくようお願いいたします」
軽く言われてしまったが、礼拝堂を作る。そんな無茶な。
と思っていたのが顔に出ていたのかソフィーは付け加える。
「あまり大そうなものでなくて結構です。祈りを捧げる場所さえ確保していただければ十分なので」
「そ、そうか、それならなんとかなると思う。場所には事欠かないからな」
「ありがとうございます。それとわたしの寝所には近づかないようお願いします。わたしの祈りの力は純潔でないと発揮することができませんので、王様から求められてもお応えすることはできません」
「お、おぉ、いやそんなつもりはないんだけど」
いきなり際どいことを言ってくる少女だ。その割にはなんでそんな服装をしているのだろうか。
「あの、ソフィーのその格好はなんでそんなことに?」
「お、おかしいでしょうか? 以前街にいた戦士様達は皆このような格好をされていたので、オーダーメイドで作らせたのですが」
自分でも薄々おかしいのではないかと気にはなっていたようだ。それに対して俺は、
「いや、全然おかしくないよ。それはきっと戦いやすくするためにわざと身軽にしてるんだよ。ほんとはもっと鎧が少なくてもおかしくないね」
と勘違いに自信を持たせることにした。
「で、ですよね。間違ってませんよね」
「そう言えば、なかなか来てくれなかったけど、やっぱり契約するのは迷ってたから?」
「いえ、わたしは最初から行くつもりでしたが、お父様とお母様が……」
「あぁ、そりゃ長年一緒にいた両親だもんね、別れるのは寂し……」
「いえ、行かないでと泣きついてきたのです」
「そ、そうか。大事にされてたんだね」
「はい、わたしこれでもへイムダル領王家ロレンツ・ブルク・エドナドールの一人娘ですので」
「……もしかして君、地方の王族?」
「はい」
「周りからなんて呼ばれてたの?」
「それは勿論姫様と」
そんな高貴な姫騎士的な人が、こんな何もない辺境の城に来てくれたのか。
しかしながら危機察知能力の高い俺は既に不安を感じ始めていた。
この子もしかして……。
「咲、どこ?」
声がして振り返ると、そこには布団を体に巻き付けたままのオリオンの姿があった。
「オリオン」
俺が呼ぶと、とてとてとガチャの間に入ってきて、ソフィーとオリオンが対峙する。
「これはこれは、王様の私兵でしょうか?」
「咲、召喚したの?」
オリオンはソフィーを無視して、俺の方を睨む。
「あぁ召喚石が一つ手に入ったから」
「無駄遣いだよ。あたし以外に咲の兵なんかいらない」
「あまりわたしの事を良く思われてはいないようですね。ちなみに彼女のレアリティはなんだったのでしょう? SSとは思えませんがSくらいはあるのでしょうか?」
召喚される戦士は、自分のレアリティのことを召喚された時に神から聞かされる。その為それを誇る戦士もいれば、皮肉ったり、蔑すんだりする戦士もいる。
「ソフィー、レアリティの話は別にいいだろ」
「……Rだよ」
ぼそりとぶっきらぼうに言うオリオン。言わなくていいのにと俺は額をおさえる。
「なるほど、わたしはレアリティSSRのソフィア・ブルク・エドナドールと言います。以後ソフィーとお呼び下さい」
そう言ってソフィーは品のある礼をする。
彼女は別に自慢しているわけではないのだ。レアリティに関しては本当にただの興味だけで悪意は全くない。だが、最高レアの戦士が低レアの戦士に「君強さどれくらい?」と聞くと当然カドが立つ。その辺の配慮に欠ける、言わば空気の読めないお嬢様気質なのだ。
オリオンはSSRと聞いて、ぎりっと自分の唇を噛んで走り出してしまう。
「あっ、オリオン!」
呼び止めるが彼女は一瞬でガチャの間から消えてしまった。
「あら? わたし何かおかしなこと言いましたか?」
俺はソフィーに空気を読んでくれと言おうと思ったのだが、本当にわからないと頭の中が疑問符でいっぱいになっているようなので、そのまま走って行ったオリオンを追いかけた。
産まれながらにしてSSRの人間はR娘の気持ちなんてわからないよな。そう思いながら城中を探し回ったが、オリオンの姿は見当たらない。
「あんまり俺体力ないから、かくれんぼは勘弁してくれよ」
「王様、夕飯の支度ができましたー」
「先食べててくれ。後で行く」
サイモンの声を軽くスルーして、俺はオリオンの行きそうな場所に目星をつけて走り回った。そしてようやく最後の場所で発見することができた。
ボロ城のとんがり屋根の上に、膝を抱えながら座っている少女の姿がある。
「こんなとこいると風邪ひくぞ」
俺はいつ踏み抜いてもおかしくない屋根をゆっくりと降り、縮こまったオリオンの隣に立つ。
夕日が完全に落ちた空を見上げると、星が上り始めていた。
あー空だけは俺の世界と段違いに綺麗だな、なんて思っていると隣からくぐもった声が聞こえてくる。
「なんでSSRとか呼んじゃうんだよ」
「そりゃ出て来ちまったからな」
「あたしいらない子じゃん。全部持ってかれちゃう」
膝に顔を埋めながら、拗ねるような、悲しむような声を上げるオリオン。
「お前ウチの戦力事情知って言ってるのか? お前もこき使うに決まってるだろうが」
「いらないよあたしなんて。あの子(SS)が全部仕事持ってっちゃうし、あたしより絶対稼ぐよ」
「別にお前とソフィーを比べるようなことなんかしないっての」
「今は一人でも、そのうちソフィーみたいな高レアの子が増えたら絶対あたし居場所なくなっちゃう。あたし帰りたくない……」
オリオンは元高地の山脈にある村の育ちで、本当に何もないところだと自分で言っていた。
人はおろか食料もないし、作物もろくに育たなくて、常に腹を空かせていたと。
俺はオリオンが帰ってしまうことを危惧していたが、彼女は逆に帰らされるのではないかと不安に陥っていたようだ。
「大丈夫だ。どれだけ人が増えたってお前は帰さないよ。大体こんだけ広い城に人がいっぱいになるって一体何年後の話だよ」
どれだけ金稼いで、召喚石用意しなきゃならないんだ。
「あたし咲のこと好きだよ」
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