異世界城主、奮闘中! 〜ガチャ姫率いて、目指すは最強の軍勢【チャリオット】〜
ありんす/ファミ通文庫
第1回
『ロンデニア大陸』に存在する中立都市のうち、東側地域最大規模の街『ラインハルト城下町』。街を東西で両断するメインストリートの最奥、小高い丘の上にそびえるラインハルト城は街の名前の通りシンボルとなっている。
明るい雰囲気の街には、ギルド、酒場、工房、市場、宿、裁判所と、おおよそ冒険者に必要な施設が全て揃っており、街中を数分も歩けば今日の晩飯から明日の働き口まで生活に必要なものは何でも手に入る。
その為商人や貴族、駆け出しから熟練の冒険者など、拠点を持たない根無し草たちの住処となっていた。
三カ月前、俺が初めてここに来た時の感想は「うわ、ゲームみてぇ……」だったのを今でも覚えている。
「うひょー咲、なにこれ超うまそう!」
「意地汚いからやめなさいって」
俺は祭りの屋台にかじりつきになる相棒を引きはがした。
口をあけてハァハァしている姿は犬っぽくも見える奴である。こいつにもし尻尾があればブンブンと振り回していることだろう。
現在ラインハルト城下町は晴天祭と呼ばれる祭りの最中で、賑やかな空気に包まれていた。
メインストリートには出店が並び、家族連れや、旅行客なんかが活気あふれる祭りを楽しんでいる。俺たちも出店の前を通るたびに「そこのお嬢ちゃんとお兄ちゃん寄ってって!」と商人から声がかかっていた。
「ちょっとくらいいいだろ、城主のくせにけち臭いぞ」
「貧乏城主とわかってて言ってるだろ」
恨みがましい目で俺の方を見る少女は、名目上護衛ということになっているが、どう見てもお守をしているのはこちらである。しかしながら並んだ屋台から香る、焼けたソースや、チョコの甘い匂いにつられてしまうのは仕方のないことかもしれない。
俺がこちらの世界に召喚されて一番最初に出会った少女、オリオン。長い髪を無造作に揺らし、背中には
磨けば間違いなく美少女の類なのだが、お世辞にも品があるとは言えない少女は、ブータレながら出店で買ったバナナチョコをくわえて俺の後ろをついてくる。
「さすが晴天祭、いろんなもん売ってるな。おっ、これ見ろよ! 銀の剣だ、アンデッド系に大ダメージを与えられるやつだぞ。やべーほしーなー」
オリオンが指をくわえて見ているのは銀で刀身が作られた剣で、眩い陽光を浴びて光り輝いている。柄の部分に小さなルビーが埋め込まれていて、見るからに高そうという感じだ。
予想通り値札には一〇万ベスタと書かれており、到底手が出そうになかった。
鍛冶屋の出店の隣に、砂糖菓子の出店があったので、俺はそこで五〇ベスタ支払ってお菓子を買う。
「うちの財力では買えません」
そう言って、砂糖を星の形に固めたお菓子を一つつまんだ。
と思ったら、俺の指が空を切る。
ん? と思い視線を落とすと、今しがた買ったはずのお菓子がなくなっていた。
「ほんとけちくせー」
そう言いながらオリオンは俺の手からかすめ取った砂糖菓子を口の中に運び、パリパリと音を響かせる。
「おい、それは俺のだぞ」
「あたしが稼いだんだからいいでしょ」
「お小遣いちゃんと渡してるだろうが」
「さっきのバナナチョコで全部なくなった」
「お、お前……」
ケロッと言い放つオリオンに、俺は毎度のことながら頭が痛くなった。
彼女は悪びれた様子もなくペロリと舌を出して笑う。
もはやいつものことなので、今更どうこう言う気にもならない。
俺がため息を一つつくと、行き交う祭り客の肩と自分の肩がぶつかる。
「気をつけろい」
ぶつかったのは昼間から酒を飲んでいた中年男性で、少し酔っているようだった。
男は赤い顔でぶつかった俺ではなく、オリオンの方をまじまじと見すえる。
「姉ちゃん、そんな格好して誘ってんのかオイ?」
