第3回

 晴天祭を切り上げた俺たちは家路へとついていた。

 家というには語弊がある。

 俺達の家は家ではなく城だ。

 それも敷地だけは超広い。

 しかし超ボロい。

 そこらへんに穴開いているし、雨漏りしてるし、壁も蹴れば崩れそうなものばかり。更に上の階までは上がってこないが、下の階には野生の動物がうろついている。

 ビバ野生の動物園である。

 よく言えば雰囲気のある古城だが、悪く言えばただボロいだけ。

 この城はチュートリアル説明をしたドラゴンに貰ったもので、ここを拠点にして領土を広げていくらしい。

 本来もっとまともな城が貰えるらしいのだが、ドラゴン曰く「君の初期城ベースキャッスルは少しボロくて裏手にある山にモンスターが住んでいて、たまに襲って来るよ」と完全に事故物件であることを告げられた。


「お帰りなさいませ王ーー!」


 自慢の尻尾を振りながら駆け足でやってきたのはサイモン四兄弟の一人、槍サイモン。

 コボルト族という獣人の一種で、見た目は完全に犬人間だ。サイモンは柴犬を思わせる茶色の毛並みをした人懐っこい青年だった。

 本人曰く勇敢なるコボルト戦士らしいが、あまりにも戦闘力が低いせいで戦いには向かず、主に見張りや城の補修、家事や炊事などを行ってもらっている。

 ちなみに最初召喚された時に槍を持っていたので槍サイモン。他に斧と弓と剣サイモンがいる。


「他のサイモン達は?」

「皆魚釣りや、山菜とりに向かい夕食の準備をしています‼」


 うん、声がでかい。


「なるほど」


 俺は報酬の四八〇〇ベスタのうち二〇〇ベスタをサイモンに渡す。


「これは……」

「四人で分けておいて」

「王様、お気持ちは嬉しいですが、僕たちは王の兵です。このようなお金などいただかなくても粉骨砕身の……」

「あぁいいから」


 サイモンは能力は低いが、めちゃくちゃ真面目である。話が長くなりそうと思ってさっさと切り上げることにした。

 兎が二匹、仲良く並んでこちらを眺めている。可愛い。

 『可愛い』ではない、多分どこぞの穴から侵入してきたのだろう。穴塞いどかなきゃな。

 可愛い兎のいる石畳のエントランスを抜け、自室のある三階へと向かう。

 本来王室は最上階にあるのだが、雨漏りする上にエレベーターもないもんで上るのが辛いのだ。

 自室に入ると部屋の中はこじんまりとしており、小さな椅子と机、木製の箪笥とベッドが一つずつあるだけで他には何もない。ガラスもはいっていない窓から殺風景な部屋に夕陽が差し込んでおり、もの寂しさを感じる。

