第四幕 告解室から往来にて
「去年の今頃は、あの子のお母様の代からのお客様にお声かけしたところからスタートして、モノづくりの事業を始めたばかりだったでしょう? あの子の言う通り倹約しながらの生活で、もちろん煮込み料理を食べる為だけでみんなに外食なんて難しいからできる範囲であの子も温かくて美味しい料理で工夫したりして、でもやっぱり十三人いる仲間を幸せな気持ちにさせた上にあの子のお兄様たちや私のお客様やその他つながりを断つわけにはいかない方々へのクリスマスプレゼント代を含めるとどうしても相当頑張らなきゃって予算を計上するしかなかったわけなの。たった一度のクリスマスで路頭に迷うわけにはいかないし、なにより私もあの子が欲しいって言ってたお鍋でも一番いいものをプレゼントするために、死に物狂いで働いたわよ。確かに、やれ先代の仕上がりはもっとよかっただの、先代だったらこちらの要望を皆まで言わなくてもたちどころに理解してくれただの、七年間も音信不通になっていたあの子のお母様の身を口先だけは案じていたっていう調子のいいお客様の我儘や要望にお応えしたからこそ今のドルチェティンカーがあるっていういい方も出来るわ? そういう意味ではクリスマス様様なのよ。何よりあの子が幸せそうな顔をみているのは私にとっても幸せだったもの。でも、何? こう言ってはなんだけどどうしてあの子への私のプレゼントがキャンディケイン一ダースだったかしら? プレゼントの金額や質で愛情を計る行為ははしたないし、私は何も高価なものを求めていたわけでは無いけれど、あれから一月ばかりほとんど私につれなくした上に頑張って働いて一番いいお鍋をプレゼントした私にそれはあんまりってものじゃないかしら? 神様を信じるあなたがたにはそういう行為も一種の符牒として響きあうものがあるのかもしれないけれど、残念ながら私は神様を信じるようにできてないからあの子が発するメッセージをどう解釈していいのか一年経っても理解できないの。そのせいで、クリスマスが近づくと憂鬱になって幸せそうな方が憎らしく思える悪い子になってしまうの。――お分かりいただけましたかしら? 司祭様」
「――え、ああ、うん。聞いてた聞いてた。聞いていましたとも」
「その言葉、信じましたので。信用しましたので。一応申し上げますけれど、私のお話はこれでお終いじゃありませんから。もう少し続きますから」
がた、と小さく椅子が揺れる音がした。この際限ないおしゃべりがまだ続くのか! という感情をその音が言葉より雄弁に伝える。だからマルガリタ・アメジストの声に棘がまぶさる。
「もう一人の司祭様にあのジェイコブっていう若い司祭様は私の告解中に居眠りされていましたって報告しないで済む誠実な態度を今からみせてくだされば、全て水に流しましょう」
「失礼だな、居眠りなんてしていないっ。君の話はちゃんと聞いていたっ。その証拠としてクリスマスにお見えになる司教様に今の話をお伝えしてもいいんだぞ? ブラッディ元司祭の娘御はメラニー・ドルチェティンカーから異世界の邪悪な魔法を引き継いだユスティナと手を組んでベル・ドルチェティンカーの事業を引き継いでいるってね」
「――あら、脅迫だなんて止した方がいいんじゃなくて? 身の丈に合わないことに手を出して足元を掬われて失敗するような杜撰な方に私は手を差し伸べませんから」
つとめて涼しい態度をマルガリタ・アメジストは貫いた。
「こういう時はお互い得意分野で接する方が賢いと思いません? 私はどんなかたとでも共犯関係になるのが得意、あなたは見て見ぬふりをしてどちらの側にもいい顔をするのが得意、お互い今後もよりよく幸せに生きるにはそれが最善だと考えますけれど」
基本的に善良で、非情になりにくい若い司祭にその言葉はやっぱり奇麗に刺さったようだった。
マルガリタ・アメジストとしてはここまでのことに言いたくはなかったけれど、異世界の関係者を一方的に狩る力を有する組織のそれなりに上の方にいる人間に自分たちのことを報告すると脅されては警告も発する必要はある。