酔った男はオリオンの方につかつかと歩み寄り、腕を握ろうとする。だが――
「あたしに触るな」
一瞬の出来事だった。
オリオンは剣を逆手に持ち、酔った男の喉元に刃を突きつけると、耳元で囁いた。
男は一瞬で酔いが冷めたのか、頭をぶんぶんと振って走って逃げ出していった。
俺はぺちっとオリオンにでこぴんする。
「いったぁ、何すんだよ」
「やりすぎなの、街中で剣抜くなって何回言ったらわかるんだ」
「だってあいつあたしに触ろうとしたんだぞ! あたしに触っていいのは咲だけだ」
別段彼女の言葉になにかしら深い意味合いがあるわけではないとわかっているのだが、面と向かってそう言われると恥ずかしいものがある。
「お前の装備買わないとなぁ。また変なのにからまれる」
「別にいいけど。動きやすいし、機能性いいし、スピード出るし」
それほとんど同じ意味だが。
「そりゃ装備無しの無課金勢みたいな格好してるからな」
彼女の防具は水着のようなブラとパンツに革手袋、革のブーツだけでローブすら羽織っていない。流行のビキニアーマーだからと逃げの言葉を使いたいが、アーマーと呼べる部分がほぼないので、ただのビキニである。
これでは男の視線を集めても仕方がなく、おまけに彼女の胸は人よりもかなり大きいので目のやり場にも困るというものだ。
これでいてまだ成長期という恐ろしいポテンシャルを秘めているのは、俺にとって悩みの種でもあった。
「それで言うと咲も変な格好してるよね?」
「これは学生服と言う。俺の世界で学生という称号を持つものに支給される装備だ」
「なにそれ、なんかカッコイイ」
「これを装備すると朝から晩まで勉強する権利が得られる」
「なにそれ、絶対いらない」
オリオンは眉をハの字に曲げると、思ってたのと違うと顔をしかめた。
「欲しくなくても絶対手に入るんだ」
「嘘でしょ。呪いのアイテムでも取得するかしないかくらい選べるよ」
「自分の知力に合わせて、学生服の種類を選ぶぐらいはできるぞ。比較的ハードな呪いからベリーハードな呪いまで好きなのを選べ」
「なにその地獄みたいな自由度」
「俺の元いた世界じゃ知力が攻撃力みたいなもんなんだよ」
「地獄じゃん。あたしそこに産まれなくてよかった」
俺はオリオンに義務教育の恐ろしさを説明しながら、目的地であるステファンギルドと書かれた建物の中に入る。
ギルドの中には冒険者風の剣や斧を背負った屈強な男女が揃っていた。
城や町民、周辺の村民たちからの依頼書を張り付けたクエストボード。その横には受注する為のカウンターと職員が並ぶ。更にその隣は酒場になっており、朝から酒を浴びる者もいれば、クエストボードにかじりつきになる冒険者もいる。
物語やゲームに出てくるギルドと同じ光景が広がっており、ここも最初来た時は興奮を覚えたものだ。しかし今となっては見慣れた光景である。
待合となっているエントランスを抜けて、コンビニATMのような長方形でディスプレイがついた機械の前に立つ。
周りはファンタジー風のTheギルドという感じの中、明らかにこの機械は浮いていた。
浮いているのはこれだけではないのだが。
俺はポケットからスマートフォンを取り出し、機械から伸びているコネクタと接続する。
[いらっしゃいませ]と画面に表示されているので、画面をタッチして項目を進める。
換金という項目をタッチすると『梶勇咲(かじ ゆうさく)様のギルドデータを参照しています』と、表示が切り替わり、俺の詳細なデータが映し出された。
[梶勇咲 性別:男 年齢:一七 職業:王 王ランク:F]
毎度この職業王のところを見てため息をつきたくなる。
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