第2話 ポンコツっぷり

「・・・俺の身に・・・危機が?」


「そうです」


 です代と名乗る女神は神妙に頷く。


「ああ、ちょっと待って。今病院に連絡するから」


「警察も病院も必要ないのですよ!」


 女神はぷんすか怒る。


「そんなこと言ったってなぁ。具体的に何が起こるんだ?」


 です代は指を差して、


「あなたのすぐ背後に迫ってるんですよ」


 少年は振り返る。


 そこには。


 弾力のありそうなネバネバした茶色の物体が這い寄っていた。


「な・・・!」


 少年はあまりの事に声も出ない。


 物体は少年のお腹ぐらいの高さがあった。それがズルズルと這い寄っているのだ。


 無能は女神に向いて、


「ちょ・・・おま・・・何これ!?」


「ペインですよ」


 そう言って、です代は無能を突き飛ばす。


 茶色の物体に向かって。


「え・・・?」


 少年の右手から肩までがどっぷりと物体に沈む。


「ああああああああああああああ!!」


 無能は絶叫する。


 浸かった部分が溶解される、服も、腕の皮膚も。


 少年は腕を引き抜き、のたうち回る。


「何してくれてんだ手前ぇぇぇ!!」


 しかしです代は動じずに血塗れになった無能少年の腕に手をかざし、


「癒しよ」


 みるみるうちに痛みが引いていく。


「あれ?痛くなくなったぞ」


 いきなり色々なことが起こり過ぎて脳が付いてこない。


「さあ、今のうちに早く逃げるのですよ。痛み止めは3分しか持たないのですよ」


「3分かよ!」


 なんだ、この女。


「お前は俺をつき飛ばしたり回復したり何がしたいんだよ」


 無能が尋ねる。


「あいつを倒すのに必要な事なんですよー」


 意味が分からない。


 です代は背後を見て、


「無能さん、今ちょっと距離開いてるから、あの茶色に手を伸ばして『ペイン・ザッツ・メルティン』と叫んでください」


「は?」


「いいから早く!」


 無能は頷き、手を伸ばす。


「ペイン・ザッツ・メルティン!」


 すると、茶色の粘体はじゅうぅぅと音を立て、もがき始める。


 よく見ると、表面が少し溶けている。


「やったか!?」


「まだです!今のうちに逃げましょう!」


 です代は無能の腕を引っ張り、走る。


 しばらく走ると公園に着いた。


「ここなら奇襲をくらう心配もありませんね」


 です代は無能の腕の回復を済ますと、帽子を脱ぎ、帽子の中を漁り始める。


「ぱんぱかぱーん!」


 取り出したのはーーー


 爪楊枝だった。


 無能はそれを受け取り。


 です代の尻に刺す。


「あ痛っ!」


 です代はぷんすか怒る。


「何するんですかー!」


 無能は呻く。


「何するんですかじゃねーよ!爪楊枝でどうしろってんだよ!」


「あれー?おかしいですねー」


 大丈夫かこの女神。


「えーと、他にはー」


 女神は帽子を調べる。


「まずい。奴が来たぞ」


 公園の入り口に茶色い粘体が現れる。


「無能さん。逃げてください。私がここで引きつけます」


「お前がやばいだろ」


「大丈夫。私の体は時間が止まってるんです。あんな攻撃では傷一つ付かないのですよ」


 そこで無能はピーンときた。


 無能は女神の両足首を掴むと、持ち上げ、


 粘体に叩き下ろす。


 びたーん!


 もう一度持ち上げ、叩き下ろす。


 びたーん!


 最後にもう一度、叩き下ろす。


 びたーん!


 茶色の粘体はぐずぐずと地面の染みになる。


 しばらく様子を見るが、再生するようなことはない。


「よし」


 無能は額の汗を拭いた。

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