 俺が荷物を置く前にオリオンは大ジャンプでベッドにダイブすると、ゴロリと寝転がってそのままロールケーキのように布団を自分の体に巻きつけた。


「なにやってんだよ」

「ΣΨ▲×※Θεω」


 ダメだ何言ってんのかわかんねぇ。

 乾と会ってからずっとこの調子で、未開地の原住民化している。

 ちなみにオリオンの部屋はちゃんと別にあるが、大体この部屋で一緒に寝ているのであまり使われていない。


「お前、R娘って言われたこと気にしてるのか?」

「気にしてない」


 一瞬だけ布団から顔を出したが、むすっとして再び顔を隠してしまうオリオン。わかりやすい奴だ。


「あんまり気にすんなよ。レアリティはあくまで現段階の目安であって低レアリティであってもSRレベルにまで強くなることもあるって」

「SSになるとは言ってない」

「SSは、まぁ特殊能力持ちらしいからな。後天的に特殊能力に目覚めることはあんまりないって……」

「SSになるとは言ってない」

「SSは、まぁ特殊能力持ちらしいから――」


 天丼に天丼で返すと固い枕を顔面に投げつけられる。


「痛ってぇ、なにすんだよ」

「あなたのレアリティは下から二番目ですって言われた奴の気持ちがお前にわかるか!」

「お前最下位レアリティN(ノーマル)のサイモン達を悪く言うのは許さないぞ!」

「あいつらスライムと戦って普通に負けて帰ってくるんだぞ! あたしはそんな奴の一個上でしかないんだぞ!」


 ふんっとすねて喋らなくなってしまうオリオン。

 俺はやれやれとため息をつき、ベッドに腰かける。


「俺はな、右も左もわからないままこの世界に召喚されて心底困ってたんだ。そこに自称神の胡散臭いドラゴンが、チャリオットを大きくするためにガチャ召喚をやってみよう、この召喚石を使って戦士を召喚してね。って悪徳商法みたいなこと言い出して不安でいっぱいだった。でも、初めて召喚した時、お前が出てきてくれて嬉しかったんだぞ。誰もいないたった一人の中、俺の味方ですって言ってくれる奴が出てきてくれて俺は心底嬉しかったんだ」

「…………」

「お前はもっと金持ちの王の元に行きたかったかもしれないけど、俺はお前のおかげでこの世界でやっていけてる。だから神が勝手にランク付けした強さなんて俺には関係ねーし、だから拗ね――」

「グガガガガ……スー……」

「嘘だろ……ね……寝てやがる」


 人が珍しくいいこと言ったと思ったらこれだ。

 はぁっと小さくため息をついて、俺は立ち上がる。

 体洗って装備手入れして、行けそうなダンジョン探して金策の方法考えないと、今日の収入ではやっていけない。

 俺が自室を出ると、オリオンは布団からひょこりと顔を出す。




「聞いてるよ……バカ」



 体を水でざっと洗い流し、吸水性の悪い布で髪を拭きながら一階にある武器庫の方に向かう。

 武器庫と大それた名前をつけてはいるが、元武器庫だったと言う方が正しい。

 剣立てや槍立てには刃がガタガタな鉄の剣にボロボロの棍棒、木を切りだして槍っぽくしたものなんかが並んでいるだけで、武器庫と言うにはあまりにもお粗末だった。

 俺は研ぎ石を使って、刃の欠けた剣の手入れをする。

 包丁の手入れと同レベルのことしかできないし、こんなもの使うのかと言いたくなるのだが、今の俺達に選べるほどの金も資源もない。

 一通りの手入れを終えると、俺はそのまま武器庫でスマホを取り出し画面を開く。

 スマホは通話機能やメール機能が使えなくなっていたが、不思議なことに電池切れを起こすことはなくなっていた。

 俺はファンタジーシフトと書かれた剣マークのゲームアイコンをタップすると、ギルド依頼、王達の領土図、最近発見された危険モンスター、今月のイベント、あなたのポイント、などの題目が並ぶ。

 一見ゲームのように見えるが実際にこの世界と連動している情報であり、なぜこのような便利なことができるのかはATM含めてわかっていない。

 ギルド依頼には、このダンジョンに行ってこのモンスターを倒す、またはこのアイテムを持って帰るとこれだけお金が出ますよという依頼情報が記載されている。

 俺はその中で、主にオリオンがいけそうな場所を選んでピックアップしていく。


「キノコ集め、一日で八〇〇ベスタ……。割りにあわん。シルバーフォックス討伐SR級戦士四名以上推奨、無理。遺跡でマミーの秘宝を手に入れる、出来高。これは報酬的な意味でリスキーすぎる。ゴーレム討伐、R級戦士三名以上推奨。三名か……オリオン一人でなんとか……。いや、やめておこう」


 オリオンが怪我したりする方が問題だ。ウチには今、傷を癒してくれるヒーラーもいない。

 俺はスマホと睨めっこしながら息を吐く。

 なんか普通に生活の一部になってきてるけど、こんなんで帰れる日は来るのか?

 大体ナチュラルに受け入れてるけど魔法ってなんだよ。俺にも使わせてくれたら少しくらい実感わくのにな。

 この世界の神はそんなに優しくないようで、俺にそういった特殊能力の一切を与えてはくれなかった。

 もう一度小さく息を吐いて愚痴っぽくなったのを反省すると、オリオンが拗ねていることが気にかかった。







「あなたの強さはRクラスです……か」


 まぁ……低レアと呼ばれて、いい気はしないだろうな。

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