そもそも、七年間も女の子を悪い妖精の国に放置していたことに疚しさを感じている癖にその組織に未だ身を置き続けているどっちつかずの人間なんて、所詮マルガリタ・アメジストの敵ではない。脅迫するなら脅迫するで、その力量の差を埋めて来いとう気持ちだってあるのだ。
かたかた、と革製の靴のつま先で床を叩く神経質そうな音が格子窓の向こうから聞こえる。
これはきっと本気であの時額を撃ちぬかなかったことを悔いているんだなとマルガリタ・アメジストは読んだ。だからちょっと、わざとらしく柔和な声を出して見せる。
「ごめんなさい、司祭様。七年間あの子の為に危険な橋を渡ってくださっていた貴方に対してさっきの態度は恩知らずも過ぎました。――ね、こんな風につい意地悪になってしまうの、私。悪い子でしょう?」
「――……、まあ僕個人としては君のその言葉に大いに頷きたくはあるけれどね」
イライラを何より饒舌に表した靴の音が止んだ。
その後呼吸を整える一拍の間を置いて、司祭は口調を整えて接する。
「とはいえ、貴方は己の心を見つめて罪をお認めになる勇気があり、何より愛する人を真心で支えた行いはなにより尊い、そう思いますよ私は!」
結局、お人よしな司祭はそう告げるのだ。
お人よしだから、以下、こういう余計なアドバイスもしてしまうわけである。
「まあ、キャンディケイン一ダースっていうのはジョージナなりのユーモアじゃないかな。あの子はユーモアに関しては独特の感性を持っているって、手紙を読んだ後マイクはいつも誉めていたよ」
「――そんな素敵なユーモアをお持ちな妹を七年間助けに来なかった方たちのボーイスカウト的な友情譚を今の私に耳に入れて、どうされたいのかしら?」
「別にどうもこうも――、とりあえず君の話を居眠りせずに最後まで聞いていたという証拠にはなっただろう!」
いささか気が立っている女の子の地雷をうっかり踏んでしまうお人よしの司祭とはいえ、敵対する陣営に七年間もいい顔をし続けていたくらいだから土壇場でこうやって切り抜ける程度に頭は回るのである。
その点に敬意を表す意味でも、マルガリタ・アメジストは自分の告解中に若い司祭が上の空になっていたことを報告するのを、この教会にもう一人いる年配の司祭に報告するのは控えることにした。
今年の十一月下旬から十二月中旬の今まで胸の中でモヤモヤしていた思いを全部吐き出せて、すっきりしたのは確かでもある。その感謝の意味もあった。
腕に巻いた時計をみれば結構な時間になっていた。そろそろあの子も学校から帰っているだろう。
長居をしてしまいました、といって立ち上がったついでに忘れていたことを付け足す。
「そうだ。今年はね、ジャンヌ・トパーズがクリスマス用のクッキーを焼いているの。あなた達の分も用意したから渡してちょうだいって、預かって来たのよ。ここに来る前に年配の司祭様にお渡ししたから、あとでどうぞ皆さんでお召し上がりくださいね」
「ジャンヌ・トパーズ? ああ、あのふわっとした髪の子か。最後の住民のお見舞いに行っている子だね。わかった、ありがとう、善きクリスマスをって伝えておいてくれるかな?」
「構わないわ。その代わりクリスマスにいらっしゃる司教様にはそのことをよおおく伝えてくださいませね。私たちはとてもいい子なんですよって」
はいはい、と、苦笑まじりに若い司祭は答えた。
厳しい環境にいた時に支えとなった老人へのお見舞いを欠かさない感心な女の子が隣人愛を発揮して作ったクッキーはそれなりの効果を発揮したらしい。やっぱりこういう所がお人よしよねこの方、きっとマーチ家の四姉妹じゃ三女がお好みなタイプだわ、という司祭への印象をより強めた。
教会の外に出ると、すっかり暗くなっていた。冬である点を鑑みてもこのあたりは日が暮れるのも以前いた赤い砂漠の町よりずっと早い。
