第436話 龍児と刀夜

 龍児は皆にすべての秘密を打ち明け、その真実を晒した。


 彼の話によれば刀夜が生きていることは確実だろう。そしてきっと刀夜はリリアと幸せにしていると彼らは信じることにした。


 龍児への誤解は解けて彼らは和解をした。すべての話が終わった後、龍児は喫茶店を後にすることにした。皆から夕食を誘われたが、また明日から日本を出なくてはならないのだ。


 龍児は夕日を背にして高速道路をバイクで飛ばす。


 刀夜はちゃんと約束を果たしてくれただろうか?


 龍児はモンスター工場での出来事を思い出した。ボドルドの部屋で刀夜と出会い、彼はあの世界の秘密を打ち明けた後、龍児にこの今回の作戦を持ちかけてきた。


「本当にいいのか? この役は皆から恨まれる役だぞ?」


 刀夜は二つ返事で嫌な役割を受けてくれた龍児に目を白黒させていた。龍児がもっとごねるだろうと思っていた刀夜は説得の材料を用意していたのだが……それらは無駄となった。


「構わないさ」


「…………」


「俺はボドルドの奴に一泡吹かせてやりたくて我慢ならねーんだよ。だがお前の話によればタイムパラドックスのせいで俺は奴に手出しできねぇ」


 龍児の気持ちはよくわかる。刀夜もボドルドに対しては腹を据えかねている。その為に今回の計画を立てたのだから。


「だが俺の頭じゃ、お前のような悪計あっけいは思いつかねえ。お前のことだ確実なんだろ?」


 この作戦は確実に決まると刀夜は確信している。


「だったら俺はそれでいいぜ。その代わり奴にはきっちり落とし前つけてこいよな」


「わかった。約束しよう」


 龍児がそこまでの覚悟を決めて引き受けてくれるなら以前の歴史どおりに事は運ぶだろう。この作戦の要は龍児の演技力と忍耐にかかっている。


「ありがとう……龍児……」


 刀夜の口から聞きなれぬ言葉が聞こえた。


「ら、らしくねぇんだよ。お前は胸はって人を見下すように命令すりゃいいんだよ!」


 本当は別の言葉を用意していが素直な言葉が気恥ずかしくて言えない……


「……そこまで酷いか!?」


 人から見て自分はいつもそのように接しているように見られているのかと刀夜は軽くショックを受ける。


 茶化すつもりで言ったのだか刀夜の反応があまりにも面白く、龍児は思わず笑い声をあげずにはいられなかった。


「リリアちゃんのことも頼むぜ! あの娘はお前にゃ勿体ないほどいい娘だぜ!」


「……い、言われるまでもない……」


 恥ずかしそうに答える刀夜の背中を龍児は笑いながらバンバンと叩いた。


◇◇◇◇◇


「刀夜……こっちは全部片付いたぜ。そっちはちゃんとやれたか?」


 高速道路を飛ばす龍児の目の前にピンク色の花びらが通り抜けてゆく。


 また一枚、そしてまた一枚……


 次々と花びらが舞い、まるで嵐のように龍児を駆け抜けてゆく。


 龍児の走る眼前に花びらと光の渦が見えた。


「あぁ……見える……見えたぞ刀夜!」


 光の先に森が見えた。


 森の中に教室が物静かにたたずんでいる。


 建物は苔や草ツルに覆われ、鳥たちの憩の場と化していた。


 そのようなのどかな風景の前に、真新しい墓石が並んでいた。


 墓標には日本語で見知った名前が刻まれていた。


 周りには彼らを癒すかのようにピンク色の花が咲き乱れ。


 木々の間からそよぐ風に乗って花を散らしていた……





 龍児と刀夜 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍児と刀夜 ―異世界サバイバル― 滝ノ森もみじ @takinomori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