作者の前作品『エリート変人と麗しき変人の奇妙な契約』で、晴れてパートナーとなった樹と柊。
なんと今作では、柊の体が妊娠可能であることがわかります!
そこからはもう、人生の一大事の連続。
「妊活すべきかどうか」から始まり、妊娠から出産・育児まで、次々に課題がやってきます。
そのすべてに、彼ららしい悩み、温かさ、男同士であることの周囲の反応などが、ひとつひとつ丁寧に語られます。
人のちょっとした心の内にも踏み込んでいくような筆運びが、彼らの深いつながり、人として大切なことをたくさん教えてくれます。
もちろん、同性カップルでなくてもぜひ触れてほしい内容が盛りだくさん。
二人はどんなパートナー、どんな家族になっていくのでしょうか。
ぜひ本作を読んでお確かめください。
ためになる育児情報もバッチリですよ♬
この物語は、『現代ファンタジー』であることを念頭にご覧いただきたく、最初に申し上げます。なぜなら「ええっ、そんなバカな」とか「ありえない」とおっしゃられないようにと思うからです。ただし、ファンタジーだからなんでもあり、ではもちろんありません。ある種ファンタジー的要素を含みながら、実はとても素敵なラブストーリーなのです。それゆえ色々な事件や出来事が発生します。そんな簡単にハッピーエンドは迎えさせないのが作者アオイさまの十八番です。読み進めるうちに柊くんと樹さんにドンドン感情移入していきます。このあたりの引き込み方はさすがです。途中で、もう堪忍してあげて、なんて思わず叫びそうになります。叫びはしませんが。それくらい読み手をこの世界観にひたらせてくれる物語なのです。とにかくストーリー展開が飽きさせません。十六万文字あったと読み終えて初めて驚くほど上手い運びです。こんな恋愛もステキだな、そう心を動かしてくれる本物の恋愛小説です。
男性同士のカップルが妊活に励み、赤ちゃんを産む────
ざっくりとしたあらすじだけを知れば、なんて突き抜けたBLなんだと思うかもしれません。
けれども、私は本作はBLという括りを完全に超越した、「一人の人間として、一人の人間を愛すること」の延長線にある、愛に溢れた物語であると考えています。
男性ながらも今回出産に挑戦することになった柊君と、彼のパートナーである神岡さん。
彼ら二人が出会ったとき、彼ら自身も、そして彼らの周囲の人達もどこか歪なところがありました。
けれども、二人がお互いを深く愛し、大切に思い合う中で、新しい生命が育まれ、そのことが彼らの家族や同僚を巻き込んで様々なドラマを生み出していきます。
人が人を愛することで、これまで自分に与えられてきた愛を知り、これから自分が与えるべき愛を知っていく。
それが人の絆となり、家族の絆を深めていく。
純粋に、ひたむきに愛することの尊さを改めて教えてくれる素敵な作品でした。
『エリート変人と麗しき変人の奇妙な契約』の続編的な作品として、作者が新たな一面を掘り出した「別ルート」の物語です。本編を読んでからコチラに入るのが筋かと思いますが、コチラの作品を単体として読んでみても十分に面白いです。
子は鎹という言葉があります。子供は夫婦の仲を取り持つという意味で知られてますが、この作品を通して使うならば、子供は夫婦間だけでなく、あらゆる「ファミリー」に対して仲を取り持ってくれる存在なんだなと感じさせてくれます。男性同士の夫婦間、二人のご両親に対する家族愛、さらには職場という環境の中でも重要視される家族の「ような」関係。一見、トランスジェンダーの妊活物語として捉えがちですが、その物語の奥底にはマイノリティに対する理解よりも、本当に愛する者たちとの共生をテーマとして綴られているのではないかと思いました。設定されている職場が建設会社なだけに、子は鎹に対する洒落っ気もあったりして?
LGBTや妊娠・妊活に対する知識、出産時の大事なことなど、学ぶところも多く読み応え抜群です☆