扉の傍の壁にもたれて腕を組んで、誰かを待っているマリア・ガーネットの姿を見つけると、どうしたってマルガリタ・アメジストの胸には光が灯るし今すぐ駆け寄りたくなる。
だから、私はまだ機嫌を損ねてるんですよという態度で濡れた舗道を歩くのは結構な精神力を有するのだ。
「……あ」
つんとしたマルガリタ・アメジストが目の前まで来て、気まずそうにマリア・ガーネットが呼び止める。赤い瞳に少し不安そうな感情が覗いてる。
やだ、可愛い。最近見た中で今の表情が一番可愛い、どうしようどうしよう……! という感情を隠すために胸元につい手をあててしまうマリア・ガーネットが辛うじて自分自身を制御しつつ、次の言葉を待つ。
「あのさ、マルガリタ・アメジスト」
「なあに、マリア・ガーネット」
何かしら、ごめんね、とか、構ってあげられなくて悪かった、とか、そういうことを今にも言いそうな顔だわ……! と、期待している旨を悟らせないためにも顔をそむけたマルガリタ・アメジストに水を差したのは、さっき閉めたばかりのドアを開けて外に出てきた若い司祭だった。
「ああ、迎えにきてくれてたのか、ジョージナ。日も暮れてるから君たちの家までユスティナを送ろうと思ってたんだ」
「ああ、うん。あたしも。家に帰ったらこの子いなくて。で、教会に行ったって聞いたからこうして迎えに――」
後ろめたい現場を目撃された高校生みたいに、マリア・ガーネットはしどろもどろになる。さっき見せた可愛い表情がもう消えていた。
本当にこのお人よしさんは気が利かないんだから……! という思いでマルガリタ・アメジストは振り返って司祭を睨むのだけれど、微笑ましい十代カップルを見つめる年長者の顔になった彼は柔らかい笑顔でうんうんと頷き、お説教めいたことを口にする。
「皆の為によいクリスマスをと心を配るのもよいが、一番身近にいる人の愛と献身を忘れないようにね。ジョージナ」
「はい、うん、気をつけます……」
司祭の表情で何かぴんと来たのか、おざなりに返事をしたあとマリア・ガーネットはマルガリタ・アメジストに耳打ちする。
「あんたジェイクに何か変なこと言った⁉」
「言ってません。クリスマスのミサにお招きくださってありがとうございますってお伝えして、ジャンヌ・トパーズのクッキーを渡した。それだけよ」
「本当にっ、本当にそれだけっ?」
「貴方が独特のユーモアを有するってことだけは弾みでお話することになってしまったけれど、本当にそれだけだから」
何よ独特のユーモアって……! と続けようとしたマリア・ガーネットを制するように、若い司祭は呑気な声をだす。
「車を出すから、ちょっと待ちなさい」
「いいよ、そんな遠い距離でもないんだから歩いて帰る」
「ここら辺でも日が暮れれば物騒だ。悪いこと言わないから――」
「大丈夫! あたしみたいなやつわざわざ狙って襲うバカがいると思う?」
相変わらず教会には相応しくなさそうなファッションにしっくりなじむ鉄製の右腕をみせつけてみせるが、司祭はそれでも車を出すと言い張る。こういう所がやっぱりお人よしで善良なんだけれど、本当に気が利かない人だという評価につながるのだ。
この子と二人で話したいことがあるの! とマリア・ガーネットにそこまで言わせてようやく司祭は引き下がった。
「じゃあ寄り道しないでまっすぐ帰る様に。家についたら僕に連絡をいれるように。それから、クリスマスにブラッディ元司祭のお嬢さんに会えることを楽しみにしてるって司教から言付かっている。だから――」
「分かった分かった! クリスマスにはみんなと一緒にちゃんと顔見せにくるから、私も父の思い出話をできることを心待ちにしております、ただし様子が昔とはずいぶん異なりますので驚かないで下さいってお伝えしておいて。それじゃあねっ」
左手でマルガリタ・アメジストの手を掴んでやけっぱちになったような足取りでマリア・ガーネットは歩き出した。右側が車道なので自然とそうなってしまうのだ。
「――本当にもう、ジェイクはいっつも保護者ぶるんだから──っ」
