第3話 世界の痛み
「ひどいんですよ!」
です代はぷんすか怒っていた。
「だから悪かったって」
事情も聞かずに放置するわけにもいかず、無能は少女を部屋に連れてきていた。兄と二人暮らしなのだが兄は仕事で一週間は帰ってこない。
「私はハタキですか?ハタキなんですか!?」
俺は苦笑し、
「だってお前の体、時間止まってるんだろ?傷一つつ付いてないし溶けてもいないじゃないか。服も」
「傷は付かなくても痛みはあるんですよ!」
どういう構造だ。
無能は改めてです代を見やる。
身長は俺より頭半分下、白いふわふわ帽子にスリットの入ったピンクのロングスカート、赤い上着を羽織っている。顔は俺の好みに近い。しかし胸はぺたんこだ。
そんなこちらの考えに気付かず、です代は告げる。
「六道無能(りくどうむのう)中学2年、14歳。身長160cm体重55㎏。成績は底のほう、得意科目は体育のみ。特技は喧嘩。名前でからかわれ、イジメにあう小学生時代を過ごし、中学生に入るころには磨かれた喧嘩スキルでいじっめっ子をイジメ返す。そのため周囲と折り合わず、登校不登校を繰り返す毎日」
です代はメモ帳を読み上げ、無能に聞いてくる。
「これで間違いありませんね?」
「どこ情報だよ!なんでそんなに詳しいんだ!」
です代は胸を張り、
「個人情報はすでに国にデータベース化されて管理されてるんですよ。で、私の上司にハッキングしてもらったんです」
「犯罪かよ!」
無能は呻く。
だがそれよりもまず聞かなければならないことがある。
「さっきの茶色い物体は何だったんだ?」
「ペインですよ?」
「痛み?どういう意味だ?」
です代はこちらを見つめ、
「『世界の痛み』ですよ」
「世界の?」
「はい」
です代は頷く。
指で宙に円を描き、
「この世界は100年周期で世界の『痛み』を調整してるのですよ」
「何で?」
無能は尋ねる。
です代は俺をじっと見つめ、
「この世界は必要以上の『痛み』で溢れてると思いませんか?」
「例えば?」
女神は頷き、
「例えば事故による痛み、病気による痛みなどです」
少年は口を挿む。
「痛みは体の異常を知らせる役目もあるだろ?それはおかしい事なのか?」
「いいえ、おかしくありません」
じゃあ何で、と無能は言いかけるがその前に、
「必要以上の痛みに問題があるんですよ」
です代は告げる。
「もしも、もう少し痛みが緩ければ強い麻酔薬などで正気を失ったりしなくて済むんじゃないですか?」
です代は続ける。
「もしも、もう少し痛みが緩ければ死に際まで苦しんで逝かなくて済むんじゃないですか?」
そしてもう一つ、
「もしも、もう少し痛みが緩ければ拷問などで気が狂うことも無くなるんじゃないですか?」
無能は言葉を失う。
その通りだ。
しばしの沈黙の後。
「そこでどうして『俺』が出てくる?」
少年は言葉を絞り出す。
女神は俯き、
「100年に一人だけ『世界の痛み』を調整をするための人間が、世界に選ばれると神界では教わりました」
「・・・俺はこれからどうなる?」
です代は目を伏せる。
「『ペイン』と相対することになります」
「これからもあんな化け物と関わらなくちゃいけないのか」
です代はぱっと顔を輝かせ、
(ぺたんこの無い)胸をどん、と叩く。
「そのために私が要るんですよ!」
少年の胸には言い知れぬ不安だけが去来するのだった。
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