そういうぷりぷりした様子はなかなかマルガリタ・アメジストたちと居る時にはなかなかみせないものなんで、ちょっと嫉妬めいた気持ちが湧いてしまう。
せっかく素直になりかけてた気持ちにも刺々しさが湧きたってしまう。
「司教様ってどういう方なの?」
「父さんの元仕事仲間だった人。そう聞いてる」
「七年間あなたをあの町に留めた人が、今更あなたの顔を見にいらっしゃるわけね。許しを請いにかしら?」
「――さあね。あたしたちを助けるために七年もかかってしまったのか、七年経ってようやく腰をあげたのか、そのどちらなのかは直接お話してから判断することに決めてる。だから現段階では何とも言えない」
この答えで満足? と、マリア・ガーネットもちょっと棘を含ませた声で答える。
実際のところ、ちょっと満足したからマルガリタ・アメジストは無言で頷いた。
無言、というのは珍しいのでマリア・ガーネットは振り向いた。普段マルガリタ・アメジストは右側に立つから、この角度は少し新鮮だった。
それはマリア・ガーネットにとっても同じだったようで、ちょっと落ち着かないような表情を見せる。その気まずさを打ち消すように話題を変えた。
「ところで、何? さっき言ってたユーモアがどうとかって話?」
「なんでもないわ。告解の流れであなたの去年のクリスマスプレゼントがキャンディケイン一ダースだったって話をしなくちゃならなかったってだけ」
「――っ、なんでそういうこと言っちゃうかなあっ! あーもう絶対あの人今頃兄さんにこのことバラしてる、ジョージナってば去年のクリスマスにこんなことしたらしいよって州跨いで二人で今日のほんわかニュースとして消費しまくってる! あの人たちいつまでもこっちが九才の女の子だって思い込んでるんだから、あーもう最っ悪っ!」
「そもそもの原因はあなたのユーモアセンスにあるんじゃないかしら。そんなことされて恥ずかしいと思うなら、そもそも私にあんなプレゼントするべきじゃなかったってことね」
「――そういうこと言うなら今年のあんたへのクリスマスプレゼントはアグリーセーターにしてやる」
「だったら私からあなたへのクリスマスプレゼントもアグリーセーターにしてやるから」
そのまま無言で溶けた雪で濡れた舗道を歩く。車道を数台の車が通り抜けた。
先に謝ったのは、マリア・ガーネットの方だった。
「ごめん、マルガリタ・アメジスト。今年のハロウィンまでキャンディケイン食べさせて悪かった。だからアグリーセーターは勘弁して」
「私こそごめんなさい、マリア・ガーネット。あなたならアグリーセーター姿もきっと素敵だと思うけれど、でもこの前から憎らしいことばっかり言ってしまって」
本当は去年プレゼントしたお鍋を毎日丁寧に使ってくれてるのが嬉しいのよと、囁いてから右側に移動する。車道側だから危ないとマリア・ガーネットは言うがこっちじゃないとマルガリタ・アメジストは落ち着かないのだ。
いつものポジションになって落ち着いたのはマルガリタ・アメジストだけではなかったらしく、マリア・ガーネットの口調も柔らかく素直なものになる。
「なんかさ、あんたも言ってたでしょ。うちの子たちみんな記憶を壊された子たちだって、今まであったはずのクリスマスの記憶もないんだって。じゃあ責任重大だーってなっちゃって……。どれくらいのことが出来るかわからないけど、せっかく一緒にいるうちは、あああの時のクリスマスは楽しかったなって時間を用意してあげたいじゃない」
そういうのがあるのと無いのとじゃ、土壇場の踏ん張りがちがってくるから。
そんな風にマリア・ガーネットは付け足した。
「――ま、そんな風に〝してあげなきゃ″って考えがまず思い上がりなんだよね。傲慢ってやつ。それに足元掬われて、だからあんたをほったらかしにしちゃった。ごめんね」
そう言って、きまり悪そうに微笑んで左手を伸ばしてマルガリタ・アメジストの髪に触る。
もうそれだけでマルガリタ・アメジストにとっては十分で、自分だけが独占することができる右腕にぎゅうっと体をおしつけてしまうのだ。そして本当に冬って素晴らしいと思う。厚着で所かまわず勝手に紫色の光を放つ胸元を厚着で隠せるから。
「私の方こそごめんなさい。ちょっと不機嫌になっただけのことであなたに心配かけてしまったわ。女王様の右腕として失格ね。こういう未熟さを是非改善しないといけないわね」
「――や、あんたの不機嫌癖は食事をきちんと摂る様にすればかなり改善する筈だけれど」
学校から戻った直後のマリア・ガーネットは、お菓子のお家をしあげたばかりのジャンヌ・トパーズとカタリナ・ターコイズから用があると言って教会まで出かけたこと、その前にクリスマスに食べる予定だったクッキーをほとんど一缶平らげていったこと、つまりここしばらくまともに食事を摂っていなかったことを聞かされた。そして空腹からとんでもない惨事を起こしかねないパートナーの体調管理を怠っていたことに気づいて立ちどころに反省して教会まで迎えに来たのだ。
そういった経緯をまだ知らないマルガリタ・アメジストは、また私のパートナーはムードを解さないことを言って私を困らせる、とばかりにつんと唇をとがらせて拗ねてみせた。
「ところで、あんた今年のプレゼントは何がいいの? いい加減にちゃんと答えてよ。一晩中一緒にいたいとかはナシの方向で」
「キャンディケインじゃないならなんだっていいわ、もう」
「そういうのが一番困る。サプライズとかそういう気の利いたことはできなくて悪いけど、ほしいものがあったら言ってよ。遠慮しなくていいから。そのかわりおふざけもなしね。ちゃんと真面目に答えて」
去年だって別にマルガリタ・アメジストはふざけていたつもりなんてない。至極まともに答えていたつもりだった。その結果が大量のキャンディケインだ。
だから今年はなかなかムードを解してくれないこのパートナーが「ふざけてる」と絶対解釈しない盤石な答えを用意しようと、去年から今年にかけて痛い目にあった経験でそう決意していた。
一晩中一緒にいたいとか、貴方が私に相応しいと思うものがをプレゼントしてちょうだいとか、ムードに酔ってその種の抽象的なものをねだったのが敗因だった。だから今年は具象的なプレゼントをねだろう。
とはいえマルガリタ・アメジストの真実欲しいものは一つしかない。本当に、となりにいる女の子の右側にいられるだけでいい。それしか求めない。それ以外の単なるモノならもう自力でなんとか手に入れられる。わざわざこの子におねだりするほどのものではない。
そのことがどうしても、マリア・ガーネットは理解できないらしいのだ。高価なものではなく時間や経験を求めているとは分かっているようではあるのだけれど、彼女なりに真面目に考えた結果がなぜかその結果が大量のキャンディケインになったりする。
ハロウィンまでかかってキャンディを舐め続ける日々はもうこりごりだ。マルガリタ・アメジストはプレゼントを事細かに指定する。
「じゃあね、私の好きなところを一つずつ書いたカードでできた日めくりカレンダーとか、そういうのはどう? それとか、私の指定するシチュエーションで一晩一緒に過ごすチケットとかでもいいわね。じゃなかったら――」
「わかった。やっぱりあんたへのクリスマスプレゼントはアグリーセーターにする。すっごい悪趣味なやつをメラニーに編んでもらう。決めたから。もう変更は受け付けないから!」
「! やだ、どうしてそうい意地悪を言うの。本当に欲しいものを言ってっていうから正直に答えたのに。ふざけてなんかないのに。もう~っ!」
十二人と一人のうち誰かがはしゃいで作ったスノーマンが玄関わきにまだたたずんでいる。仲良くじゃれあうふたりがドアを開けて、ただいま、というのを笑顔で聞いていた。
十二月のウィッチガール ピクルズジンジャー @amenotou
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